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食べる力引き出す口腔ケア 認知症患者、気持ちよさ体感大事

山陽新聞デジタル 3/20(月) 15:36配信

 認知症患者への口腔ケアのポイントについて、万成病院(岡山市)の藤原ゆみ歯科課長・歯科衛生士に寄稿してもらいました。

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 「○○さん。お口をきれいにしてもいいですか?」と認知症の患者さんに問いかけると、「歯みがきは嫌い!」と拒否されたり、厳しい表情をして口を固く閉じてしまわれることがあります。高齢者は口腔(こうくう)内が不衛生だと誤嚥(ごえん)性肺炎をはじめとした生命にも関わる感染症に罹患(りかん)する恐れがあるため、食後の口腔ケアはとても重要です。しかし、認知症の患者さんの多くは清潔に対する感覚が薄れており、セルフケア(患者さん自身で歯みがきをする)はもとよりケアの必要性を理解することも困難な状況にあります。

心が開けば口も開く 

 私たち歯科衛生士は「口のケアをしてもらったらすごく気持ちよかった」と患者さんに思っていただけるよう、心地よい口腔ケアの実践を心がけています。嫌がられる場合は無理強いせず、優しく声をかけながら1本の歯を丁寧に磨くことから始めます。最初は嫌がっていた患者さんも、痛みを感じないのがわかると閉じていた口が自然に開いてきます。強く拒絶される重度認知症の方も、時間は要しますが、「気持ちのよい口腔ケア」を体感するうちに必ず開くようになります。

習慣を呼び覚ます 

 セルフケアができそうな患者さんには、歯みがきの手順を思い出してもらうように働きかけます。歯みがきは細かい動作が多いため、何をどうしてよいかわからずオロオロと、とまどってしまうのです。歯ブラシ、歯磨き粉、コップを順番に渡し、声をかけながら動作を促すことで習慣になっていた身体記憶を呼び覚まします。また、歯みがきを行なう場所も大切で、ベッドの上ではスムーズにできなかった患者さんが洗面所へ移動すると記憶が蘇(よみがえ)り、セルフケアができるようになったケースもあります。麻痺(まひ)などの運動障害があれば動作はより困難になりますが、それでも周りの人たちのサポートによってかなり向上します。

嚥下障害への対策 

 当院には岡山大学病院スペシャルニーズ歯科センター(嚥下専門の診療科)の歯科医師が、月2回来院し、嚥下障害のある方の評価・ミールラウンド(食事観察)、必要に応じて嚥下の精密検査(嚥下内視鏡検査・嚥下造影検査)を行っています。食事のペース、一口食べるときの量、口や舌の機能・動き、飲み込みの状態、姿勢、食事形態などから患者さん一人ひとりに対してどこに問題があるかが指摘されますので、歯科衛生士はそれに対するアプローチの仕方や訓練方法を学び実践しています。

食べる力を引き出す 

 「人生最期のときまで自分の口で食べたい」ということは誰もが望むことだと思います。栄養摂取の面だけではなく、「好きなものを、誰かと一緒に、楽しく食べる」ことは人としての尊厳、より良く生きることにつながります。認知症の方は本来の症状に加え多くの障壁が立ちはだかっていますが、私たちは口腔ケア・摂食嚥下リハビリテーションを主体とする「歯科衛生士の力」を発揮し、口腔衛生とともに患者さんの「食べる力」も引き出したいと考えています。

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 ふじわら・ゆみ 岡山県岡山歯科衛生専門学校卒。歯科医院勤務を経て1992年から万成病院で勤務。2005年から現職。元岡山県歯科衛生士会会長、元日本歯科衛生士会理事。岡山県歯科衛生士会監事。日本老年歯科医学会歯科衛生士関連委員会副委員長、日本歯科衛生士会認定歯科衛生士。

最終更新:3/20(月) 15:36

山陽新聞デジタル

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