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過酷な現実に「打ちのめされていた」 沖縄の夜の街で生きる少女たちの記録「裸足で逃げる」著者・上間陽子教授インタビュー(1)

3/5(日) 13:30配信

沖縄タイムス

 沖縄の夜の街で生きる少女たちの4年間をつづった著書「裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち」(太田出版)が2月、発売された。筆者は琉球大学教育学部研究科の上間陽子教授。2012年から16年にかけて調査した少女たちの過酷(かこく)な記録だ。「調査開始時には、打ちのめされていた」と振り返る上間教授はどんな思いで本書をつづったのか、少女たちの状況はどう変わっていったのか。インタビューした。(デジタル部・與那覇里子)

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 著書には、6人の少女がメーンに描かれている。恋人に暴力を振るわれ、キャバ嬢として働くシングルマザーの優歌。中学2年で集団レイプされ、子どもを育てながらキャバ嬢として働き、中絶手術に向かう亜矢。高校2年で出産し、恋人から暴力から逃げ、看護師専門学校に通う鈴乃らだ。

-タイトル「裸足で逃げる」に込めた思いは
 
 沖縄には「ユイマール(相互補助)」という共同体的なものがあるとされているが、例えば、○○はどこの店で働いている、◯◯はセックスさせてくれるといった情報が男の子たちの中で出回り、性的な視線にさらされ、少女たちは生きていきにくい状況にある。調査をしながら彼女たちは自分で何も持っていないことが嫌になるくらい分かった。それが「裸足」も、「逃げる」もメタファー(隠喩)。彼女たちは、何も持たずに逃げ遅れている。それは逃げる先がないからでもある。だから、逃げてほしいという思いと、社会は逃げられるようにしてほしいという思いをこめている。

-沖縄だからあることなのか。

 そうではない。暴力の問題は、どこでもあり得ること。

-ネットでは、「数十年も沖縄で生きてきて、こんな人たちを見たことがない」とのニュアンスの書き込みもあった。

 そうした書き込みを見る時間がないので、お書きになった人がどういった社会的ポジションにいるのか、どういった育ちをされているのか分からない。

 でも、たしかに役所の生活保護課の担当者や彼女たちの生活に接触する人たちでも、彼女たちの生活については読み解けないということはあった。たとえば窓口で、女の子が震えながら自分のことを話そうとしたり、仕事場がキャバクラでという話をしたら、いぶかしげな顔をする人もいる。本当に見えていないのだということを痛感する。でも、その方たちも、私の講演会に来て風俗で働く子に対して、「何も考えてこなかった。ただ思考停止していた」と、泣きながら話す場面などは見ている。沖縄で育つ、いわゆる勉強のできる人は、早く地元を離脱することもあって、実情をあまり知らないんじゃないかと思う。

 -亜矢の中絶手術をする女医が、「誰の子ですか」「性病をもっているかもしれない」と問う描写がある。

 カルテへの記載事項もあり、質問によっては妥当なものもある。でも性病を持っているかもしれない、だからここでは手術ができないかもしれないよと脅すのは、医療行為者として不適切だと思う。そして、それは手術を受けたいと思う女性にとっては、心理的ダメージを与え、社会への不信感をつくるものだと思う。亜矢はすぐに怒って、女医に反論しようとした。そうしなければ、ずっとばかにされたり、おとしめられたりしてしまう。亜矢のけんかっ早い性格は、こういう常に攻撃にさらされている環境の中に置かれてきたからだと分かった。

-でも、女性たちがすぐに変わることは難しい。

 それはそうだと思う。でも、本を読んで、自分のことを考えたりできるようになるといいなと思っている。例えば、少女たちとの出来事を重ね合わせて、私も同じようなことがあって嫌だったとか、とてもつらかったとかは、女性たちの「語られていない体験」のなかにあるのではないかと私は思っている。女性たちが、自分の語られていない体験とつながるものとして、彼女たちの体験をとらえることがあれば、私の会っている女性たちの理解にもつながっていくかもしれない。

-ここ数年、「貧困」をテーマにした記事が頻繁に取り上げられるようになって、簡単に消費されている感じがする。自分より下がいて安心するという今の日本社会があると思う。未成年の夜の街の話もそうなりかねない。

 貧困を扱う言説に関しては、悪くないものもあるけれど、悪いものもいっぱいあると思っている。簡単に人をかわいそうがったり、扇動的にあおったりして消費しないでほしいという思いはある。本は、かわいそうな感じや扇動的な感じにはしたくなかった。だから筆致やどのデータを使うかには気をつけた。

 もともと調査自体は、仕事のことを中軸に聞き取るもので、彼女たちは生きるためにその仕事をしているし、その仕事を続ける工夫や技術もたくさんある。ただ、すごく過酷で、未成年が働く業界としてふさわしいとは、私は思っていない。また、その仕事を選ぶプロセスには、生活上の大変なことが重なっており、純粋に選択したとは言い切れない事情もある。
調査でお会いした女性には今、キャバ嬢をしながら、バーでも働いている方もいる。それはとてもバランスのいい働き方ができるようになったということだと思う。だからといって、熟達した職業人になることが先にあったのではなくて、子どもを育てなくてはならなくて、生活があって、生きていかないといけない。生活に合わせて選ばれているのが職業。子どもと、二人で生活していくためのお金が必要で、だからキャバ嬢になっていくという、生活を包括的に描くことが大事だと思っている。

 今回、本としてまとめることについては義務感が強かったが、共同研究者の打越正行さんと一緒に彼女たちの仕事の話を聞く調査自体は、いろいろな発見があった。もちろん必要な支援はしたが、支援が先ではなく、これ以上、彼女たちを危ない目に遭わせたくない、ひとりぼっちにしたくないと思った時に、言葉をかけて一緒に動いた。

 美談にしないために、いい話も入れなかった。それは分析とセットじゃないと書けないことだから。彼女たちがどうやって、なんとか居場所を獲得していったかという点に絞ろうと思った。

【上間陽子(うえま・ようこ)】1972年、沖縄県生まれ。琉球大学教育学部研究科教授。専攻は教育学、生活指導の観点から主に非行少年少女の問題を研究。本書が始めての単著となる。

最終更新:3/6(月) 0:15
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