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予言通りスターになったヴィゴ・モーテンセン

3/28(火) 22:20配信

Stereo Sound ONLINE

新作の野性味あふれる役柄はヴィゴ自身のよう

 『はじまりへの旅』でアカデミー賞の主演男優賞にノミネートされ、授賞式に出席したヴィゴ・モーテンセン。じつにステキで、好ましい熟年男性のお手本のようだった。いや、別に紳士的で行儀がいいというのではない。品も知性もスター・オーラもあるけれど、そこに自由闊達なやんちゃさと野性味も漂っている。

 ノミネートされた『はじまりへの旅』では、現代の文明社会に失望し、18歳を頭にした6人の子供を大自然のもとで育てている父親という役柄。自らが師となり、ナイフ1本で生き抜くサバイバル術から、数学、文学、哲学、音楽、物理などの高等教育はもちろん性教育まで、子供たちに教えていく。

 そんな父親となればエゴイスティックで狂信的な空気をかもし出しそうだが、演じるヴィゴの資質と相まって、愛も優しさも哀愁も包括した説得力あるキャラクターに仕上がっている。地味だけど、オスカー候補は納得だ。

『ロード・オブ・ザ・リング』を観てぶっ飛んだ!

 ヴィゴ・モーテンセンと言えば、まずは2001年の国際映画祭が開催されていた、カンヌでの出会いが思い出される。

 当時のヴィゴは、1991年にショーン・ペン監督の『インディアン・ランナー』でベトナム戦争から帰還し精神を病んだ弟を好演して注目を集めたものの、以後は“粗暴な男その2、その3”といった役どころばかりが続き、さして際立った存在ではなかった。

 ところが、2001年。世界が映画化に注目していた『ロード・オブ・ザ・リング』のメインキャラ=アラゴルンに、ピーター・ジャクソン監督が彼を大抜擢したのだ。

 正直、その原作にもヴィゴにも取り分け興味を抱いていなかった私だが、カンヌでお披露目されたフッテージ映像を見て、ぶっ飛んだ。

 壮大な世界観と斬新な映像はいまさら言うべくもないが、なにより王家の血筋を引くレンジャーで、めっぽう強いアラゴルンを演じたヴィゴのカリスマ性、スター性にびっくり。まだ完成をもしていない作品の片鱗を見ただけで、惚れた。

 だから、フッテージ鑑賞後の会見では、「この映画が公開されたら、一躍スターになる。昨年の『グラディエーター』で、ラッセル・クロウが世界的なスターの座についたように」と、本人に予言をしたのだ。

 それを聞いたヴィゴは、「なに言っているんだか?」という顔をして相手にしない。そこで“あのシーンがこうで、この展開がヒロイックで……”としつこく説明するが、彼はまるで冗談としか受け止めずに笑っているだけだから、私もあきらめて「予言が当たっているかどうか、公開後にまたお会いしたな」と言って別れたのだった。

 再会は、第2弾『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』公開時の2003年。私としては待望の再会だから、「予言は当たっていたでしょ?」と、開口一番でドヤ顔に。

 もちろん、ヴィゴはなんのことやらわからずにポッカ~ンとしていたが、カンヌの話をすると「ああ、そうそう。ある意味、君の予言は当たっていた。いつだかメディアに騒がれてうんざりしていた時に、こんな状況になるって言ったジャーナリストがいたっけなぁって思ったこともあるよ」と、リップサービスしてくれた。いい人だぁ。

 そこで、「一夜にしてスターになった気分は?」と、アホな質問をしてみると「外からの影響では、何も変わらない」という答え。

 そりゃそうでしょ。昨日や今日、俳優になって注目された若造でもなければ、美貌が売りのアイドルでもない。当時、すでに不惑の40代だったヴィゴは、役を演じる時には全身全霊を傾けてその作品に奉仕するけれど、そのほかにも詩や小説や絵も描くアーティストとして“自分の世界”を確立していたのだから。

 それでも、付け加えてこうも言っていた。「急に注目されたり騒がれたからといって、それで僕自身が変わることはない。でも、人間として、まず自分が前に進むことが必要だ。その意味では、毎日の経験、いろいろな人に会うことで人は変化していると思うんだ」

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最終更新:3/29(水) 14:54
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