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社説[教科書検定]押し付けが多面性奪う

3/25(土) 8:10配信

沖縄タイムス

 世界中が「不寛容」に傾く時代にあって、これからを生きる子どもたちに身に付けてほしいのは、問題を多面的に捉え、主体的に判断する力である。

 文部科学省は来春から小学校で使う道徳教科書と高校2年生用の教科書の検定結果を公表した。

 道徳は学習指導要領の一部改定で教科に格上げされたことに伴う初の検定。

 2011年に大津市で起きた中学生いじめ自殺事件を受けて教科化された経緯もあり、申請した8社24点全てにいじめに関する教材が盛り込まれた。

 教科化を提言した中教審答申は、登場人物の気持ちを読み取ることに偏ったこれまでの「読み物道徳」を批判。文科省は道徳的課題を自身の問題として捉える「考え、議論する道徳」への転換を打ち出していた。

 いじめの加害者にも、被害者にも、傍観者にもならないように、「自分ならどうするか」を多面的・多角的に考え、行動につなげるような授業だ。

 しかし文科省が学習内容の項目や教材の扱い方を、学習指導要領や検定基準で細かく定めたためか、道徳教科書は複数社で同じ読み物を取り上げるなど定番ものの教材が目立った。

 縛りが強すぎて、常識的な価値観に誘導する型にはまった授業とならないか心配だ。

 道徳は答えのない教科である。教員が教材や題材を選ぶ自由は大切で、目の前の子どもに合わせた創意工夫が小さな瞳に輝きを与える。

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 道徳で教える「国や郷土を愛する態度」などの項目を巡っては、一定の価値観や規範意識を国が押し付けるのではとの懸念がいまだ根強い。

 数値による評定は行わず記述式で評価することになっているものの、「心の評価」に戸惑いを感じる教員も少なくない。

 高校教科書でも安全保障関連法や、近現代史、領土問題で政府見解を記述するよう検定意見が付くなど、政府の姿勢に沿う表記を求める傾向が続いている。

 尖閣諸島について「中国が領有権を主張している」と書いた教科書は、領土問題は存在しないという政府の立場の記述が加わった。

 領土問題が存在するのは事実である。対立する意見にも耳を傾け、物事を広い視野で捉えていく姿勢こそ必要ではないか。教科書は時の政権の考えを伝える広報誌ではないはずだ。

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 沖縄戦の「集団自決(強制集団死)」を取り上げたのは日本史8冊中6冊。いずれも「軍の関与」が読み取れる内容だが、軍の強制性を排除する検定意見はいまも撤回されていない。

 日本史では「琉球処分」の説明で併記されていた「廃琉置県」の用語が一般的でないと削除された。沖縄側から歴史を捉え直す動きの中で使われるようになったキーワードの一つだ。

 歴史を多面的に見る力を育むことも、今の時代に求められる重要な学びの要素である。

最終更新:3/25(土) 8:10
沖縄タイムス