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韓国大統領選 北朝鮮の脅威が保守派の追い風に

3/13(月) 14:00配信

ニュースソクラ

北のミサイルに対抗する米軍の武力行使を懸念

 3月6日午前7時34分、北朝鮮の弾道ミサイル3発が、日本の排他的経済水域(EEZ)内に着弾した。韓国軍の合同参謀本部の発表によれば、北朝鮮が発射したミサイルは合計4発で、発射場所は東倉里(トンチャンリ)発射場、平均飛行距離は1000kmあまりで、最高高度は260kmあまりだという。

 北朝鮮のミサイル発射は、先月12日に「北極星2型」中長距離弾道ミサイル(IRBM)を発射してから22日ぶりのことだった。一部の韓国メディアは、発射場所が昨年2月に発射した長距離ミサイル「光明星4号」と同じ東倉里である点から、今回のミサイルが新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)である可能性に注目した。だが合同参謀本部は、数発が同時に発射されたこと、飛行距離が1000km程度であることから、「ICBMの可能性は低い」と結論づけた。

 朴槿恵大統領の職務停止によって、安全保障の指令塔が不在の韓国では、今年に入って度重なる北朝鮮の挑発に、国民の不安が増大している。特に、対北朝鮮強硬派の面々が形成するトランプ政権が、北朝鮮への先制攻撃論や、金正恩政権転覆というオプションを考慮している中で、北朝鮮の今回のミサイル発射が、アメリカの武力行使を誘発するのではとの懸念が強い。

 1953年に朝鮮戦争が休戦して以降、64年間も休戦状態という「不安に満ちた平和」を享受している韓国国民にとって、北朝鮮は韓国の「主敵」であり、韓国の平和を威嚇する存在と思われてきた。そのため、北朝鮮をめぐる安保問題は、韓国政治で最重要のイシューとなっており、いわゆる「北風」と呼ばれる北朝鮮の威嚇は、これまでの大統領選挙に大きな影響を及ぼしてきた。

 1987年の第13代大統領選挙では、 盧泰愚(ノ・テウ)、 金泳三(キム・ヨンサム)、 金大中(キム・デジュン)候補が三つ巴の戦いとなった。この時、計115人の死者を出した「大韓航空機爆破事件」が勃発。選挙前日に、爆破犯である北朝鮮工作員の金賢姫(キム・ヒョンヒ)が韓国へ強制連行されたことが大きく作用し、民正党の盧泰愚候補が当選した。続く1992年の14代大統領選挙では、選挙の2ヶ月余り前に、韓国国内で地下活動を繰り広げた大規模スパイ集団が摘発される「朝鮮労働党中部地域党事件」が発生した。特に、当時野党の大統領候補だった平民党の金大中候補の側近が事件に関与したとの噂が広がり、保守系の統一候補だった金泳三民自党候補に多くの票が流れた。朴槿恵(パク・クネ)候補が当選した18代大統領選挙でも、「北風」は登場した。盧武鉉(ノ・ムヒョン)前大統領が北朝鮮の金正日総書記との首脳会談で、「北方境界線(NLL)放棄」に言及した非公開の対話記録が暴露され、盧政権の秘書室長出身の文在寅(ムン・ジェイン)候補は窮地に追い込まれたのだった。

 「北風」は、今年の大統領選挙においても、朴槿恵大統領の弾劾政局と絡み合って、中道や保守の有権者の票を左右する重大な変数となる可能性が大きい。特に、韓国へのTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)配置の反対や、開城(ケソン)工業団地と金剛山(クムガンサン)観光の再開など、北朝鮮への宥和政策をアピールしてきた「共に民主党」の文在寅前代表は、今回のミサイル発射で「対北朝鮮従属だ」との攻撃に直面した。

 与党の「自由韓国党」(旧セヌリ党)は、北朝鮮のミサイル発射を受けて、「いまの状況下で文在寅前代表など野党側が無責任なTHAAD反対を続けるならば、北朝鮮を利する行為になる」と主張する。興味深いのは、与党はミサイルを発射した北朝鮮よりも、文在寅候補へのバッシングに集中したのだ。セヌリ党の非主流派議員たちが離党して作った「正しい政党」もまた、「今日、北朝鮮がミサイルを発射し、金正恩の究極の狂気の前に大韓民国の安保が脅威されている」と強調。「文前代表は、いったい何が怖くてTHAADに対する立場を明らかにしないのか」と批判した。当事者である文在寅前代表は、選挙事務所のスポークスマンを通じて、「今回のミサイル発射は国連安保理決議案に違反している。北朝鮮は、無謀な挑発行為を直ちに中断しなければならない」との声明を発表した。それでも、THAAD配置に対する明白な立場は、依然として表明しなかった。

 一方、盧武鉉前大統領の最側近の出身でありながらも、極左の文在寅候補とは一線を画して、むしろ中道的なスタンスで、中道や保守層から人気が急上昇している安熙正(アン・ヒジョン)忠清南道(チュンチョンナムド)知事は、安保問題に関して、保守的な立場を取っている。安知事は3月6日、北朝鮮のミサイル発射に対して、「ミサイル発射によって北朝鮮が得るのは、国際的な孤立だけだ」と述べた。その上で、「韓国政府は、自らの強力な安保態勢を土台にして、堅固な韓米同盟と北東アジアの国家間協力によって、徹底した防衛態勢を取るべきだ」として、北朝鮮を強く牽制した。安知事はまた、THAAD配置問題に関しても、「配備の撤回は、韓米同盟の地雷を踏むことであり、合意は尊重されなければならない」として、配備に賛成の立場を明らかにしている。

 「国民の党」の安哲秀(アン・チョルス)前代表は、北朝鮮の挑発が繰り返される現状に、THAAD配備について、反対から賛成へと立場を変えた。安前代表は、大統領選挙の序盤戦では、「THAAD配備は韓国の国益にならない」としていたが、2月12日に北朝鮮がミサイルを発射した後は、「THAAD配備の反対は、議論し直すべきだ」として、曖昧な立場を取るようになった。そして最近では、「韓米のTHAAD配備に関する交渉は、次の政権でも尊重しなければならない」と転向した。政界では、安前代表のこのような「右傾戦略」が、中道や保守層を意識したものと受けとめられている。

 自由韓国党の大統領選候補にまつりあげられている黄教案(ファン・キョアン)大統領職務代行(総理)は、今回の北朝鮮のミサイル挑発によって、保守層を中心に支持率が急上昇している。北朝鮮の挑発が度重なり、THAAD配備に対する中国の経済報復が続く中でも、黄総理は、「THAADの早急な配備が必要だ」と、連日強調してきた。黄総理は3月6日、北朝鮮のミサイル発射を受けて、直後に開いたNSC(国会安全保障会議)で、「核の傘」を意味する「拡張抑制力強化」を指示し、アメリカの戦術核配備問題を、大統領選挙の新たなイシューとして浮上させた。

 世論調査機関のリアルメーターによる3月第1週目の各大統領候補者の支持率は、文在寅36.4%、黄教案14.9%、 安熙正12.6%、 安哲秀10.8%、李在明(リ・ジェミョン)8.9%の順で、北朝鮮のミサイルが猛威を振るった状況下でも、文在寅候補の支持率が2週連続で最高値を記録している。政治の専門家たちは、崔順実(チェ・スンシル)スキャンダルによる朴槿恵政権に対する国民の怒りが、今回の大統領選挙で最大のイシューとなる中、「北風」の影響はさほど大きくはないと判断している。

 しかし、文在寅候補が圧倒的な首位を占めているこれらの世論調査の回答率はわずか7%~8%に過ぎない。しかも、進歩(革新)層の回答率が保守層の回答率より3倍も高い。憲法裁判所の弾劾審判宣告を控えて、現在のソウルの広場を埋め尽くしているのは、「反朴槿恵」の「ロウソク集会」でなく、朴槿恵大統領の弾劾に反対する右派による「太極旗集会」だ。去る3月1日の「太極旗集会」では、「ロウソク集会」の最大規模の時よりもはるかに多数の数十万の人波が、光化門や市庁一帯を、太極旗の色で染めた。朴大統領の弾劾で危機に立たされた保守勢が大結集したのだ。

 3月10日以後に下される予定の弾劾審判の結果によっては、北朝鮮から吹くこの狂風に乗って、現在は「当選確率0%」と言われている保守政権の奇跡の勝利も、不可能ではないかもしれない。

金 敬哲 (ジャーナリスト 在ソウル)

最終更新:3/13(月) 14:00
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