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【ニュースソクラ編集長インタビュー】『不発弾』の著者、相場英雄氏に聞く

3/30(木) 12:00配信

ニュースソクラ

東芝不正会計事件で着想 バブルを小説で問う理由

 通信社記者出身の経済小説家、相場英雄氏が『不発弾』(新潮社、1600円税別)を出版した。

 東芝の不正会計事件から着想したと思われる作品は、バブルとその解決の過去30年を描いた「大河」小説になっている。いま、バブルを問い直す作品を書いた「思い」を聞いてみた。

――『不発弾』は、『震える牛』などの今までの作品と違い、30年近い長い期間のさまざまな事件を次々と取り上げている日本経済史のような小説に仕立てています。これに取り組まれたのはどうしてですか。

 東芝不正会計事件が起こったのをみて、日本の企業社会はバブルの清算が終わっていないと思いました。それを集大成したいと思って書いたのがこの作品です。永野健二さんの『バブル』や国重惇史さんの『住友銀行秘史』などバブル期モノがベストセラーになっていることも背中を押してくれました。

――ご自身が記者をしていた時代の体験も関係しているわけですね。

 この作品『不発弾』のなかに、飛ばしに関する記事を繰り返し書く記者がでてくるのですが、モデルは時事通信で経済記者をしていた私自身です。ちょうど2000年ごろで独自に資料を入手して特ダネを書いたわけですが、会社側は認めないから他のメディアはどこも後追いしてくれない。通信社の私の上司は喜ばないわけです。

 しまいに午前2時に経済部長に新橋の居酒屋に呼び出されて、ほめられるのかと思ったら、怒られて、考えを変えました。

 それからは9時―17時の相場記者に徹して、もう独自記事の追求なんてしないぞと心に決めました。ちょうど子供が生まれたばかりでしたから子供の送り迎えも私がする「パパ記者」になるわけです。その後、マンガのストーリー作りなどを手伝っていくうちに小説を書きたくなっていったのです。

――でもフリーになるのには奥さんは反対だったのでは。

 2005年に時事通信には内緒で書いた『デフォルト 債務不履行』が第二回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞するのですが、著者略歴に時事通信記者と許可なく書かれてしまって、それから社からの確認の電話が次々に携帯電話に入って往生しました。作家活動がばれてしまった。それから1年、会社を辞めるわけです。家内はそのころには、まあ仕方がないかなと思っていたみたいです。

 最初の3年間は食えなくて、企業家の自伝のゴーストライターをやるとか何でもやって糊口をしのいだのですが、『震える牛』が売れてなんとか生活は安定しました。

――記者としての報道やノンフィクションを書くより、小説の形式の方が真実に迫れると考えて小説家を選んだわけですか。

 そういう意識は薄いです。当然、経済小説ですからモデルはあるわけですが、私の小説は名前だけ変えた実録ものではないのです。

 記者出身の方は、訴えられないよう小説形式にするが、真実を明らかにすることを目指して小説形式で書くという方もいるのでしょうが、私は創作の部分がありまして、読者の方々に「どこまでが事実かな」と楽しんでいただのだと考えています。純粋にエンタメと考えています。

――大牟田市を主人公のふるさとにしていますが、衰退する町が故郷である必要があったのでしょうが、なぜ大牟田だったのですか。

 行きつけの新宿ゴールデン街のバーのママの故郷が大牟田で、自分は「タンジュウ」出身でとかつぶやいたので、え、タンジュウでなにと尋ねたら炭鉱住宅なんですね。へー、そういうところがあるのかというので、知り合いの編集者のつても頼って取材に行きました。

――相場さんの故郷は。

 私は新潟県の洋食器で知られる燕市で、私の実家も洋食器の製造工場だった。つぶれましたけれど。だから機械に挟まれて指がないひととかいて、炭鉱の町の坑夫の手のごつい感じとか想像がつくのです。

『不発弾』で最後に首相になる芦原の手がやわらかいと書いていますが、それは私自身、東京に出て来て、東大卒のエリートと握手して、本当に支配する側の人の手は柔らかいのだなあと感じたことの反映なのです。

――売れる小説にするにはわかりやすい勧善懲悪がいいというのが、最近のセオリーでしょう。それなのに、完全な悪役がでてきませんね。

 本当に悪人なんていないだろうという気持ちはあります。私らしさでもあり変えるつもりはありません。この小説のなかで、損失飛ばしの手法で設けまくる中野という男がでてきますが、悪に手を染める事情も書き込みました。

 それは、モデルの方の裁判を傍聴して、検察官に攻め立てられて、嗚咽を漏らすのを見ているからなのです。小説のなかの「事情」の部分は私の創作ですが、あの傍聴体験は衝撃でした。

――小説の終わり方はいつも独特ですね。世の中は単純ではないということですか。

 読者にすれば後味の悪い終わり方でしょうね。スカッとしないと。でも、私の小説を読んでくれる方々は、こんどはどう裏切ってくれるのだろうみたいなところに期待してもらっているのではないかと思っています。

――最近気になることは。

 この作品の冒頭にあるのですが、東芝事件で不適切会計という表現を会社がし、大手メディアもそういう表現を使いました。不正会計だし、粉飾ですよね。やわいメディアが増えている。それは変わってほしいところです。

 本の最後にいつも参考文献を載せています。すばらしいノンフィクションが多いので、もし私の作品を読んで関心を持っていただけたなら、それらの本も読んでいただけたらなと思います。


作品の主要人物・会社の現実のモデルとの対照表(左が作中名、ニュースソクラで作成)
 
三田電気産業:      東芝
ゼウス光学:       オリンパス
ノアレ:         ヤクルト
クレディ・バーゼル証券: クレディスイス・ファーストボストン(CSFB)
国民証券:        国際証券(現三菱UFJ証券)
ヘルマン証券:      ゴールドマン・サックス証券
東田章三:        西室泰三東芝元社長
熊田章吾:        熊谷直樹ヤクルト元副社長
中野哲臣:        山田真嗣元クレディ・スイスファーストプロダクツ東京支店長
杉本匠:         松本大マネックス証券社長
芦田恒三:        安倍晋三首相

■聞き手 土屋直也(つちや・なおや) ニュースソクラ編集長
日本経済新聞社でロンドンとニューヨークの特派員を経験。NY時代には2001年9月11日の同時多発テロに遭遇。日本では主にバブル後の金融システム問題を日銀クラブキャップとして担当。バブル崩壊の起点となった1991年の損失補てん問題で「損失補てん先リスト」をスクープし、新聞協会賞を受賞。2014年、日本経済新聞社を退職、ニュースソクラを創設

最終更新:3/30(木) 12:00
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