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欧州、トランプ大統領のFRB叩きを警戒

2/28(火) 12:00配信

ニュースソクラ

米の親ロシアに軍事的な、反中政策に経済的な懸念

 欧州では、トランプ大統領の経済政策への期待から米国株が買われた、いわゆる「トランプ・ラリー」については長続きしないと冷めた見方が多い。

 確かにインフラ投資(10年間で1兆ドル)や大幅な企業減税(35%→15%)など財政刺激策は短期的にはドル高、株高につながった。しながら、古くはケネディ、レーガン、最近ではリーマンショックに直面したオバマ大統領による大幅減税などはいずれも景気後退からの脱出を狙ったものだ。

 現在の米国はほぼ完全雇用状態にあり、ここで大型の財政刺激策を採れば、インフレ懸念が高まる。FRBは急激な利上げに踏み切り、2~3年後には景気が冷え込むと推測される。

 そうはさせじと、トランプ政権がFRBの独立性を脅かす、との疑念も欧州では大きかった。もっと巨視的に見れば世界貿易の拡大、効率的な市場運営を否定するトランプ政権の経済運営は長い目で見て米国ならびに世界経済に悪影響を及ぼすことになろうとの冷めた見方が少なくなかった。

 「米国第一」(America First)政策、とりわけ保護貿易主義に対する批判の声はどこでも満ち満ちていた。「トランプ大統領は貿易赤字を単純に企業会計上の損失と同じに捉えているようだ。TPP(環太平洋経済連携協定)、NAFTA(北米自由貿易協定)といった多角的ラウンドを忌み嫌い、メキシコ、中国、ドイツなどの大幅赤字を示している国とサシで交渉して赤字を減らそうと考えている」と見抜いていた。

 このようなトランプ大統領の視野狭窄ともいえる見方について、ある著名な欧州のエコノミストは「貿易赤字の裏側には米国の過剰消費・過小貯蓄がある。身の丈を超えた消費という体質を直さない限り、赤字はなくならない。中国、メキシコの赤字を減らしてもほかの国からの輸入が増えるだけだ。ちょうど、1980年代に米国貿易赤字の5割を占めていた対日赤字が現在は同水準の5割の対中赤字に入れ替わったのと同じだ」と貯蓄=投資バランス論からその過ちを批判していた。

 シティのさるバンカーは「トランプは米国ラスト・ベルト(さび付いた工業地帯)の白人・高卒・高齢な労働者の熱烈な支持で大統領に当選できた。自動車、鉄鋼、機械産業をなど再興して雇用を確保することを約束している。しかし、自動車、鉄鋼などの価格は国際競争で決定される。まして設備も古く、生産性も低い米国にはもはや価格決定力は残っていない。インターナショナルに決定される価格を無視することは殆ど不可能だ。仮に無理矢理、輸入禁止や高関税で外部の影響を遮断しえたとしても、国民が高い車、高い衣服を買わされることになり、ほかの消費を減らすだけだ」と経済の論理を無視する行為に警告を発していた。

 彼は「トランプを支持した米国の貧しい労働者は、メキシコで生産の主力となっている安い大衆向け小型車を購入し、スーパーのウォルマートで中国産の安い日用品を買って生活している。メキシコに35%、中国に45%の輸入関税をかければそうした貧しい労働者の負担を増やすだけだ」と看破していた。

 そもそも、世界経済が21世紀に入り長期繁栄を続けた端緒は2001年の中国のWTO(世界貿易機関)への加盟である。そこから世界貿易が急速に伸びていった。

 アダム・スミスが分業の利益を説き、リカルドが貿易の比較優位論を展開した。サマーズ元米財務長官が説く「長期停滞」を打破するには、国家ないし企業がもっとも効率的な財・サービスの供給に特化(specialize)して生産性を引き上げることが重要だ。トランプ政権の保護貿易主義はまさに真逆のことをしている。

 トランプ大統領の親ロシア、反中国の動きやNATO(北大西洋条約機構)の軽視にもナーバスになっていた。ロシアに関して言えば、ウクライナをEUに加盟させて西側世界に取り込もうとしたのがプーチン大統領によるクリミア統合、ロシアに対する制裁を生んだだけにトランプ大統領の親ロシアのスタンスに警戒を強めるのは当然だ。

 NATOが弱体化すれば、プーチン大統領がバルト3国やモルトバなどに戦車を送り込んで米国がどう動くのか試す場面がくるだろうとすら想定する当局者もいた。

 一方でトランプの反中路線は欧州にとって不利益になると懸念する政策当局者が多かった。中国は英国、ドイツなどを旗頭に欧州諸国とは極めて親密な関係にある。

 メルケル首相はサミットなどを除けば、滅多に日本に来ないが、経済関係の緊密な中国には10年余りの在任の間に9回も訪中している。販売台数世界一を誇るドイツのフォルクスワーゲン社も1,000万台強の販売のうち400万台を中国で売りさばいている。

 中国にとってもEU(欧州連合)は最大の貿易相手である。もし、トランプ大統領による反中政策が中国経済の景気悪化に繋がれば、欧州もその連鎖で悪影響を受けるという懸念は大きかった。

 そもそも、「中国は現在でも世界の70か国にとって最大の輸出先となっている。好き嫌いは別にして、それだけ世界経済に中国は貢献している」ともいえるのにトランプ大統領はそういう現実を見ようともしない。

 習近平がダボス会議で米国に代わって自由貿易の重要性を力説する有様は実に情けない、と多くの識者が懸念を訴えていた。

 いよいよ、トランプ大統領は議会演説で、その政策を問うことになる。世界はどう評価するだろうか。

俵 一郎 (国際金融専門家)

最終更新:2/28(火) 12:00
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