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中国は親族の金正男氏確認を許さない

3/3(金) 13:20配信

ニュースソクラ

事件の真相解明困難に

 マレーシアで2月に起きた金正日総書記の長男、金正男氏の殺害で北朝鮮の関与が濃厚になっている。核とミサイルの発射実験もあり北朝鮮と伝統的な友好関係を結んできた中国も、今後北朝鮮に厳しい姿勢で臨むのは間違いない。中朝関係の悪化は避けられない情勢だが、親族にマレーシア行きを許すかが、今後のカギになりそうだ。

 北朝鮮は、中国を担当する外務次官が中国の王毅外相らと会談するため、2月28日にあわただしく北京を訪れた。中国が北朝鮮からの石炭の輸入停止を発表したことなどを踏まえて、不協和音が出ている両国関係について意見を交わすものと見られる。

 訪問したのは李吉聖外務次官で、北朝鮮高官の北京訪問はほぼ1年ぶりだ。

 中国は、金正男氏殺害の直後の2月18日、国連安全保障理事会の制裁決議に基く措置として、年末まで北朝鮮からの石炭を輸入停止すると正式に発表している。

 中国の措置を受け、韓国の情報機関・国家情報院は2月27日、国会に報告を行った。

 この中で、国情院は、昨年北朝鮮の外貨収入33億8000億ドルの23%に該当する7億8000万ドルが減少する、との見通しを明らかにしている。これは北朝鮮の国内総生産(GDP)が2.5%ポイント減少し、30万人が職を失うことを意味する。「輸入停止が続けば、北朝鮮経済は麻痺する」との報告もあったという。相当なダメージになるのは間違いない。

 石炭は北朝鮮の輸出の主力産品で、国連制裁が強化される中、中国は昨年総額10億ドル(約1047億円)の石炭を北朝鮮から輸入し、その額も前年よりも増えていた。

 それだけに、突然の輸入停止は、「中国から北朝鮮への事実上の制裁ではないか」と受け止められている。

 欧州連合(EU)も中国に続き、輸入禁止を検討中だ。

 北朝鮮の朝鮮中央通信は2月23日、中国の石炭禁輸に対して、「対外貿易も完全に遮断するという非人道的な措置もためらいなく講じている」との論評を出した。この行為を行ったのは「『親善的な隣国』だと言っている周辺国」とし、名指しは避けながらも、婉曲に中国を批判した。中国への批判は、異例なことだ。

 中朝関係は、過去に何回か冷却期を迎えた。最も深刻だったのは、1992年の中韓国交正常化だろう。

 中国は経済成長著しい韓国との国交を数年掛けて準備し、慎重に北朝鮮側に根回しした。しかし北朝鮮は、中国の行動を「同朋国への裏切り」と受け取り、翌93年には、中朝国境地帯で北朝鮮軍が中国側に発砲する事件が相次いだ。記録によると、一般人を含む中国人5人が発砲の犠牲になっている。この時ですら、北朝鮮側は表だって中国を批判してはいなかった。

 海外メディアも、中朝関係に強い関心を示している。

 米紙ニューヨークタイムズは24日「最近両国の友好関係に、突然で深い亀裂があらわれている」と指摘。金正男氏殺害によって「中朝関係は戦後最悪の状況になりつつある」とした。

 同紙は、中朝関係に詳しい上海・華東師範大の沈志華教授が「毛沢東時代を含め、両国間にさまざまな紆余曲折があったが、表面的には双方が礼儀を守ってきたが、そんな友好は、もう神話になった。最近のように荒い言葉が行き交うことはなかった」との発言を紹介している。

 中国内部の動向に詳しい、香港紙サウスチャイナモーニングポスト(SCMP)は、25日「中国の北朝鮮石炭輸入中断の発表について、多くの専門家が、金正男殺害との関係を指摘している」と伝えた。

 一方、同紙は、「中国は石炭輸入停止以上の制裁は取らない」との見方だ。さらに今回の殺害事件が、為替操作問題などで緊張していた中国と米国が「共通の利益と協力の余地を見つける機会になるかもしれない」と報じ、米中関係にプラスの影響を与えるとの見方を伝えている。

 中国は金正男の殺害事件について慎重な姿勢を崩しておらず、マレーシアでの捜査の行方を見守っている。

 金正男氏の家族も中国やマカオで保護していると伝えられる。

 中国政府が、家族のマレーシア行きを許すかどうかが、今後の中朝関係を占うポイントになりそうだ。家族がマレーシアに行き、身元の確認を行えば、北朝鮮のメンツは丸つぶれになる。殺害されたのは、金正男氏ではないと主張しているからだ。

 逆に身元確認をしないままになれば、事件はうやむやで終わる可能性が高い。

 中国は、やはり北朝鮮が追い詰められることを望んでいない。親族による身元確認は実現しないだろう。

■五味洋治 ジャーナリスト
1958年7月26日生まれ。長野県茅野市出身。実家は、標高700メートルの場所にある。現在は埼玉県さいたま市在住。早大卒業後、新聞社から韓国と中国に派遣され、万年情報不足の北朝鮮情勢の取材にのめりこんだ。2012年には、北朝鮮の故金正日総書記の長男正男氏とのインタビューやメールをまとめて本にしたが、現在は連絡が途絶えている。最近は、中国、台湾、香港と関心を広げ、現地にたびたび足を運んでいる。

最終更新:3/3(金) 13:20
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