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【各紙論調比較】宅配便値上げが提起する「利用者の意識改革」

3/21(火) 11:00配信

ニュースソクラ

ヤマト運輸が宅配便運賃値上げ検討

 宅配便大手のヤマト運輸の未払い残業発覚をきっかけにした人手不足問題は、宅配便運賃値上げ検討へと発展した。

 安倍晋三内閣の「働き方改革」とシンクロしているほか、ネット通販という多くの人が利用する身近なサービスに直結することもあって、世論の関心は高く、大手紙もこぞって社説(産経は「主張」)でこの問題を論じている。

 各紙、基本的に共通するのは、残業が常態化する「構造問題」だ。宅配便総数は2015年度に37億個を超え、この20年間で3倍、この10年間では約8億個も増えている。うちヤマトは17億3000万個で、2016年度は19億個に迫るという。

 とりわけスマートフォンを通じたネット通販が拡大し、小口の荷物が急膨張していることが大きいとされることなど、各紙数字を挙げて説明。

 例えば毎日(3月3日、http://mainichi.jp/articles/20170303/ddm/005/070/100000c)は、

<荷を扱う現場では再配達や時間指定配達などに追われ、長時間労働が日常的になっている。……ヤマトの配送担当者は全国に約6万人いるが、多い時期は1人で1日150~200個を宅配しなければいけないという。残業せずには処理できない量だ>

と書いている。

 本来、人手が足りなければ、賃金を上げ、人を集めるというのが教科書の教えだが、現実は違う。

<仕事の大変さに比べ賃金が低いのだ。厚生労働省調べで「運輸・郵便業」の平均賃金は二十七万七千六百円(一五年)と業種別ではほぼ最下位。これでは人は集まりにくい>

と、東京(3月8日、http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2017030802000135.html)が具体的に指摘するとおりだ。

 今回の問題噴出の直接のきっかけとなったのは、ヤマトの横浜市内の支店が2016年8月、サービス残業について横浜北労働基準監督署から労働基準法違反で是正勧告を受けたこと。

 労働者にしわ寄せしていたということで、朝日(3月8日、http://digital.asahi.com/articles/DA3S12830373.html?ref=editorial_backnumber)が、

<労働基準監督署から是正勧告を受け、調査を進めている。・・・ヤマトは徹底した顧客サービスで、宅配便という業態を切り開いてきた。その裏に働き手へのしわ寄せがあったのなら、大きな問題だ。ただちに改め、再発防止に取り組むべきだ>

と、経営の責任に厳しく釘をさして「朝日らしさ」をみせている。

 これに比べ、他紙筆鋒が概して鈍いのは、過当競争と、労働集約型の「代表選手」という生産性の低さがあり、単純に値上げ、人件費引き上げとはいかないことに加え、ネット通販の在り方という今日的なテーマがあるからかもしれない。

 そこで各紙、こぞって指摘するのが、ネット通販が生活の一部になっていること、そして利用者(消費者)の便利さへの「慣れ」という意識の問題だ。

<宅配便は今や欠かせないインフラだ。体が不自由な人にとっては文字通り生命線となっていることもあろう>(東京)

というように、宅配便問題はもはや一業界の話ではない。それなのに、

<利用者は即日配達・送料無料という利便性を求め、事業者も、顧客囲い込みにしのぎを削る。通販の過剰サービスを前提とする現状の宅配ビジネスは限界に近い>(読売、3月8日)

という壁にぶつかっているのであり、

<適正な料金を受け取りサービスを提供するのが、商取引の原則だろう。宅配網が破綻すれば通販も打撃を被る。社会的影響も考慮し、価格を設定すべきだ>(産経、3月5日、http://www.sankei.com/column/news/170305/clm1703050002-n1.html)

といった方向に進むしかないということになる。

 特に、利用者の問題では、2割に達する再配達のムダを各紙、やり玉に挙げる。毎日は、国交省の調査で、再配達の4割が「再配達してもらうのを前提に不在にしていた」と回答したことを指摘し、

<むだ足を踏ませても構わないという意識が読み取れる。ネット通販の普及で、日々の生活は快適で便利になったが、荷物を運ぶのは生身の「人」だ。労力はかかるし、それに伴う対価も生じる>

と、意識改革の必要を強調する。具体的には、

<利用者も「サービスはタダ」との発想を改め、再配達の有料化などを受け入れるコスト意識を持つべきではないか>(読売)

<発注時に受取日時を指定し、配達回数に応じて料金を変えるようにすれば、無駄足は減るだろう>(日経、3月1日、http://www.nikkei.com/article/DGXKZO13511620R00C17A3EA1000/)

<1回で受け取った人にはポイント付与で優遇するなど、料金メニューの多様化にも工夫を凝らしたい>(産経)

などと、各紙とも具体的に負担増を求めている。

 生産性向上が必要なのも、当然のこと。日経はこの点を中心に論じており、

<物流施設の高機能化も有効だ。……新しい施設にはロボットなどを活用し、人手に頼らず効率的に仕分け作業などを済ませられるところも多い。浮いたコストや人員を配分し直すことで労働条件を改善したり、宅配と高齢者の有料見守りを組み合わせた新サービスなどを始めたりすることもできる>

<規制緩和も進めたい。運輸業界からは路線バスの空きスペースで貨物を運ぶ客貨混載を広く認めてほしいとの要望が出ている。無線技術を使い複数の車両を1人の運転手が同時に走らせる隊列走行の実験も……運転手不足の緩和につながる>

<異なる宅配便会社が共同で配達したり、駅やマンションに受け取り用のロッカーをもっと設けたりすれば、利用者にも便利になる>

などを列挙し、<人手不足を物流のイノベーションにつなげたい>と結んでいる。

●ヤマト運輸問題のこれまでの経緯:

 世の中が注目するきっかけはヤマトの春闘記事。2月23日日経朝刊1面トップで「宅配総量抑制へ」との見出しを掲げ、人手不足とネット通販の市場拡大による物流危機で長時間労働が常態化し、「現在の人員体制では限界」として、ヤマト運輸労働組合が宅配便の荷受量の抑制を要求したことを報じた。

 その後は、ヤマトが、グループの運転手など7万人以上に残業代の未払いがないか、異例の大規模調査を進め、確認された未払い分を支給することで既に労使が合意、支払総額は数百億円規模となると報道された。

 さらに、ヤマトが宅配便の基本運賃を、9月末をめどに引き上げる方針を打ち出し、佐川急便や日本郵便も追随値上げの検討入る――といった具合だ。

 値上げの最大のターゲットがネット通販業界だ。特にヤマトの場合、ネット通販大手のアマゾンジャパンが2013年、佐川からヤマトに配送業務を切り替えたことでビジネスが拡大したが、ネット通販向け宅配便が急増し、ドライバーらがサービス残業を強いられる構造が「定着」することになった。

 ヤマトの関係者は「アマゾンがヤマトに切り替わってから、仕事が一挙に増えた」と指摘する。

 インターネット通販の普及で宅配便が急増した「歪み」が一気に噴出したかたちで、宅配業界の問題にとどまらず、ネット通販のあり方、ひいては、便利さに慣れ切った私たちの生活自体が問い直されている。
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長谷川 量一 (ジャーナリスト)

最終更新:3/21(火) 11:00
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