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ヴェンゲル退任という未来への歩み…アーセナルは最愛の人と決別すべきか/コラム

GOAL 3/8(水) 21:10配信

「残念だけど、もう終わりにしよう」

水曜日の夜、夕闇に包まれるエミレーツ・スタジアムに訪れた多くのアーセナルファンは、最愛の人へ別れの言葉を伝えざるを得なかった。ある者は激しく感情をむき出しにし、ある者は心のなかで、しかしながら明確な意思を持って、愛する者への決別を宣言した。

永遠に思われた2人――アーセナルというクラブ、もしくはファンと、アーセン・ヴェンゲル監督の関係は間もなく終焉を迎えることになるだろう。いや、もう終わらせなければいけない。

1-5の惨敗を喫したチャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦ファーストレグを受け、アーセナルがバイエルン・ミュンヘンに勝てると期待した者はいなかったはずだ。その中にはヴェンゲル、選手、そして試合前に監督退任要求デモを行ったファンも含まれる。

90分が経過した後、ただでさえ火の車だったアーセナルはさらに油を注がれたかの如く、燃え上がった。大方の予想通り、今年もベスト16で欧州の舞台から去ることになったのだ。

大変残念なことに、ここ数年のアーセナルはいい意味で人々を驚かせるようなことがない。興奮されることもない。変わりにもたらすのは、いつも失望である。CL行きのチケットは辛うじて手をするが、毎年準々決勝を前にビッグイヤー行きの列車から降りる……。毎年その繰り返しである。

デモに参加したファンの立場になって考えてみるといい。

ファーストレグで完全に希望を打ち砕かれ、土曜日のリヴァプール戦(1-3)でトップ4から転げ落ち、セカンドレグでは(不運な判定があったにしても)さらに恋人の醜態を見せられることになった。

アーセナル・サポーターとして生きることに意味があるのか――。

スタジアムから家路につくファンの中に、そんな絶望に駆られる者がいたとしても、決して不思議ではない。




■エジルとサンチェスの獲得で“言い訳”はできなくなった

過去10年を振り返ると、アーセナルは期待を裏切り続けてきた。それでも、ヴェンゲルが“言い訳”をする正当な理由はあった。

例えば彼らはエミレーツ・スタジアム建設に費やした負債を抱えながら戦っていた。毎年のように中心選手は金やトロフィーを求めて去っていき、そのたびにチーム作りの再考を求められた。エマニュエル・アデバヨール、サミル・ナスリ、セスク・ファブレガスにロビン・ファン・ペルシー……。挙げていけばきりがない。

そんな台所事情の中で、毎年CL出場権を獲得していたのだから、立派なことだった。

ファンにしても、心のなかでは自分たちのクラブがタイトルを獲得するのが難しいと分かっていた。毎シーズン、タイトル争いから脱落して怒りを覚えようとも、マンチェスターの両雄よりリーグチャンピオンに遠いと分かっていても、現実を受け入れてきた。

ただし、メスト・エジルを獲得したことですべてが変わった。

クラブにとって、エジルを迎え入れたことは一種の“意思表示”だった。ドイツ代表MFの獲得に投じた金額は4250万ポンド(約73億円)だった。長年、アーセナルを支えてきたファンへ向けて「再びタイトルを目指して動き出す」と宣言するようなものだったのだ。

アレクシス・サンチェスにしてもそうだ。エジルの到着から1年後、ノース・ロンドンを訪れたチリ代表ストライカーはバルセロナで数々のタイトルを獲得し、ウディネーゼやリーベル・プレートで得点を量産した実績を持っていた。後に中心選手としてコパ・アメリカ連覇に貢献した事実を見ても、能力の高さに疑いの余地はない。

サポーターはあうんの呼吸、あるいは絶妙なアイコンタクトでクラブの意思を受け入れ、再び戦闘態勢を整えた。もちろん、頂点へ向けたサポートの準備である。

二人のスーパースターが訪れたことで、アーセナルの輝かしい時代は再び幕を開ける……はずだった。そう、実際にはそうはならなかったのだ。アーセナルは彼らが訪れるまでに凡庸なチームとなってしまった。彼らのクオリティを発揮できる環境になかった。あるいは、そうした環境が二人のパフォーマンスを落ち着かせてしまったのかもしれない。

もはや「他のクラブと争うだけの資金力がない」という言い訳は通用しない。アーセナルはグラニト・ジャカを獲得するために、チェルシーがヌゴロ・カンテに費やした以上の移籍金を支払っている。他にもダニー・ウェルベックやカラム・チェンバース、ルーカス・ペレスやアレックス・オクスレイド・チェンバレンらに大金を費やしたが、今のところ目立った成果は上げられていない。

アーセナルに加入してくる選手は、もともとのレベルがどうであれ、最終的には“ありふれた普通の選手”になってしまうのだ。

実績を見ても、明るい要素はない。過去3シーズンで獲得したタイトルはFAカップのみ。イングランドでは重みのあるタイトルだが、プレミアリーグやCLに比べるとどうしても見劣りしてしまう。特に外国籍選手を引きつける要素にはならない。

過去3シーズンで1つのタイトルのみというのは、「アーセナルには来ないほうが良い」と警告しているようなものなのだ。






■英国のEU離脱、ドナルド・トランプ、次は……

昔がどうだったかはさておき、少なくともヴェンゲルは現時点でアーセナルというチームを客観視できていない。彼は何かうまくいかないことがあると原因を分析しようとする。しかし、原因が特定できているのかいないのか定かではないが、どちらにしても同じようなことが起こるとその都度驚いている。

毎年のように繰り返されるけが人のトラブル。

勝負どころで勝ち点を落とす勝負弱さ。

CLのベスト16で家路につく負のルーティーン……。

彼は今なお、アーセナルのカギを握る人物だが、契約延長に関しては言葉を濁している。ファンだけではなく、選手にまで混乱や不信感を与えてしまっている。エジルは自身の契約延長について、プロフェッサーの去就を待って判断すると明かしている。

しかしながら、来シーズンの監督がどうなるか分からない中で、アーセナルはどうやって新しい選手を獲得できるというのか。ヴェンゲルが言葉を濁している間に、どれだけ多くの新監督候補の名前が消えていくことか。もし仮にアーセナルの監督であり続けることを望むのならば、クラブを成功に導けるプランをいつ披露するのか。

毎年のようにやってくる偽りの希望と敗退のサイクルに、ファンはもううんざりしている。

クラブが決断に躊躇している理由の一つは、アレックス・ファーガソン退任後のマンチェスター・ユナイテッドの窮状を見ているからかもしれない。デイヴィッド・モイーズ、ルイス・ファン・ハール、そしてジョゼ・モウリーニョをもってしても、栄光の時代を取り戻すには至っていない。

だが、時代の終わりは、いずれやってくるのだ。




アーセナルがトップ4をキープしたいなら、まずはヴェンゲルを監督の座から降ろさなければならない。スポーツディレクター職を構え、有能な監督を連れてくる必要があるのだ。

もしシーズン終了まで猶予が与えられたとしても、CL出場権を逃せば、もう逃げ場はない。EU離脱を決断したイギリス国民、ドナルド・トランプを大統領に選んだアメリカ人たち、そして次に機能しないシステムやリーダーの交代を強く求めているのはアーセナルファンである。

正直なところ、心の準備が整っていないファンは多いだろう。20年も続いた長期政権の終焉を受け入れるのは、容易いことではない。

しかし、決断のときは迫っている。

選択肢は2つだ。

ヴェンゲルが留任し、同じような日々の繰り返しに耐えていくこと。

ヴェンゲルが退任し、ユナイテッドのように苦しい日々を送ることになったとしても、新しい時代の扉を開いていくこと。

あなたは……特にあなたがアーセナルファンであるとしたら、どちらの未来を望むだろうか。

文=ピーター・ストーントン/Peter Staunton

GOAL

最終更新:3/8(水) 21:10

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