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子供が大人になる瞬間を描いた絵本

3/5(日) 10:01配信

ニュースソクラ

【いま大人が子供にできること(33)】子供にはわからない絵本を読んで、子供を知る

 父子家庭シリーズ三冊目(これでおしまいですが)は日本のおとうさんと幼稚園くらいの娘、の物語、『おとうさん』(つちだよしはる著、小峰書店)。

 春には桜の花びらを、夏には薔薇を、お父さんと娘は拾いにいき、川に流します。その川が海に流れ込むところにお母さんのお墓があるからです。

 ところが秋にどんぐりを拾いに行った時、お母さんが刺繍してくれた大事な大事なハンカチを彼女はなくしてしまいました。
 大泣きして眠った次の朝、おとうさんは夜なべして刺繍したハンカチをくれます。
それをみたとき、彼女は思うのです。もう泣くのはやめよう、私はおとうさんがだいすきなんだから……と。

 これは小さな子どもが大人になった瞬間を鮮やかに切り取った作品です。

 大人はみんな、意味がわかるでしょう。
 同じような経験をしたことのある子どもも、意味がわかるでしょう。
 なかには、そうか、そう考えればいいんだ…… と思って、読んだときに大きくなる子どもだっていないとは言えません。

 でも大多数の同じ年齢の子どもたちには、おそらく理解できないだろうと思います。

 子どもというのは経験していないことに関しては、とてもうとい人たちだからです。自分には起きなくてもこの子には起きたのだろう、と考えられるようになるまでだいたい六年生くらいまでかかるのです(これを社会性というわけですね)。

 それどころか、これは自分のうちだけだったのだ! ということに本当の意味で気がつくのには25歳くらいまでかかると思っていいでしょう(ええっ?と思うかもしれませんがホントです。人間はそれくらい自分中心に考える生き物なのです)。

 ですから自分の父親が殴る人だった場合、子どもというのは殴られるものなのだ、と思い、友だちのうちに遊びにいって、殴らないお父さんを見ると、その人の方が変わってると思うのが普通なのです。

 そのかわり自分が経験したことに関しては強い。
 大人よりはるかに深く感じたり考えたりしていることが多いのです。

 特に女の子はつらい思いをすると大人になってしまいますね。
 この絵本でも、このお父さんは、そう決心した娘の気持ちに気がついたかどうか……。
 いわれなければわかりませんよね。

 そういうわけで子どもの文学は1950年代、苦しんでる子どもを助けようとしはじめたときに分裂せざるをえませんでした。

 子どもにわかる子どもの本と、「特定の経験をした子どもと大人」にしかわからない子どもの本とに……。
 なので、いまの子どもの本には大人が読んでハッとするものがたくさんあるようになったのです。

 この『おとうさん』は2003年、まだ日本にイクメン、なんて言葉が流行る前の先駆者的な作品です。
 みかけは柔らかい色使い、優しい絵柄でいかにも小さな人向けに作られたように見えますがこの本の読者は主に大人でしょう。

 なのでいま、子どもといてどうしたらいいかわからなくなったときのヒントは、案外絵本のなかでみつかることがあるのです。
 それも絵本は具体的な事件が具体的な言葉とセリフで語られるので真似しやすい……。

 大人の女性で絵本を読むかたは増えました。
 でも男性で絵本を自分のために読もうとするかたはまだまだ少ないのではないでしょうか。

 一度、お試しください……。
 どんな内容のものが欲しいのかおっしゃっていただければ、図書館の司書がお手伝いいたしますので、ご遠慮なくお訊ねくださいね。

■赤木 かん子(本の探偵)
1984年、子どもの本の探偵としてデビュー。子どもの本や文化の評論、紹介からはじまり、いまは学校図書館の改装からアクティブラーニングの教えかたにいたるまで、子どもたちに必要なことを補填する活動をしている。
高知市に「楽しく学校図書館を応援する会」として学校図書館モデルルームを展開中……。
著書多数。

最終更新:3/5(日) 10:01
ニュースソクラ