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次期韓国大統領に最も近い男、文在寅氏

3/15(水) 12:00配信

ニュースソクラ

親・北朝鮮で、反日派

 3月10日、 朴槿恵(パク・クネ)大統領の弾劾訴追案が、憲法裁判所で8対0という圧倒的多数で容認されたことで、昨年10月末から「仮死状態」に陥っていた朴槿恵政権は、完全に息をひきとった。 2013年2月25日に政権が発足してから満4年と10余日で、幕を下ろしたのだ。

 憲法裁判所の判決を、青瓦台(韓国大統領府)内のTVを通じて見守った朴前大統領は、言葉を失うほど衝撃を受けたという。まさか弾劾が容認されるとは、夢にも思わなかったのだ。裁判当日は、弾劾に賛成するデモ隊と反対するデモ隊の双方が、憲法裁判所の前に集まり、判決の瞬間を息をひそめて見守った。

 実は韓国国内で、朴槿恵前大統領に対する弾劾容認に、最初に反応したのは、ソウルの株式市場だった。弾劾の判決の前日にあたる9日、ソウルの株式市場では、「朴槿恵銘柄」と言われるEG(朴大統領の弟の会社)の株価が、8.9%も急落した。その反面、文在寅(ムン・ジェイン)関連株や中国関連株が急騰した。

 投資家たちは、朴大統領の弾劾案が容認されて大統領選挙が前倒しになると予測。次期大統領選挙の最有力候補である文在寅氏の同窓、知人などが経営する企業の株式を買い漁ったのだ。 同じく、THAAD(終末高高度防衛ミサイル)の韓国配備に対する中国の経済的報復によって、大打撃を受けている中国関連株が上がった。これは、文在寅氏がTHAADの配備に対して否定的な立場を取っていることと関連していると見られる。

 次期大統領候補者のうち、現在圧倒的な先頭を走っている「共に民主党」の文在寅前代表は今回の弾劾成立によって最も恩恵を受けたと言われている。文氏は1953年 1月、慶尚南道(キョンサンナムド)の巨済郡(コジェグン)に生まれた。学業成績は優秀だったが、貧しい家庭事情で慶熙(ギョンヒ)大学校法学部に首席入学し、奨学金を受けながら大学に通った。

 学生時代には、学生会長に代わって集会を主導するなど、学生運動の前面に出た。そのことによって、国家保安法違反疑惑で捕まり、4か月間の刑務所生活を余儀なくされた。

 学生運動によって大学を除籍された後、刑務所から出所すると、強制的に軍隊に入隊。除隊後に、かろうじて大学に復学した。復学してからも学生運動に熱中し、再び刑務所入り。刑務所服役中に司法試験に挑戦して合格。しかし、前科があるため、裁判官や検事としては採用されなかった。それで1983年、釜山(プサン)へ行き、当時、人権弁護士として名を馳せていた盧武鉉(ノ・ムヒョン)氏(後の大統領)と出会った。二人は共同で弁護士事務所を開業し、釜山で代表的な在野の人権弁護士として活動した。

 2002年に盧武鉉氏が大統領選挙に挑戦することになると、文在寅氏もすぐに盧武鉉候補の陣営に参加。盧武鉉政権誕生後は、大統領秘書室の民政首席に就任した。2009年5月に盧前大統領が自殺した後には、「盧武鉉政治を継承する」として、本格的に政界に飛び込んだ。

 2012年4月、第19回総選挙に釜山の選挙区から出馬し、国会議員に当選した。続けて2012年12月には、第18回大統領選挙に、野党単一候補として出馬したが、朴槿恵候補に約100万票差で落選した。以後、現在まで、「共に民主党」の最大派閥である「親盧グループ」のリーダーとして君臨している。

 もし文在寅候補が大統領に当選したら、盧武鉉大統領の後継者を自任するだけに、反日的な日本観も継承する可能性が高い。実際、文在寅候補は、2017年1月の出版記念会に合わせて開かれた記者懇談会で、朴槿恵政権を「親日に根を置いた独裁勢力」と批判し、「親日を清算することによって、社会の主流派や既得権勢力の積弊を清算する」と語った。

 文氏はこうも言った。「日本植民地時代の親日行為に対して、親日派ははっきりと審判を受けなければならなかった。ところが(親日派は)解放後は独裁勢力にくっついて、再び羽振り良くいい暮らをしてきた。独裁時代の時に享受した部分に対しても、代価を払うべきなのに、相変らず今でものうのうと暮らしている」

 文在寅氏は、2012年大統領選挙当時にも、「政権交代に成功したら、盧武鉉政権の時に終えられなかった(親日派をあぶりだして審判をくだす)歴史整理作業を完成させる」と述べていた。

 文在寅氏は、2015年12月の日韓慰安婦合意に対しても、こう述べている。「正当性を認め難い合意だ。慰安婦問題に対して日本がすべき事は、法的な責任を認めて公式に謝罪することだ。お金はいらない。両国間でこうした合意をしなければならない」

 つまりは、日本との再協議が必要との立場だ。日韓両政府が昨年11月に署名したGSOMIA(軍事秘密情報保護協定)に関しては、こう語っている。

 「日本が軍事大国化の道を歩いている中で、特に独島(ドクト=竹島)に対して日本が一貫して領有権を主張するなど領土紛争が続いている状況なのに、軍事情報保護協定を締結するのが適切なのか疑問だ。私たちがどんな情報を提供し、どんな情報を受けるのかをよく調べて検討する必要がある」と、やはり再検討が必要との立場を示唆している。

 日本に対して厳しい反面、中国や北朝鮮に対しては、非常に柔軟な姿勢を見せている。中国と最大の懸案事項となっているTHAADの韓国配備に関しては、「決定権を次の政権に渡さなければなければならない」と繰り返し主張してきた。

 去る3月10日のニューヨーク・タイムズとのインタビューでは、「韓国はアメリカに向かって『ノー』と言える関係になるべきだ」だと述べ、THAAD配備に関連して「なぜこんなに急ぐのか理解できない」と話した。これに対してニューヨーク・タイムズは、「文前代表が次期大統領に選出されるならば、THAAD配備は再検討することになるだろう」と報じた。

 文候補はまた、ニューヨーク・タイムズとのインタビューで、韓国政府が「主敵」としている北朝鮮の金正恩政権に対し、「私たちは北朝鮮住民を、私たちの民族の一部として包容すべきで、好きだろうが嫌いだろうが金正恩を彼らの指導者として、そして私たちの対話の相手として認めなければならない」と言って、韓国の保守主義者たちを驚かせた。アメリカのある外交安保専門紙は、文在寅候補が韓国の大統領になれば、駐韓米軍が撤収する可能性があるという予測まで出している。

 韓国のメディアは、文氏の安保思想に対する論議が「第2ラウンドに突入した」として、集中的に記事を書いている。文在寅候補は、朴槿恵スキャンダルが炸裂する直前の昨年10月に出版された宋旻淳(ソン・ミンスン)元外交通商部長官(外相)の回顧録で、2007年11月、国連の北朝鮮人権決議案の採決を控えて、当時の文在寅大統領府事務総長の命令で、事前に北朝鮮に文面のお伺いを立てたと暴露されて、苦境に立たされた。

 当時、保守派のマスコミが大きく取り上げたこの問題は、折りしも直後に飛び出した朴槿恵スキャンダルのおかげで、雲散霧消してしまった。そのため、今回のニューヨーク・タイムズとのインタビューを契機として、保守陣営は彼の最大の弱点とも言える安保問題を集中的に攻撃すると予想される。しかし、有力な対抗馬が現れないまま、文氏の独走が続いている現状では、保守陣営の攻撃が効果を発揮するかは未知数だ。

 韓国では、第14代の金泳三(キム・ヨンサム)政権以後、10年ごとに右派と左派とが政権交代するというジンクスが存在する。第15代の金大中(キム・デジュン)大統領、第16代の盧武鉉大統領が左派政権であり、第17代の李明博(イ・ミョンバク)と第18代の朴槿恵大統領が右派政権だった。それならば、今度は左派政権になる。

 本来なら今年12月に予定されていた第19代大統領選挙が5月初め(5月9日が有力)に前倒しになったことで、本命視される文在寅候補は、花を咲かせられるだろうか。今回の朴槿恵大統領の弾劾によって、国論が二分される中、韓国人は不安と期待をもって、大統領選の行く末を見守っている。

金 敬哲 (ジャーナリスト 在ソウル)

最終更新:3/15(水) 12:00
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