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「どうせ売れない」を覆した「もぎたて」大ヒットの理由

4/3(月) 6:55配信

ITmedia ビジネスオンライン

 2016年に大ヒットした缶酎ハイの新商品といえば、間違いなくアサヒビールの「もぎたて」だ。

【もぎたての新フレーバー「新鮮 オレンジライム」】

 もぎたては2016年4月5日の発売から1週間で70万ケース(1ケース:250ミリリットル×24本換算)を突破。その後も勢いは止まらず販売計画の1.6倍のペースで推移しながら、年間で706万ケースを販売し、同社の缶酎ハイやカクテル缶を扱うRTD事業史上、最大の販売記録を更新した。

 同社は2001年にRTD市場へ参入して以来、なかなかヒット商品を生み出すことができず、2013年には過去最低の売り上げ(RTD事業)を記録していた。

 もぎたての開発プロジェクトリーダーを務めている宮广(みやま)朋美さん(マーケティング本部)も「アサヒビールの酎ハイは売れない。取引先の小売りや流通だけでなく、社内でもそんな空気がありました」と当時の状況を話す。

 そうした中、宮广さんはどのようにしてこの新ブランドを生み出したのだろうか。

●居酒屋の「生搾りレモンサワー」を目指せ

 宮广さんは2009年に入社。11年にRTD事業部配属となり、13年から新ブランド(もぎたて)の開発を任された。その当時、RTD業界全体の市場が伸び続けているにも関わらず、同事業部の売り上げは過去最低にまで落ち込んでおり、経営陣からも「RTD事業部の成長が一番の経営課題」と言われていたという。

 世間で売れていた他社の酎ハイは、アルコール度数7%以上のレモンとグレープフルーツのフレーバー。宮广さんは「当社もその王道(売れる)要素を取り入れた商品を何度も開発してきましたし、逆にニッチな市場を攻めた商品にもチャレンジしてみました。しかし、ヒット商品は生まれませんでした」と振り返る。

 どうすれば売れる酎ハイを作れるのか――。宮广さんは原点に立ち返り、まずユーザーが抱いている「(缶)酎ハイに対する潜在的な不満」を徹底的に掘り起こそうと考えた

 “理想の酎ハイ”を実現するために5000人規模のアンケート調査と360人のインタビュー調査を実施した。特に力を入れたのがインタビュー調査。これまで同社は商品開発において100人を超えるインタビュー調査を実施したことはほぼなかったが、潜在ニーズを引き出すためには数をこなす必要があったという。

 「もっと詰めよう、もっとニーズを引き出そう――と、のめり込んでいくうちに気が付いたら当社史上最大規模の市場調査になっていました」

 調査は納得いくまで続けた。当初は2014年に発売する予定だったが、調査期間は約3年を要し、2年遅れの2016年の発売となった。

 この徹底したニーズ調査で見えてきたのは、これまでの酎ハイには「人工的な味(雑味)や香りがある」という不満があること。そして居酒屋にある「生搾りレモンサワー」のように、新鮮で雑味もなく果実感溢れる酎ハイが理想だということだった。

 それを実現するために宮广さんが決断したこととは……?

●「収穫から24時間以内に搾汁」新鮮さを徹底追及

 居酒屋が提供する生搾りレモンサワーのような新鮮さを出すため、宮广さんは「収穫から24時間以内に搾汁」した果汁だけを使用することを決めた。それを実現する際に最も苦労した点は、果汁の調達先探しだ。

 「多くの果汁メーカーでは、収穫した果物がある程度たまってから搾汁する方が効率が良いため、基本的には収穫から3日程経過してから搾汁します。また、搾汁工場までの距離が近い農園でなければ『24時間』をオーバーしてしまうため、物流面での条件を満たす必要もありました」

 当然、こうした条件を満たす果汁メーカーは簡単には見つからない。しかし、もぎたての新鮮さを実現するためにも、収穫から24時間以内の搾汁は譲れなかった。現在も、新しいフレーバーを開発するたびに、条件を満たす果汁メーカー探しに頭を悩ませているという。

 また、製造フローも見直した。材料に劣化(酸化)防止効果のある素材(調合液)を投入し、商品を仕上げるときに行う高温殺菌では、通常よりも低温で殺菌することで香味成分の劣化を防いだ。

 特に、重要だったのが高温殺菌のプロセス。温度が高すぎると香味成分は劣化し、逆に温度が低すぎると品質を保てない(微生物を排除できない)。品質を保ちながらどのくらいまで温度を下げれるのか、何度も実験を繰り返したという。

 「高温殺菌による劣化は仕方がないもの――。これが業界全体の常識でした。しかし、劣化を諦めてしまえば、ユーザーが求めている理想の酎ハイは実現できません。常識を疑い、実験を繰り返した結果、今までよりも低い温度で微生物を排除できることが分かりました」

 こうした試行錯誤によって生み出された「アサヒフレッシュキープ製法」(特許出願中)によって、レモンの風味を感じる香気成分濃度が他社製品の10倍も高くなるという実験結果も得られた。

 「他社製品と同じぐらいのおいしさではユーザーは振り向いてくれません。ブランドが生き残るためには、おいしさで圧倒し、そして、他社がマネできない技術が必要なのです」

●「どうせ売れない」という社内外の意識を変えた

 宮广さんはプロジェクトリーダーとしてメンバーのモチベーション向上にも努めた。同社の場合、通常であれば商品の中身やネーミング、キャッチコピーなどを完成させてから販促のプロジェクトチームを立ち上げるのだが、宮广さんは商品のコンセプトと中身(成分)以外何も決まっていない段階から、多くのメンバーに加わってもらった。

 「『うちの酎ハイは売れない』という印象が全社的に根付いていました。それではモチベーションも上がりませんし、ヒット商品を作ることはできません。商品を完成させていく過程から多くの人に関わってもらうことで、より強い当時者意識を持ってもらい、団結力を高めようと考えました」

 宮广さんによれば、もぎたてがヒットする前はRTD事業に関心を持ってくれる人は少なかったという。しかし現在は、商品開発の研究部門も「どうすればもっと果汁感を高めることができるのか」と、もぎたての改良に必死になっているそうだ。

 取引先の小売り店には、とにかく徹底的に飲んで比較してもらい、今までの酎ハイとの違いをアピールしたという。

 「当社の酎ハイ製品が本当に売れるのか、小売り店も半信半疑。『どうせまた売れないでしょ?』と思われていました。しかし、試飲していただくと『お、今回はいけるかもね!』と好反応に変わりました」

 一般消費者にも発売前に、同社史上過去最大規模となる50万本のサンプルを配布し、もぎたての果汁感、新鮮さを体感してもらった。こうした取り組みも発売から1週間で70万ケースを売り上げる成功につながっている。

 宮广さんは、もぎたてについて「まだまだ進化できる」と話す。

 「もぎたての果汁感、新鮮さをどこまで追求できるか、まだまだ挑戦の余地はあります。フレーバーの種類も定期的に拡充し、今年度は1100万ケースの販売を目指します!」


(鈴木亮平)