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今後も牛と一緒に 欠かせぬ風評払拭 避難解除 49頭帰還 福島県葛尾村

3/31(金) 7:01配信

日本農業新聞

 東京電力福島第1原子力発電所事故後の避難指示で、全ての牛がいなくなった福島県葛尾村に30日、繁殖牛と子牛計49頭が戻って来た。全地域に避難指示が出ていた市町村では、最大の頭数。農家らは2016年6月の解除後、除染など準備を重ね、6年ぶりの営農再開を喜ぶ。半面、今後出荷する子牛が「風評被害」を受けず正当に評価されるか、不安を抱える。

 がらんとした牛舎に、農家に引かれて牛6頭が入っていく。静まり返っていた牛舎の中に、こつこつと蹄(ひづめ)の音が響く。

 牛の持ち主、新開貞志さん(76)は「いい気持ちだね。今後も牛と一緒に生きる」と意気込む。

 以前は母牛9頭を飼養していたが、事故で避難を余儀なくされ、3頭は生活資金を得るため売却。残り6頭を田村市に牛舎を持つ農家仲間に預けていた。その後、1頭を売却し、三春町の復興住宅から牛舎に通って5頭の世話をしてきた。

 飼養再開には牛舎の除染が欠かせない。餌箱も破棄しなければならず、片道1時間かけて牛舎に通い、新たに6個を作り上げた。

 新開さんは牛の帰還に合わせて30日に復興住宅を出て、自宅に戻った。「これから頑張りたいが風評被害が心配。値段が下がれば、せっかく再開した経営も、もたなくなる」と不安を口にする。

 坪井泰男さん(58)、美代さん(53)夫妻の牛舎には、22頭の牛が戻った。除染のため牛舎の周りの木約100本を夫妻自ら伐採し、再開にこぎ着けた。

 避難指示後、田村市に移り、市内で牛舎を借りて22頭を育ててきた。避難先の同市から牛舎まで片道1時間。牛の世話もあるので伐採に割ける時間は2、3時間しかなかったが、伐採を繰り返した。美代さんは「ようやく牛の声を聞けた。伐採は大変だったけど報われた」と喜ぶ。

 夫妻は当面、同市から通う。4月には2頭の子牛の出荷を予定する。泰男さんは「正当に評価された価格が付いてほしい」と願う。風評払拭(ふっしょく)が欠かせない。

 村内では96戸が牛を飼養していたが、原発事故で11年4月に全域が避難指示の対象になった。16年6月、帰還困難区域を除き指示が解除され、農家や牛の帰還準備が始まった。実際に営農再開の準備に着手できたのは7戸。3月下旬から牛の搬入を始め、30日に全49頭が帰還した。

 村外に牛を避難させている農家はまだ17戸いる。村は営農再開を促す方針で「畜舎整備などの助成を通じ、村の基幹産業の繁殖牛飼養を復活させたい」(地域振興課)と話す。

 全域で避難指示が出ていた浪江町と飯舘村も31日、一部を除き解除される。(塩崎恵)

日本農業新聞

最終更新:3/31(金) 7:01
日本農業新聞