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子供「乱入」BBCインタビュー 家族が語るその時

ウォール・ストリート・ジャーナル 3/15(水) 16:07配信

 韓国の朴槿恵前大統領が憲法裁判所から罷免を言い渡された今月10日、東アジア問題の専門家である釜山大学のロバート・ケリー准教授(政治学)は、自宅から何本ものラジオやテレビ番組に出演していた。

 長い一日も終わりに近づき、午後7時からはBBC(英国放送協会)から生中継で別のインタビューを受ける準備をしていた。

 BBCからのスカイプ電話を控え、ケリー氏はソーダを飲み干し、ネクタイを締めた。だが、いつもやっていることを1つやり忘れた。オフィスとして使用している自宅の部屋のドアの鍵をかけ忘れたのだ。

 この「うっかり」が、ネット上で今年最大級の「バイラル(ソーシャルメディアなどを通じた情報拡散)」を引き起こした。インタビュー中に2人の幼い子供と妻が「カメオ出演」したのだ。この騒ぎにより、同氏がその影響を語っていた朴大統領罷免のニュースさえ影が薄くなった。

 ケリー氏はウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)とのインタビューで、「間違いの喜劇だ」と話した。

上はネクタイ、下はジーンズ

 同氏がBBCのインタビューに登場し始めたとき、妻のキム・ジョンアさんは2人の子供たちと一緒にリビングでその番組を見ていた。

 夫妻はあらかじめピザを注文し、刻々と入ってくる罷免関連のニュースを逐一追えるようにしていた。ケリー氏が立て続けにメディア出演することになっていたためもある。ケリー氏はジャケット姿でネクタイを付けていたが、下半身はカメラに映らないのでジーンズをはいていた。

 インタビューが始まり、画面に父親の姿が映ると、リビングにいた娘のマリオンちゃん(4)は興奮して飛び跳ねた。父親が廊下の突き当たりの部屋にいることが分かったのか、マリオンちゃんは父親のところに行こうとした。ケリー氏によれば、マリオンちゃんはその日、幼稚園で誕生日パーティーをしてもらった後で特に上機嫌だったという。

 息子のジェームズくん(8カ月)は、いつも通り、歩行器に乗って姉の後ろをついて回っていた。母親のキムさんはというと、リビングにそのまま残って画面をじっと見つめ、夫が出演する様子をスマートフォンで撮影し続けていた。

 すると、明るい黄色のセーターを着たマリオンちゃんが夫のいる部屋に現れた。

 「娘がドアを開けるや否や、わたしの目の前の画面に彼女の姿が映りこんだ」とケリー氏は言う。

 ソーシャルメディアで拡散したBBCの動画のハイライトの1つは、マリオンちゃんが父親に向かって小躍りするように歩いてくる場面だった。ケリー氏は「彼女がうきうき気分だったのは、その日の幼稚園のパーティーのせいだった」と語った。

 ケリー氏はそれをうまく乗り切った。ほほ笑み、娘をベッドの近くのおもちゃの方に左腕で導きながら、インタビューを続けた。BBCが他の場面に切り替えるか、画面をアップにしてくれるのではないかと思ったという。

 だがBBCはそうしなかった。マリオンちゃんがベッドに腰掛けると、今度はジェームズくんが部屋にやって来た。ケリー氏が朝鮮半島情勢の質問に答え始めるなかで、ジェームズくんが同氏の後方で部屋の中を横切ったのだ。

 「これで万事休すだと思った」とケリー氏。

 妻のキムさんは夫の窮地を救おうと、靴下を滑らせながら部屋に入り込んできた。そして、できるだけカメラに映らないようにしながら子どもたちを部屋から引っ張り出した。キムさんは自分が見ていた放送のディレー(遅れ)のおかげで、子どもたちの姿を数秒間見失っていたと話した。

瞬く間に世界中で話題に

 この動画はBBCのフェイスブックページに投稿され、米国時間14日午前の時点で再生回数は8400万回以上を記録。ウルグアイ、ナイジェリアからオーストラリアに至るまで各国のメディアが報じ、世界中の多くのニュース記事やソーシャルメディアの投稿にも取り上げられた。多くがこの珍事を温かく見守ったが、一部ではキムさんを家政婦だと勘違いした上での議論もあった。

 この動画はまた、緊急ニュースを扱うときの放送メディアの粗い一面も浮き彫りにした。香港を拠点とする放送ジャーナリストのカレン・コウ氏によれば、テレビ局はニュースが発生すると可能な限り早く専門家を出演させようとする。このため、専門家が自宅から生中継でインタビューに出演することが増えているという。

 1997年から98年までCNBCの香港支局長を務めていたコウ氏は、自宅から生中継されるインタビューの中には、事前収録インタビューで期待できる水準に遠く及ばないものもあると指摘する。しかし混乱への対応が良かったとして、ケリー氏とBBCインタビュアーのジェームズ・メネンデス氏の2人の対応を称賛した。

 BBCの広報担当とメネンデス氏からのコメントは今のところ得られていない。

数日経って家族は?

 問題含みの生中継インタビューとなると、それに関わった人々のキャリアにマイナスの影響をもたらす場合がある。ケリー氏とキムさんも直後に最悪の事態を恐れた。テレビの出演依頼がもう2度と来ないのではないかと思ったのだ。

 ケリー氏は「わたしたちは『一体、何が起こったんだ』と言い合った」とし、全ての非はドアに鍵をかけなかった自分自身にあると話した。

 同氏はすぐにBBC宛てに謝罪メールを書いたが、BBCからは15分もしないうちにネット上にインタビュー映像をネット上に公開しても良いかの確認が来た。夫妻は当初、子供たちが笑われるかもしれないことが気になって断ったが、最終的には了承した。

 それから数時間もしないうちに、動画は夫妻の生活を一変させた。ケリー氏のツイッターとフェイスブックの通知が鳴り止まなくなったのだ。手に負えないほどのメールと電話(多くは記者からだった)が来たため、翌日には携帯電話を「機内モード」にした。

 夫妻は11日の大半をこの事態への対応の話し合いに費やした。米国の主要テレビ局やメディアからは取材依頼が殺到。記者の中には、オハイオ州クリーブランド東部に住むケリー氏の両親を追跡してコメントを求めた人もいた。

 WSJとの自宅からの映像インタビューでは、息子のジェームズくんは父親の膝の上に座り、机とパソコンのキーボードをたたいていた。その間、マリオンちゃんは母親とじゃんけんをしていた。

 キムさんは「彼は通常、ドアに鍵をかけている。子どもたちは鍵がかかっているのが分かると、たいてい自分のところに戻ってくる。だが、あのときは戻ってこなかった。すると、夫の部屋のドアが開いているのに気づいた。私にとってカオスだった」と振り返った。

 夫妻は子供たちのことは叱らなかったという。ケリー氏は「私も皆さんのように動画を見たが、妻は予想外の状況に可能な限りうまく対処してくれた。おかしかった」とし、「彼らは幼い子どもだし、こうなるのは仕方ない」と語った。

By ALASTAIR GALE

最終更新:3/15(水) 16:07

ウォール・ストリート・ジャーナル

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