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【オーストラリア】【有為転変】第109回 ニュージーランドの葛藤(上)

NNA 3/17(金) 11:32配信

 イスラエルのネタニヤフ首相が先月後半に、現職の首相としてオーストラリアを初めて訪問し、4日間にわたり滞在した。この時にあらためて感じたことは、イスラエルという国の特別な影響力だ。オーストラリアは御多分に漏れず、ユダヤ人脈がビジネス界に張り巡らされていて、そのことが政治にも十分に影響を及ぼしている。ところが、オーストラリアと政治的イデオロギーを共有しているはずのニュージーランド(NZ)が、相反する政治行動を取っていて注目している。その点について、昨年末にジョン・キー首相が突然辞任したことに絡み、個人的に勘ぐっていることがある。
 ■オーストラリアのユダヤ人脈
 オーストラリアの貿易面(2015/16年度)で見ると、イスラエル向け輸出額は年3億600万豪ドル(約267億円)で、44番目の輸出相手国に過ぎない。輸入額としては35番目で、イスラエルは特別重視すべき間柄ではないように見える。オーストラリア国内にいるユダヤ人は約12万人と言われているが、全人口に占める割合はわずか0.5%にも満たない。
 だがそれとは対照的に、オーストラリアの政治・経済界で、ユダヤ人脈は莫大な影響力を持つ。
 経済界に限っても、大企業でトップを務めるユダヤ系オーストラリア人には、◆ソロモン・リュー(プレミア・インベストメンツ会長)◆フランク・ローウィー(ウエストフィールド会長)◆アンソニー・プラット(ビジー・インダストリーズ会長)◆ラファエル・ジェマインダー(パクト・グループ会長)◆ハリー・トリガボフ(メリトン・アパートメンツ会長)◆ビクター・スモーゴン(ビクター・スモーゴン・グループ会長)◆ジョン・ガンデル(ガンデル・グループ会長)――など、大物が名を連ねる。
 ■豪州とイスラエルとのつながり
 シドニーとメルボルンは特に、イスラエル以外で最も活発なユダヤ人在住地域のひとつになっている。それもそのはず、オーストラリアは歴史的に、イスラエルとは重要なつながりがある。
 オーストラリアの最高裁判事だったハーバート・エバットが、1948年に国連総会議長を務め、「国連憲章第80条」の制定に極めて大きく寄与したことから、「オーストラリアはイスラエル誕生の産婆役を果たした」とされている。同80条は、イスラエルによる主張の根拠となっている条項である。
 そうしたこともあるのだろう。ネタニヤフ首相のオーストラリア訪問は、国内メディアでの扱いは非常に大きく、歓迎一色だった。シドニーなどであったアラブ系市民を中心とした抗議デモや、女優のミリアム・マーゴリーズ氏など著名人60人が連名で発表した、ネタニヤフ首相来豪に抗議する声明はほとんど無視されていた。
 イスラエルを最大限に優遇することで、その見返りも用意されていた。両首脳は今回、経済・軍事協力を促進する協定に調印。特に、農業や水、エネルギー、航空などの分野で提携することを決めている。また、ネタニヤフ首相に随行したビジネス使節団のうち、15社ものIT関連企業が、年内にオーストラリア株式市場に上場を計画している。
 ■「NZは宣戦布告と同じ」
 一方、イスラエルべったりとも言えるオーストラリアと対照的だったのがNZである。ネタニヤフ首相は今回、オーストラリアに4日間も滞在したにもかかわらず、NZには立ち寄りさえしなかった。
 その背景には、昨年末、国連安全保障理事会でほぼ全会一致で採択された、イスラエルによる入植停止を求める決議案2334号がある。この決議案の共同提案国となったのが、NZだったからである。共同提案国となったのは、NZ、マレーシア、セネガル、ベネズエラの4カ国(当初エジプトが提案したが、大統領就任間近のトランプ氏の働きかけで撤回)。決議案は結局、賛成14、反対0、棄権1(米国)でほぼ全会一致で可決された。
 イスラエル非難決議は、安保理では米国の拒否権行使で長年否決される慣例があったが、今回は任期満了前のオバマ政権が棄権したため、1979年以来初めて可決されたという画期的なものだった。これにイスラエルは「国連の恥ずべき行為」には報復措置を取ると激怒。「決議案に従うつもりはない」とはねつけた。
 ちなみにイスラエルは、マレーシアとベネズエラとは国交がない。そのためNZとセネガルの大使を帰国させたほか、両国に駐在するイスラエル大使を召還。セネガルへの開発援助も全面的に中止した。
 特にイスラエルを驚かせたのは、提案国にNZが含まれていたことだった。というのも、NZは戦後から親イスラエルの国である。エルサレムポストによると、しかもこの決議案が出される数週間前に、NZのマカリー外相がイスラエルを訪れており、ネタニヤフ首相とも会談していたばかりだった。その時には、マカリーはそんな兆候をおくびにも出さなかったのに、だ。
 ネタニヤフ首相はその直後、マカリー外相に個人的に電話し、NZが共同提案国となったのは「イスラエルに宣戦布告したのと同じだ」と、外交上まれに見る表現でどう喝したという。NZの行動には、ある事情があった。
 (続きは来週24日付で掲載します)<西原哲也・NNA豪州編集長>

最終更新:3/17(金) 11:32

NNA