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「愛と正義は障害者を救わない」 伝説の運動と相模原事件

3/26(日) 10:12配信

BuzzFeed Japan

1970年代の日本。障害者は誰かの善意に頼って生きていく、誰かに生死を決められる。そんなことはおかしい、と声をあげた人がいた。彼が遺した思想は、相模原事件を乗り越えるヒントが詰まっている。【石戸諭 / BuzzFeed】

障害者を排除するな、殺すな。

「愛は地球を救う」。これは、頑張る障害者が描かれる24時間テレビでおなじみのコピーだ。

1970年代の日本に、そんな「愛」や「正義」を真っ向から否定した伝説の障害者運動があった。

中心にいたのは、脳性マヒ者の横田弘さん(1933年~2013年)。彼は2つのことを徹底的に突き詰め、訴えた。

障害者を排除するな、殺すな。そこに相模原事件を乗り越える思想がある。

「われらは愛と正義を否定する」。
横田さんが書き上げた脳性マヒの人たち運動団体「青い芝の会」の行動綱領だ。当時、大きな衝撃を与えた。そのあとに続く言葉もすごい。

「われらは愛と正義の持つエゴイズムを鋭く告発し、それを否定する事によって生じる人間凝視に伴う相互理解こそ真の福祉であると信じ、且、行動する」

障害者のための愛と正義はウソくさい、と真正面から否定する真意はどこにあるのか?

それは、愛と正義の名の下に、障害者が殺されていったという事実である。

時は1970年、実の母親によって脳性マヒをもつ2歳の娘が殺害される事件が起きた。この時、母親がかわいそうだと同情する声が多くあがり、減刑を求める運動まで起きた。

理由を一言でまとめるとこうなる。

障害もあり幸せになりえない子供の将来に悩んだかわいそうな母親であり、愛情ゆえに手をかけたのだ、と。

横田さんたちは、減刑に真っ向から反対する運動を展開する。厳正な裁判を求める意見書を裁判所や検察庁にだした。

横田さんの思想を研究し、本人のインタビューを重ねた荒井裕樹さん(36歳)=二松学舎大講師=は、BuzzFeed Newsの取材にこう語る。

「横田さんは、確かに母親にも社会からの助けがなかった『被害者』といえる面はあると考えていました」

「でも、たとえ追い詰められていたとはいえ、子供に手をかけた瞬間には『殺意』があったはずで、そこを見つめなければいけないと思っている。障害者は誰かに生死を決められる社会。それ自体がおかしい、と訴えたのです」

荒井さんは、障害者や少数者の自己表現を研究する気鋭の文学者だ。

今年、横田さんの評伝『差別されてる自覚はあるかー横田弘と青い芝の会「行動綱領」』(現代書館)を発表した。こう続ける。

「横田さんは『福祉は思いやり』という発想も怖いと考えていました。誰かの善意に頼らないと障害者が生きていけないからです」

「余裕がある時はいいけど、災害のとき、経済状況が変わったとき……。真っ先に犠牲になるのは、自分たちだと考えていたんです」

母親の殺意を擁護した社会は、どこか障害者をかわいそうであり、役に立たない存在だという考えが見え隠れする。

表面的な善意を取り払うと、その発想は、19人の障害者が殺害された相模原事件とつながってくる。

「だから『凝視』しないといけないのは、障害者に向けられた殺意の底に何があり、どのような言葉で殺意がコーティングされているのか、です」

「相模原事件のあとも容疑者に賛同するような声がありましたよね」
賛同するのはおかしいと表面的な批判をするだけで終わるのは、別の「正義」の発露でしかない。問いをもう一歩深めないといけない。

「障害者のことを一方的に『かわいそうな人たち』と思っていないか。『不幸な人たち』だと決めつけていないか。そう思う気持ちが、本当にあなたの中にはないのか、と横田さんは問うていたのです」

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最終更新:3/26(日) 10:12
BuzzFeed Japan