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共謀罪法案を各メディアはどう報じたか

3/30(木) 13:00配信

ニュースソクラ

共謀罪法案、割れる論調 国民の理解進まず

 2017年度予算が今週、成立した。後半国会の焦点となる法案は、3月21日に閣議決定された「組織犯罪処罰法改正案」だ。しかし、報道各社のスタンスが大きく割れていることに表れているように対決法案になる。

 メディアの論調はどうわかれているのだろう。

 もともと「共謀罪」の新設を目指して国会に提出されながら三度廃案になった法案の延長上にあるが、危険性は変わらないとの論調と、マイナスイメージを払拭して成立を図る政府の意向を肯定的に受け止めて法案成立を支持する論調が、真っ向対立している。

 後述のように、報道各社間で法案の呼称さえ異なるとあって、法案の説明も、どう理解するかで違ってくるが、最低限の説明をすると、次のようになるだろう。

 テロなどの組織犯罪を未然に防ぐために、犯罪の実行前の段階での処罰が可能となる法整備が必要だというのが政府の立場。これに従って「共謀罪」を新設する法案を過去3回、国会に提出したが、「処罰対象が不明確で幅広く適用されかねない」「恣意的に運用されかねない」「考えただけで罰せられる」といった批判が根強く、いずれも廃案になった。今回の組織犯罪処罰法改正案は、「共謀罪」の構成要件を厳格化して「テロ等準備罪」を新設するもの。具体的な違いは、(1)処罰対象を「組織的犯罪集団」に限定、(2)処罰できるのは重大犯罪を実行するための「準備行為」があった場合だけ、(3)対象犯罪を、当初の676から組織的犯罪集団の関与が現実的に想定される277に絞り込み――の3点だと、政府は説明している。

 2020年東京五輪を控え、政府は、テロ対策は喫緊の課題であり、国際組織犯罪防止条約批准のためにこの法案が必要と訴える。

 まず、報道各社の法案の呼称を比べると、朝日、毎日、日経、東京が「共謀罪」と表記するのに対し、読売は「テロ準備罪法案」、産経は「テロ等準備罪」、NHKもテロップやネットの見出しでは「テロ等準備罪」を使っている。

 「組織的犯罪処罰法の改正案」の前に「枕詞」のようにつける説明文も、「共謀罪」との関係をどう表現するかで、大きく異なる。

 法案に批判的または慎重な4社は次の通り。

朝日=犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ

毎日=「共謀罪」の成立要件を絞り込み「テロ等準備罪」を新設する

日経=犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」の構成要件を改め「テロ等準備罪」を新設する

東京=犯罪に合意することを処罰対象とする「共謀罪」と趣旨が同じ「テロ等準備罪」を創設する

 一方、法案推進の2社は次の通り。

読売=組織的な重大犯罪を計画・準備段階で処罰する

産経=共謀罪の要件を厳格にした「テロ等準備罪」を新設する

 NHKは、<組織的なテロや犯罪を防ぐため、犯罪の実行前の段階でも処罰できるよう「共謀罪」の構成要件を厳しくして「テロ等準備罪」を新設する>と、長いのが特徴で、中立的に報道しようとしているとアピールしているように見受けられる。

 新聞各紙は、閣議決定に合わせて大きく報じ、ほぼ一斉に社説でも取り上げた。

 各紙、1面本記のほか、朝日は2面「時時刻刻」、毎日は3面「クローズアップ」で問題点を掘り下げた解説記事、さらに社会面トップで市民団体、法律専門家などの懸念の声や抗議の動きなど、大きく紙面展開。一方、読売は3面「スキャナー」で「共謀罪とは別」の大きな活字の見出しを掲げて政府の説明を中心に展開し、社会面では1行も載せていない――といった具合で、問題点、疑問点の指摘の強弱が際立った。

 各紙、社説でも正反対に論じる。

読売(http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20170321-OYT1T50166.html)は<テロ等準備罪の成立には、犯行計画に加え、資金調達などの準備行為の存在が不可欠だ。要件を満たさない限り、裁判所は捜索や逮捕に必要な令状を発付しない。適用範囲が恣意的に拡大される、といった民進党などの批判は当たるまい。「一般市民も対象になりかねない」という指摘も殊更、不安を煽るものだ>と政府の説明を全面的に支持し、野党の批判を一蹴。逆に、<(共謀罪との)差異を付けることを優先するあまり、今回の改正案が捜査現場にとって使い勝手の悪いものになっては、本末転倒である>と、捜査当局の「手を縛る」ことを心配するほどで、<国民の安全確保に資する法案であると、堂々と主張すべきだ>と発破をかける。

産経は24日までに、社説に当たる「主張」で取り上げていないが、一般記事では<法務省幹部は「一般市民や一般企業は対象にならない」と明言する>(3月22日朝刊)など、同法案の必要を訴える記事を繰り返し掲載している。

 これらに対し、法案に反対・慎重の各紙では、

朝日(http://www.asahi.com/articles/DA3S12852884.html)が<「準備行為」も何をさすのか、はっきりしていない。殺人や放火などの重大犯罪には「予備をした者」を罰する規定が既にあるが、これと「準備行為」はどこがどう違うのか。準備行為である以上、犯罪が実際に着手される前に取り押さえることになるが、それまでにどんな捜査が想定されるのか>と疑問を呈し、<犯罪が実行されて初めて処罰するという、刑法の原則をゆるがす法案である。テロ対策の名の下、強引に審議を進めるようなことは許されない>と、慎重審議を求めている。

毎日(http://mainichi.jp/articles/20170322/ddm/005/070/041000c)も、<政府は「共謀罪とは別物だ」との説明を繰り返してきたが、明らかに共謀罪の延長線上にある>として、組織的犯罪集団に市民が入る余地はないのかなどの問題点を指摘。特に、国際条約批准のため必要という点について、<条約が法整備を求める4年以上の懲役・禁錮の刑を定める犯罪数は676あり、選別はできないと政府は説明してきた。だが、公明党の意見をいれ、今回の法案では対象犯罪を277に絞り込んだ。これでは過去の説明と整合しない……条約はマフィアによる犯罪収益の洗浄などへの処罰を目的としたものだ。安倍晋三首相が、東京五輪・パラリンピックのテロ対策を理由に「法整備ができなければ開催できないと言っても過言ではない」などと発言するに至っては、まさに首相が批判する印象操作ではないか>と批判する。

東京(http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2017032202000141.html)は<犯行資金をATMで下ろすことが準備行為に該当すると政府は例示するが、お金を引き出すというのはごく日常的な行為である。それが犯罪なのか。どう証明するのか。疑問は尽きない>などと指摘したうえで、「行く末は監視社会か」との小見出しを取り、<捜査当局が犯行前の共謀や準備行為を摘発するには国民を監視するしかない。通信傍受や密告が横行しよう。行き着く先は自由が奪われた「監視社会」なのではなかろうか>と警鐘を鳴らす。

日経(http://www.nikkei.com/article/DGXKZO14335070S7A320C1EA1000/)は反対というより慎重論で、<(共謀罪と比べ)適用の対象を「組織的犯罪集団」に限定した。処罰するためには重大な犯罪を計画したことに加え、現場の下見といった準備行為が必要となるような見直しも行った。法律の乱用を防ぐといった観点から、こうした修正は評価できる>としつつも、<法案の必要性や意義について、そもそも国民の間に理解が深まっているとは言いがたい。国会審議の場では成立を急ぐことなく、十分な時間をかけて議論を尽くす必要がある>と、拙速な議論を戒めている。

また、全国紙ではないが、辺野古への基地建設や東村高江のヘリパッド建設などに市民団体などの反対運動が続く沖縄県の琉球新報社説(3月22日、http://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-464905.html)は、市民団体などの危惧を代弁し、<米軍基地周辺で行われる抗議活動が兵器や弾薬などの損壊行為に向けた下見と見なされ、「共謀罪」の適用対象になるという懸念は与野党にかかわらず存在する。……東村高江でのヘリパッド建設に対する抗議活動で本来なら立件すら疑わしい事案を公務執行妨害などとして起訴し、政権批判を封じるのが現政権の体質であり、司法も追認する。……市民社会の自由が奪われる前に即刻廃案にすべきだ>と、厳しく指摘している。


 この間、いくつかの世論調査があるが、国民の理解が深まっていないことを印象付ける結果になっている。毎日(3月11、12日実施)は、「反対」41%、「賛成」30%▽NHK(10~12日実施)では、「必要だ」45%、「必要でない」11%、「どちらとも言えない」32%▽時事通信(10~13日)は「賛成」63.1%、「反対」20.0%▽日テレ(2月17~19日)は「賛成」33.9%、「反対」37.0%、「わからない、答えない」29.2%など、数字が大きくぶれている。

 これは、設問の表現も影響している可能性があり、「賛成」「必要」の回答が多い時事は<「共謀罪」の構成要件を改め「テロ等準備罪」を創設する組織犯罪処罰法改正案>、NHKも<政府が、組織的なテロや犯罪を防ぐため、犯罪の実行前の段階でも処罰できるよう、「共謀罪」の構成要件を厳しくして「テロ等準備罪」を新設する法案>と、いずれも問題点を指摘せずに質問している。

 一方、「反対」の回答が多い日テレは<政府は組織的犯罪集団が犯罪を実行しなくても準備段階で罪に問える「共謀罪」の趣旨を含んだ、「テロ等準備罪」を設ける法案を今の国会に提出する方針です。犯罪の計画段階で、処罰の対象となることに対して、人権侵害や、捜査機関による乱用の恐れがあるとの指摘もあります>、毎日も<政府は、組織的な犯罪集団が犯罪を計画した段階で処罰する法案を今の国会に提出する方針です。対象になる犯罪を当初予定していた700弱から半分以下に減らしましたが、一般の人も捜査対象になるとの指摘があります>と、問題点、懸念されることを丁寧に説明して質問している。

 NHKの3月調査でも、「どちらとも言えない」が2月より3ポイント増えているように、法案への理解は進んでいるとは到底言えない状況で、国会がどこまで議論を深められるか、注視していく必要がある。

長谷川 量一 (ジャーナリスト)

最終更新:3/30(木) 13:00
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