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オニール英前政務次官、米中対立なら「日本は間で立ち往生」

3/8(水) 12:00配信

ニュースソクラ

ミスター「ブリックス」、オニール英前政務次官インタビュー(下)

 ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント元会長で英財務省の前政務事務次官であるジム・オニール氏は、自他ともに認める中国通だ。ブラジル、ロシア、インド、中国の4大新興市場を「ブリックス」と命名し、一躍その名を知られるようになった同氏に、アジアインフラ投資銀行(AIIB)やブレグジット、トランプ政権などについて話を聞いた。 (聞き手は肥田美佐子)

――トランプ大統領は、環太平洋経済連携協定(TPP)の離脱を宣言する大統領令に署名した。TPPは、米国のアジア回帰の外交政策「リバランス(再均衡)」の要だった。一方、あなたは『ウォール・ストリート・ジャーナル』とのインタビュー(16年11月18日付)で、グローバリゼーションが危機に陥っているというポピュリスト的見方は単純すぎると述べている。

 今でも、そう思っている。極めて認識が甘い見方だ。過去20年間、世界貿易に最も大きな影響を与えてきたのは、中国やインドなどのブリックスだ。中国は今や、対70カ国において最大の輸入大国だ。米国は、自国のみが世界貿易にとって重要であるかのように振る舞っているが、バカバカしいほど底の浅い見方だ。

 世界貿易の未来は、中国やアフリカにかかっている。また、インドとパキスタンやバングラデシュとの貿易にかかっているのだ。米国が他の国々とのかかわりを減らすとしても、グローバリゼーションの未来がそれで決まるわけではない。

 トランプ政権の保護主義を批判する報道には賛成だ。現政権の経済顧問らの考えは非常にネガティブかつ短絡的で、驚いてしまう。輸入品への高関税は、米経済にインフレを招くというのに。

 米国の経常収支赤字の原因が、国内の(民間)貯蓄投資バランスにあるとすれば、つまり、米国内の投資が貯蓄より多いせいで経常赤字が生じているのであれば、それを補うための外資導入が必要だ。輸入品への関税で、経常赤字の永続的な解決を図ることなどできない。

 フォード自動車のような米企業はトランプ政権からプレッシャーを感じており、トヨタ自動車もそうかもしれない。だが、トヨタのグローバルな未来は、トランプ大統領が言うことよりも、中国やインドによるところが大きい。

 最も重要なのは、貿易は主に相手国の国内需要の相対的比率によって決まるという点だ。先に述べたが、中国は世界70カ国にとって最大の輸入大国になったが、そのいずれの国とも貿易協定を結んでいない。日本にとって中国は最大の輸出市場だが、日中には自由貿易協定など存在しない。

――米国のTPP離脱は中国に恩恵をもたらすだけだ、という指摘もある。

 おそらくそうだろう。アジアの他の国々が賢明であるならば、米国抜きでTPP交渉を続けることになろう。続けるべきだ。米政権が中国を標的にするのは滑稽とも言える。かつて米国の政治指導者らは、同じことを日本に言ったものだ。故ロイド・ベンツェン氏(注:クリントン政権1期目で財務長官を務めた対日強硬派)が四半世紀前、日系自動車メーカーへの関税問題を交渉カードに使ったのを覚えている。米国側のこうした主張は、バカバカしすぎて思わず当惑してしまうほどだ。

――仮に米国の対ロ経済制裁が解除されるようなことがあった場合、ブリックスから転落する可能性もあると言われていたロシア経済にはプラスだろうが、日ロ関係の緊密化を目指す日本にとってはマイナスか。

 いや、そうとはかぎらない。ロシアの出方しだいだ。ブリックスの点から見れば、ロシア経済が上向けば上向くほど、日本を含む世界にとってもプラスに働く。グローバリゼーションに関して言えば、インドは中国ほど米国第一主義の影響を受けないが、(米国からの)アウトソーシングが盛んな分、リスクもある。

 とはいえ、インド経済の未来はインド自身にかかっている。インドの総人口は13億人超、米国の4倍以上だ。トランプ大統領の影響など心配する必要はない。

――米中関係が悪化した場合、日本が板挟みになるという懸念の声もある。

 同意見だ。日本は米国と中国の間で立ち往生するだろう。他のアジア諸国もそうだ。中国との貿易を取るべきか、米国に付くべきか、と。だが、繰り返すが、過去20年にわたって、日本に貿易面で大きな恩恵をもたらしてきたのは中国であって、米国ではない。経済面から見れば、日本は中国ともっと手を組まねばならない。米中のバトルで米国を支持することは、日本にとってマイナスだ。

――2017年の世界経済において、最も明るい材料は何か。逆に最大の懸念は? 

 明るい材料は、世界にとって最も重要な中国の消費者だ。国内総生産(GDP)の成長率は減速しているが、中国の消費は今も10%の成長率を記録している。昨年の6.7%というGDP成長率でさえ、日本経済の3年分に匹敵する数字だ。

 一方、懸念事項は、米英、欧州などにおけるインフレだ。まだデフレ気味の日本でさえ、インフレの可能性がある。世界でインフレが進みそうなことから、各国で量的緩和策に終止符が打たれるかもしれない。利上げが金融市場にどのような結果をもたらすかは未知数だ。過去30年にわたって見られたデフレ圧力に終焉が訪れつつあることを示す兆しが、大きくなっている。

■聞き手 肥田 美佐子(ジャーナリスト 在NY)
ニューヨーク在住ジャーナリスト。東京都出身。「ニューズウィーク日本版」編集などを経て1997年、単身渡米。米広告代理店などに勤務後、独立。08年、ILO(国際労働機関)メディア賞受賞。米経済、大統領選など幅広く取材。現在、経済誌を中心に寄稿。カーリー・フィオリーナ元ヒューレット・パッカードCEO、ジム・オニール前・英財務省政務次官、シカゴ連銀副総裁、トム・リッジ元国土安全保障長官など、米(欧)識者への取材多数。

最終更新:3/8(水) 12:00
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