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【完全レポ:スピッツ】バンドの30年、そしてこれからを示したツアー「“醒 め な い”」ファイナルを観た!

3/2(木) 19:45配信

RO69(アールオーロック)

スピッツが、全国ツアー「SPITZ JAMBOREE TOUR 2016 “醒 め な い”」のファイナル公演を2月17日に倉敷市民会館で開催した。RO69ではその模様をロングレポートでお届けする。

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●セットリスト
1.みなと
2.恋する凡人
3.日曜日
4.運命の人
5.コメット
6.空も飛べるはず
7.ビギナー
8.アカネ
9.グリーン
10.子グマ!子グマ!
11.放浪カモメはどこまでも
12.ヒビスクス
13.モニャモニャ
14.夢じゃない
15.楓
16.醒めない
17.けもの道
18.トンガリ'95
19.ハチの針
20.8823
21.こんにちは
(アンコール)
22.スパイダー
23.ナサケモノ
24.野生のポルカ


本来ならば、昨年12月の沖縄公演でファイナルを迎える予定だったが、途中、岡山と高知での公演が、草野マサムネ(Vo・G)の体調不良により延期され、年をまたぎ、この日の倉敷市民会館でのライブが実質上のツアーファイナルとなった。マサムネの「はからずもツアーラストになったので、すべてをぶつけるつもりでやります」との言葉に、会場からは「待ってたよー」と、温かい声も飛ぶ。

ライブは、セミアコのイントロが静かに響き“みなと”でスタート。セットリストはアルバム『醒めない』を中心にしているけれど、過去曲もバランスよくはさみこまれ、アルバムツアーでありながら、これまでの道のりが『醒めない』につながっていることを感じさせるような構成で、それがとても良かった。2曲目の“恋する凡人”は2010年のアルバム『とげまる』収録の曲だが、このシンプルなロックンロールの気持ちよさは、このところのスピッツのバンドサウンドをよく表す楽曲だし、4曲目“運命の人”は97年のシングル曲で、打ち込みのドラムサウンドが、むしろアナログな温かさを感じさせて、そこに乗る﨑山龍男(Dr)のドラムや田村明浩(B)のベースの有機的なサウンドは、よりバンドのアンサンブルを際立たせる。そして次に演奏された『醒めない』収録の“コメット”。その切ないメロディに、観客は思わず聴き入ってしまう。三輪テツヤ(G)の奏でるギターのアルペジオがより感情を揺さぶる。エンディングはサポートメンバーのクジヒロコ(Key)のピアノ音の余韻。しばしの静寂の後、大きな拍手が鳴り響いた。

MCでのトークには相変わらずほっこり癒されてしまうのだけれど、この日は、マサムネがお正月に実家に帰省した時の話。「3歳の姪っ子が、スピッツの写真を見ていたんだけど、この人は誰?とか聞いてくるから、これはテツヤくん、これは田村くんって教えてあげて。でも、崎ちゃんのことは聞かないの。そしたら姪っ子は『この人、﨑山!』って指差して。子どもはみんな﨑山を知っているらしい(笑)」とか、空港までのタクシーの中で、ドライバーに「草野マサムネさんですよね?」と訊かれ、面倒なので「弟です」と答えたら、しばらく間があって「僕、弟さんと友だちなんですよ」と返され気まずい思いをした話なども。らしくて、ゆるくて、こんな話もスピッツならでは。

そんなゆるさの後に「『醒めない』の中から元気めな曲を」と言って“グリーン”を披露。激しさと柔らかさが同居したこの曲の、《憧れに届きそうなんだ 情念が/あふれているよ あふれているよ》という歌詞は、すごくこのアルバムを象徴していると思う。スピッツのサウンドに乗る「情念」という言葉。その不思議なコントラストが面白い。田村の動きはどんどん激しくなる。続く“子グマ!子グマ!”の、ファンキーなギターカッティングとどうしたって耳に残るサビのメロディ、からの、《子グマ!子グマ!荒野の子グマ》の転調部分は、なんだかグラムロックみたいなギミック感とギラギラ感をも感じてしまうほどで、なんというか、この曲はやっぱりすごい曲だなと思う。ロックの魅力がすべて詰まってるみたいな曲。ライブ演奏で、より強くそう感じた。

ファンタジックに温かい、“モニャモニャ”から、過去の名曲“夢じゃない”へと続く流れにも、スピッツの新旧楽曲に通底している、自分だけの空想世界、大切な場所、いつでもそこに戻っていいという肯定感が漂って、バンドが30周年を迎えた今も、変わらずそこにいてくれる4人の姿が嬉しい。そして、“醒めない”での跳ねたモータウンビートを軸にしたロックサウンドからは、ライブはクライマックスへと上り詰めていく。ここからラストまで、まさにロックンロールのスリルを感じさせる演奏で突き抜けていく。いつもは演奏中ほとんど動きのないマサムネも、さすがに体が動きだす。完璧にロックバンドのステージング。歪んだベース音と不穏な照明が彩る“けもの道”で感じさせる疾走感、続く“トンガリ'95”でのガレージバンドのような荒々しさ。さらに、ヘヴィでダンサブル、なのに歌はどこまでもポップに甘く響く“ハチの針”は、スピッツのたどってきた音楽の歴史がぎゅっと濃縮されたようで、こんな曲で体が動かないわけがない。本編ラストは、『醒めない』でもラストを飾る“こんにちは”。再会を祝福するようなこの曲が、今日のこの日のライブにもとてもよく合っていた。

アンコールのメンバー紹介では、田村はぬいぐるみの「モニャモニャ」を巧みに操りながらのトークも。どうやら、ツアー途中から、田村はモニャモニャを使ってMCをするようになっていたらしい。それも「今日で最後」と惜しむと、マサムネは「50歳になったらモニャモニャと会話する能力は失われるんだね」と返して、会場の笑いを誘う。さらに続けて田村は「マジメなこと言っていい? 今日でツアーは終わりだけど、またツアーをやるし、続けていきます。あんまりないもんね、次のツアーの告知ができるのって」と語りかけると、大きな拍手が。そう、すでに記念すべき全国ツアーの日程が発表になっているのだ。

メンバー紹介の流れでは、マサムネが「谷村新司さんが、テレビで僕らの曲をベタ褒めしてくれてたみたいなので」と、ややモノマネ気味に“昴”を1フレーズ歌うなど、レアな場面もありつつ。そしてライブの最後の曲は、すべての生命の再生をテーマにしたような前アルバム『小さな生き物』に収録されている“野生のポルカ”だった。躍動感と祝祭感にあふれたこの歌は、まさに『醒めない』へと続くものであったし、《傷の記憶は「まあいっか」じゃ済まんけど》《さよなら僕の 抜け殻達よ》という歌詞は、スピッツがロックバンドとして、まだまだその先へ突き進んでいく覚悟を決めたようにも聞こえる。この曲があって『醒めない』があったんじゃないかとさえ思う。そして、バンドの30年を思う。過去があって今のスピッツへとたどり着いた、当たり前のことのようだけれど、それをきちんとバンドサウンドとして表現できているバンドは本当に稀有だ。そんなことを強く感じさせられた、素晴らしいツアーファイナルだった。7月から始まる次回ツアーのチケットも争奪戦になることは必至だが、なんとしてでも観ておかねばならない。(杉浦美恵)

RO69(アールオーロック)