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微妙なトルコ・ドイツ関係 トルコ外交官の亡命申請続々

3/10(金) 13:00配信

ニュースソクラ

国内弾圧で欧州と溝、難民問題で駆け引き

 2016 年 7 月 15 日のトルコクーデター未遂事件以降、トルコとドイツの関係が微妙に変化してきている。同事件は、トルコのイスラム化政策を推し進めて大統領の権限を拡大しようと独裁化に傾くエルドアン大統領に対し、軍部の一部がクーデターを起こしたものだが、失敗した。

 当時、一般市民を含め、死者約 290 人を出している。その後も、エルドアン大統領は、同クーデターにかかわった疑いで、軍人・警察官・教師をはじめとする公務員、ジャーナリストを逮捕し続けている。現在までに公表されている逮捕者数は、10 万人にものぼっている。こうした措置に対し、人権抑圧としてドイツをはじめとする欧州では反発する声が高まっている。

 さらに、ドイツ、トルコ関係を悪化させているのが、トルコ政府が2月28日にドイツ紙ウェルトのデニス・ユクセル特派員を逮捕したことだ。ユクセル氏はトルコ出身だが、ドイツの国籍も持つ二重国籍。エルドアン大統領の婿のエネルギー相のメールをハッキングした容疑だ。独外相が「解放」を求め、28日には独主要紙や著名ジャーナリストが解放を求める署名集めをはじめ、一般市民による街頭デモも始まった。

 一方、ドイツの公共放送局 WDR と NDR 、および南ドイツ新聞がまとめた 2 月 23 日付 データによると、クーデターを理由として、2017 年 1 月までに、計 136 名のトルコの外交 官が、ドイツに亡命申請を出している。外交旅券 を保持している NATO(北大西洋条約機構) の軍人40人も含まれている。申請者数は、増加傾向にある。

 トルコ のフィクリ・イシク防衛大臣は、ドイツ政府に対し、その申請を却下するように、強く 要請している。亡命阻止の理由として、ドイツへの亡命申請者は、クーデターの発端となった市民運動の指導者で、反エルドアンのフェトフッラ ー・ギュレン師に関与していると主張している。

 ドイツにとって悩ましいのは難民問題だ。ドイツは、増え続けたシリアなどからの難民をトルコにとどめる一方、難民認定申請者の審査を急ぎ、ドイツ滞在資格のない難民の出身地への帰還にも取り組んでいる。ドイツ連邦移民・難民管轄局(BAMF)にとっては、トルコとの関係悪化は避けたいところだ。

 トルコからの「政治亡命申請」が、難民の強制送還に影響を与えないよう、気を配らなくてはならなくなっている。

 ドイツの難民問題は2015 年夏の大量流入で一気に緊迫化した。メルケル首相はその対策として、トルコ領内に難民をとどめる代わりに、トルコの EU 加盟を促進するという外交駆け引きを展開している。

 しかし、クーデター未遂事件をはじめ、エルドアン大統領のイスラム化と独裁化傾向で、双方の信頼が薄れてきている。 2 月 17 日から 19 日のミュンヘンでの安全保障会議への出席のため訪独したトルコ のビナリ・ユルドゥルム首相は個人の名前で、エルドアン大統領がイニシアティブをとっている国民投票、憲法改正賛同へのキャンペーン集会を開いた。

 憲法改正が国民投票で認められると、大統領の権限が拡大、議員の権限が大幅に制約されることになる。約 200万人のトルコ系住民(未成年者を除く約140万人にトルコ選挙権がある)がドイツにいるとはいえ、なぜドイツでトルコの内政に関する活動をするのかと、ドイツでは反発の声が上がっている。

 エルドアン派が国外のトルコ国籍を持つ人々にも呼びかけているのは、トルコ国内での支持が減少し始めているからだ。

 欧米にとって、トルコは政治地理学上、対イスラム国および対ロシア戦略基地として非常に重要なポジションにある。しかし、トルコ 市民のデモ弾圧、ジャーナリストへの言論の自由抑圧、死刑再導入など専制君主化傾向にあるエルドアン大統領の動きに、EU 加盟国は民主主義が侵されるているとして、トルコの EU 加盟には難色を示し始めている。

 ドイツの連邦議会議員と防衛大臣は昨年、トルコ領内のNATO 基地に駐屯中しているドイツ軍兵士たちを訪問する予定だったが、エルドアン大統領に阻止された。その後、外交交渉で訪問が可能になったが、後味の悪さが残っている。

 強力な権限を掌握し始めているエルドアン大統領の最大の弱みは、トルコの経済の伸びが、 急速に頭打ちになってしまっていることだ。度重なるトルコ領内でのイスラム国やクルド人によるテロで、トルコの最重要ビジネスであ観光業が打撃を受け、収益が悪化している。

 昨年、原因不明ではあるがトルコ軍がロシア軍のジェット戦闘機を撃墜してしまったため、エルドアン大統領は、ロシアのプーチン大統領に頭が上がらない。そのうえ、欧米から人権面での非難が高まるにつれ、ロシアとの接近が目立っている。難民問題では協力する必要があるにもかかわらず、ドイツとトルコの溝は広がりつつある。

■シュヴァルツアー節子(在ミュンヘン・ジャーナリスト)
慶応大経済卒、外務省専門職として在英国大使館勤務、オックスフォード大学留学。ドイツでの日系企業勤務を経て、大手新聞の助手など務める

最終更新:3/10(金) 13:00
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