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【漢字トリビア】「宵」の成り立ち物語

TOKYO FM+ 4/2(日) 12:00配信

「漢字」、一文字一文字には、先人たちのどんな想いが込められているのか。時空を超えて、その成り立ちを探るTOKYO FMの「感じて、漢字の世界」。今回の漢字は「宵」。夜桜見物に歓迎の宴……、楽しみの多い春の宵です。

「宵」という字の古い字体は、うかんむりの下に「小」と書き、その下に「月」と書いてあります。
うかんむりは、祖先をまつる霊廟の屋根の形。
その下に「小さな月」と書くことで、祖先の霊が眠る部屋に、わずかな月の光が差し込んでいる様子を表し、そこから「よい・よる」という意味をもつ漢字になりました。
日が暮れてから間もない時刻、夕方から夜更けまでが「宵」。
あっという間に日が暮れてしまう冬が終わり、ゆっくりと陽が沈み、夕方のひとときが長く感じられる今日この頃。
「遅い日」と書いて「遅日」という言葉がありますが、これは、日がいつまでも暮れないことを表す春の季語。
少しずつ弱まってゆく太陽の光と交代に、静かにしのびこんでくる月の光。
何とはなしに心ざわめく春の宵です。

そわそわと動き出したくなるその一方で、新たな一歩を踏み出す不安に悩むこともあるこの季節。
そんな日は、うるんだ春の空を見上げてみましょう。
春分を過ぎた頃からの北東の空には、北斗七星が天高く昇ってきます。
柄杓の先にはオレンジ色の一等星、アルクトゥルス。
その先にあるのは、おとめ座のスピカ、別名「真珠星」。
このふたつは、「春の大曲線」と呼ばれる優雅な弧を描いて結ばれています。
おぼろ月夜に浮かんだ、やわらかな光を放つ星の群れ。
憂いを抱えて立ち止まる人を、やさしく見守っています。

ではここで、もう一度「宵」という字を感じてみてください。

中国北宋の詩人・蘇軾(そしゅう)の詩『春夜』。
この中に、春の宵の美しさをたたえた有名な一節があります。
「春宵一刻直千金 花に清香有り月に陰有り」
ひとときに千両の値打ちがあるほど趣き深い春の宵。
花は清らかな香りを放ち、月はおぼろにかすんでいる……。
甘美な味わいに酔いしれる春の宵、ふと気が緩んで、隠し通していたはずのひそかな想いが、こぼれ出してしまいそうです。

漢字は、三千年以上前の人々からのメッセージ。
その想いを受けとって、感じてみたら……、
ほら、今日一日が違って見えるはず。


*参考文献
『常用字解 第二版』(白川静/著 平凡社)
『宇宙ウォッチング 四季の星座と宇宙の不思議』(藤井旭/著 平凡社)
『読んでわかる俳句 日本の歳時記 春』(宇多喜代子、西村和子、中原道夫、片山由美子、長谷川櫂/著 小学館)

(TOKYO FM「感じて、漢字の世界」2017年4月1日放送より)

最終更新:4/2(日) 12:00

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