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「空母キラー」生んだ台湾・中山科学研究院を訪れると…「国防自主」担う兵器開発の最前線

産経新聞 3/21(火) 10:00配信

 2016年7月、台湾海軍のミサイル艇が対艦ミサイル「雄風3」を誤射し、命中した漁船の船長が死亡する事故が起きた。「空母キラー」と呼ばれるこの高性能ミサイルを開発したのが「国家中山科学研究院」だ。かつては国防部(国防省に相当)軍備局に所属していたが、14年4月から行政法人化され、民間との交流も進めている。今月8日には、研究成果を紹介する展示館が開館し、内外メディアに公開された。台湾の兵器開発の最前線を訪れた。(台北 田中靖人)

 ■かつては核開発も

 同研究院のサイトや陸軍司令部が発行する学術雑誌「陸軍学術」の16年12月号の論文によると、同研究院の設立は1965年にさかのぼる。国防部は同年、「石門科学研究院準備処」を設立し、原子力、ロケット、電子の3分野の研究作業グループを設けた。同年6月に「中山科学研究院準備処」に改称、蒋経国国防部長の下で58年7月に、正式に成立する。

 同研究院は秘密裏に核開発を行っていたが、傘下の核エネルギー研究所の張憲義副所長が88年、米中央情報局(CIA)の支援を得て米国に亡命し核兵器開発を暴露。この結果、台湾は開発を放棄し、核エネルギー研究所は同研究院から行政院(内閣)の原子力エネルギー委員会に所管替えとなった。

 一方、同研究院の航空工業發展センターは戦闘機「経国」の開発に成功し、89年には初号機が完成した。同センターは96年に民営化されて漢翔航空工業となり、2016年には空軍の戦闘機F16A/Bの能力向上改修を受注している。

 ■にじむ悔しさ

 研究院には現在、約3200人が所属。台湾本島の9カ所に研究施設があり、航空▽ミサイル・ロケット▽情報通信▽化学▽材料・光電▽電子システム-の各研究所がある。国防部に所属していた時期には、参謀総長ら軍高官が院長を兼任し、参謀本部の直接の指揮を受けていた。行政法人化された現在も、董事長(会長)は国防部長(国防相)が兼任している。2016年度の予算は293億台湾元(約1080億円)に上る。

 今回、整備された「研究開発展示館」は北西部・桃園市の同研究院「龍園院区」にあり、2階建ての建物の中にテーマ別に10項目の展示がされている。

 8日の開幕式典には、陸海空軍のトップが出席。董事長としてあいさつした馮世寛国防部長は、米国の武器売却に謝意を示しつつも、F16の売却交渉で、駐米武官として要望書を提出した際、米側の担当者がすぐに引き出しにしまい、「12年連続で受け取っていて、引き出しには似たような報告書が11本ある」と告げられた逸話を披露、主力兵器の供給を外国に頼る悔しさをにじませた。馮氏は蔡英文政権が掲げる「国防自主」政策についても「10年以上遅かった」と嘆き、台湾が国連を脱退した際、後の総統、蒋経国が呼びかけた「自強」政策を全力で実行していれば、「成果はこの程度ではなかったはずだ」とも述べ、自主開発の重要性を強調した。

 ■先端兵器の数々

 施設は、入り口ホール脇に雄風3と地対空ミサイル「天弓3」の実物大模型が展示されている。同院が開発したミサイルを紹介するスペースでは、天弓3が限定的な弾道ミサイル迎撃や巡航ミサイルの迎撃能力を持つことが説明されていた。弾頭は、目標に到達する直前に内部で起爆して変形し、その結果、破片が必要な方向に集中して飛散するよう設計されているという。

 また、電子戦のスペースでは、中国の偵察衛星に向けて妨害電波を発信する車載式の機材があることを紹介。レーダー部門では、弾道ミサイル対応用とみられる移動式のフェーズドアレイ・レーダーについて、担当者が「台湾が誇る情報技術(IT)の粋で、末端の部品にいたるまで全て台湾製だ」と強調していた。

 一方、航空機の開発の歴史を振り返る部門には、戦闘機「経国」のエンジンの小型模型が展示されている。経国はIDF(国産防衛戦闘機)とも呼ばれ、表向きの説明は“自主開発”。だが、担当者は「米国との共同開発でエンジンの技術を習得し、その後、さまざまな武器に応用した」とあっさり否定。現在のエンジンの技術は中国と比べてどうかと問うと、こちらも「現時点では及ばない」と認めていた。

 このほか、戦闘指揮システムを単純化し実際の戦闘がどのように進んでいくのかを説明した映像や、ゲーム感覚の戦闘シミュレーション装置の体験コーナーなど、一般市民への教育効果を狙った展示もあった。

 同研究院は各国への武器輸出や軍民双方との共同研究・開発を進めようとしており、昨年10月には東京国際展示場(東京ビックサイト)で開かれた国際航空宇宙展にも初めて出展している。新たな展示施設は将来、海外向けの宣伝の場としても活用されることになりそうだ。

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 中山科学研究院の研究開発展示館を参観するには、個人・団体ともに事前の申請と審査が必要になる。問い合わせはTEL+886-3-471-2201。

最終更新:3/21(火) 10:00

産経新聞