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原子力発電の廃棄物を最終処分する候補地、選定の要件と基準がまとめる

スマートジャパン 3/3(金) 11:25配信

 原子力発電のリスクは短期間には消えてなくならない。使用済みの燃料は高レベルの放射性廃棄物になって、数万年かけて放射能を低減させる必要がある。国民全体にとって非常に悩ましい問題だが、避けて通ることのできない重大な課題だ。すでにフィンランドでは地下に埋設する地層処分施設の建設工事が始まっている。

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 日本国内では地層処分事業を担当する「原子力発電環境整備機構(略称:NUMO)」が政府の認可法人として2000年に設立された。一方で政府は2013年度に「原子力小委員会」を設置して、放射性廃棄物の処理方法や地層処分技術の検討を進めている。小委員会では地層処分施設の候補地を選定する要件と基準をとりまとめ、2017年3月2日に開いた会合で公表した。

 高レベル放射性廃棄物は使用済みの燃料を直接処分する場合のほか、青森県の六ヶ所村で計画している燃料の再処理によっても発生する。難航する再処理工場の運転が軌道に乗ったとしても、あくまで“中間処理”に過ぎない。

 再処理後に残る高レベル放射性廃棄物を“最終処分”するためには、現在のところガラスの中に閉じ込めたうえで、金属製の容器に入れて粘土で固めてから、地下300メートル以上の地層(岩盤)の内部に埋設する方法しかない。その状態で数万年をかけて、放射能が低減していくことをひたすら待つ。気の遠くなるようなプロセスが必要だ。

 当然ながら地層処分に適した場所は限られる。火山や地震の影響を受けにくく、地下水が流入してこないことが主な条件だ。地下深くにある地層ほど、岩盤が緻密で地下水の流れが遅くなる。酸素も少ないため、地下水と微生物が反応して金属を腐食させる可能性も小さい。こうした特性から、地下300メートルよりも深い地層に放射性廃棄物を埋設する方法が現在の主流になっている。

 そこで問題になるのが、地層処分施設を建設する場所の選定だ。政府は3段階の調査を実施して候補地を決定する。その前に調査を実施する候補地を抽出する必要があり、科学的な特性をもとに全国のマップを作成することになっている。そのマップ作成にあたって火山や断層の活動状況などを要件としてとりまとめ、候補地の適正・不適正の基準を数値で規定した。

火山・地熱・断層などの基準値を規定

 原子力小委員会がまとめたマップの作成基準は2つの体系に分かれている。1つは地質の環境特性と長期の安定性を重視した基準で、火山・地熱・断層などの活動を要件に設定して「好ましくない」場所の基準を規定した。もう1つは地層処分施設の建設・操業時や高レベル放射性廃棄物の輸送時の安全性に関する基準だ。地下と地上の堆積物の状況に加えて、輸送に欠かせない港湾からの距離を定めている。

 火山の影響を避けるために、新しく活動した第四紀火山(約260万年前~現在)の中心からの距離を基準に盛り込んだ。第四紀火山の周辺15キロメートル以内に複数の火山が分布していると、マグマの貫入・噴出の頻度が高まる。そうした地域は「好ましくない」場所であることをマップで示す。

 同様に地面の隆起・侵食が長期にわたって300メートルを超えてしまう可能性がある場所も地層処分には「好ましくない」。地下に埋設した高レベル放射性廃棄物が表出してしまうからだ。最近の10万年のあいだに90メートル以上の隆起量を示す沿岸部は、海水面の変動(最大150メートル)と合わせて危険性が高い。南関東や北陸の沿岸部が該当する。

 このほかに地熱の影響にも注意が必要だ。高レベル放射性廃棄物をカバーする緩衝材の温度を長期にわたって100℃以下に維持できないと、内部の放射性物質の崩壊による熱の影響を抑えられなくなる可能性がある。緩衝材の温度を100℃以下に保つためには、地中の温度を65℃以下に維持しなくてはならない。

 地中の温度は場所によって勾配(深度100メートルごとの温度上昇)に差がある。地下300メートルで65℃以下になる場所の勾配は15℃/100メートル以下であることが望ましい。北海道から東北・北関東と九州の火山地帯を中心に、勾配が15℃/100メートル以上の場所が分布している。地層処分には適さない地域だ。

 こうした各種の基準をもとに全国のマップを作成して、1つでも基準に該当する項目がある地域は「好ましくない特性がある」と推定する。1つも該当しない場合には「好ましい特性が確認できる可能性が相対的に高い」とみなす。何とも回りくどい表現を使うのは、マップ上で適性があると示された地域の住民からの反発を可能な限り避ける狙いがある。それほどまでに地層処分に対する国民の理解を得るのはむずかしい。

調査の完了時期は早くても2040年

 全国を対象に適性を示すマップを作成した後に、調査を受け入れる自治体の選定に入る。3段階の調査は文献に基づく広域の調査から開始して、次に調査の範囲を狭めてボーリング調査などを実施する。最後の第3段階では地層処分施設の建設に必要な数キロメートル程度の範囲に絞って、地下に調査施設を用意して測定や試験を長期にわたって継続する予定だ。

 調査を実施するNUMOは各段階の結果がまとまった時点で公開する。その結果をもとに該当する地域の知事や市町村長の意見を聞いたうえで、経済産業大臣が承認するプロセスになっている。大規模な発電所を建設する時に必要な環境アセスメントの手続きと同様だ。

 3段階の調査を完了するまでの期間は20年以上を想定しているため、早くても2040年くらいになる。その後に建設に向けた安全審査を経て工事に着手できる。2013年に着工したフィンランドのケースでは工事期間を7年と見込んで、2020年に操業を開始する計画だ。日本で同程度の工事期間を想定しても、操業開始は2050年代に入ってからだろう。

 これから着手する候補地の選定が難航することは十分に予想できる。NUMOは10年以上前にも調査の実施地域を募集したことがあり、2006年に高知県の東洋町が第1段階の文献調査に応募した。国から交付金を受けて町の財源を確保できることが理由だ。ところが町民の反発が強く、翌年になって応募を取り下げている。

 NUMOによると、調査に協力することで自治体には多額の収入と経済効果がもたらされる。第1段階の文献調査だけで国から年間に5億円以上の交付金が入り、第2段階の概要調査では交付金が2倍に増える。その後の交付金は未定だが、さらに金額が増えることは確実だ。

 実際に地層処分施設を建設・操業した場合には、固定資産税だけで年間に約29億円を見込める。さまざまな経済効果を合わせると年間に500億円以上になり、約2800人の雇用をもたらすと推定している。人口の流出や産業の縮小に悩む地方の自治体には大きな魅力がある。

 現在でも原子力発電所の再稼働を自治体が支援するケースは多く見られる。再稼働による経済効果を期待する住民は少なくない。原子力発電所から高レベル放射性廃棄物が大量に発生するリスクよりも、地域の活性化を優先させる判断が働いている。自治体や住民が当面の利益を重視する姿勢は安易に批判できない。

 とはいえ長年にわたって増え続けている高レベル放射性廃棄物の地層処分には相当の時間とコストをかけて取り組まなくてはならない。それにもかかわらず今なお原子力発電所を再稼働させて、使用済み核燃料を増やし続けることは正しい判断なのか。

 政府と電力会社こそ短期的な利益にこだわることなく、地層処分が必要な高レベル放射性廃棄物の増加を抑える決断を下すべきだ。重大なリスクを負うのは将来の世代であり、そのリスクを払しょくするまでに何万年もかかる事実から目をそらすわけにはいかない。

最終更新:3/3(金) 11:25

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