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焦点:中国が豪州に急接近、トランプ外交の「空白」狙う

ロイター 3/31(金) 14:53配信

[シドニー 29日 ロイター] - 熱狂的なスポーツファンの多いオーストラリアで、ほとんどこれは大失態と言える行為だった。同国を訪れていた中国の李克強首相が、シドニーで行われていたラグビーの試合会場に、相手チームのカラーである青と黒と白のマフラーを身に着けて登場したのだ。

だが李首相はすぐに、ターンブル豪首相に合わせてホームチーム「シドニー・スワンズ」の赤と白のチームマフラーも身に着けた。

李首相はその後、さわやかな秋の夕べに両チームのマフラーを着用するのは「実に暑かった」と告白。しかし両国の指導者が満面の笑みで肩を並べている姿は、就任したばかりのトランプ米大統領とターンブル首相との険悪な電話会談とは明らかに対照的である。

5日間に及ぶ李首相のオーストラリア訪問中、両国は、「米国第一」を掲げるトランプ大統領の保護主義に対抗するとの明確な課題を共有することにより、これまで前例のない合意点を見いだした。

「中国とオーストラリアの協力は、自由貿易を守り、その恩恵を支持するというわれわれの決意を地域と世界に示すものだ」と、ターンブル首相はシドニーで開催されたフォーラムで財界のリーダーや政治家らに向かってこう述べた。李首相も同様の発言を行った。

とはいえ、貿易関係強化は、超大国の間に挟まれたオーストラリアのデリケートな綱渡りの一側面にすぎない。米国との揺るぎない安保関係や西側の民主的価値観は、これまで同国と中国の関係深化を限られたものにしていた。

オーストラリアが将来、経済的に中国に依存せざるを得ないことをよく分かっている李首相は今回の訪問中、オーストラリアに対し「冷戦時のように、どちらかの側につく」ことをけん制した。

これに対し、ターンブル首相は「オーストラリアが中国か米国を選ばなくてはいけないという考え方は正しくない」とすぐさま応じた。しかし、一部の専門家は異を唱えている。

「オーストラリアが直面する問題は、影響力を強めたい中国によって高まる緊張であり、今後オーストラリアは2つの同盟国のどちらかを選ばなくてはならなくなるかもしれない」と、メルボルンにあるラ・トローブ大学のニック・ビスリー教授(国際関係学)は語った。

<中国にシフト>

比較的平和ななか経済成長を遂げてきたオーストラリア国民は、次第に中国に対する認識を変えつつあるようだ。ある世論調査では、中国と米国のどちらがオーストラリアにとって重要かという質問に対し、2年前は米国と答えた人が多かったものの、現在は数字が拮抗しており、変化の兆しが見えている。

トランプ大統領は、米国のアジア重視政策に寄与する環太平洋連携協定(TPP)からの離脱を表明。TPPには中国は含まれておらず、李首相はその間隙を突いて、おいしい手土産をもってオーストラリアにやって来た。その手土産とは、冷蔵牛肉輸出の規制撤廃というものだ。

中国は昨年、オーストラリアから1500億豪ドル(約12兆8500億円)規模のモノとサービスを輸入しており、大差でオーストラリアの最大貿易相手国の座を獲得。しかし、貿易と安全保障を両立させるのはオーストラリアにとって至難の業である。

同国の軍事的優先事項と経済的優先事項は、発展途上だが戦略的に重要な北部地域でぶつかり合っている。ダーウィンのオーストラリア軍基地には、まもなく新たな米軍駐留部隊が到着する予定だ。同基地は領有権が争われている南シナ海を監視する拠点となっている。

オーストラリアは今のところ、同海域における米主導の「航行の自由」作戦への参加要請を断っているが、米国、英国、カナダ、ニュージーランドと結ぶ諜報に関する協定「ファイブ・アイズ」の一員として、米国との安保同盟を着実に強化している。

その一方で、オーストラリア北部は、中国が掲げるシルクロード経済圏構想「一帯一路」などに組み入れられることによって、インフラや産業への大規模投資を政府が模索している地域でもある。

中国はオーストラリアに対し、同構想に署名するよう求めているが、両国は李首相訪問中に合意には至らなかった。しかし専門家たちによれば、合意はそれほど遠い話ではないという。

<投資と送還>

豪中関係の強化には他にも障害がある。

李首相がオーストラリアを去ってからわずか2日後、10年前に署名された中国との「犯罪人引渡条約」を批准する議会承認案が撤回された。

「首脳級の他国訪問は成果によって評価されるため、中国は李首相のオーストラリア訪問のころに犯罪人引渡条約が批准されることに関心を寄せていただろう」と、豪シンクタンク「ローウィ国際政策研究所」のユアン・グラハム氏は指摘。

「訪問は経済面では非常に成功したように見えるが、条約が批准できなかったことは、いや応なく喪失感を招くだろう」と同氏は言う。

また、ある大規模な豪中ビジネスフォーラムの出席者たちによると、会議の際に交わされた会話のほとんどは、中国の投資に対するオーストラリアの矛盾したアプローチについてだったという。

オーストラリア政府は海外資金の必要性を説く一方で、民営化事業に対する中国主導の入札をリスクと表現している。電力公社オースグリッドや牧場運営大手S・キッドマンの中国企業への売却をオーストラリア政府が阻止したことは、中国政府に遺恨を残している。

「中国の投資家が、そもそもなぜオーストラリアに投資するのかと自問する日が来るだろう」と語るのは、北京大学の査道炯教授(国際関係学)だ。「オーストラリアは、経済的あるいはテクニカルな要因ではなく、政治に基づいて判断を下している」

(Jane Wardell記者、Jonathan Barrett記者 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

最終更新:3/31(金) 14:53

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