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人手不足インフレになる? ヤマトに続くのは

4/4(火) 15:00配信

ニュースソクラ

見え隠れするインフレ気配は、伸びしろの証

 デフレしか知らない平成世代には初耳かもしれないが、インフレは2種類に大別できる。

 ディマンド・プル型と、コスト・プッシュ型だ。

 景気が良く、消費など需要(ディマンド)が盛り上がり供給を上回ると、売り手市場になった財やサービスの値上げが通りやすくなる。前者のディマンド・プル型のケースだ。

 原油価格が高騰すると、好況不況にかかわらずガソリンの小売価格が上がるのは後者のコスト・プッシュ型。賃上げなどの労務コスト増が価格に転嫁されるケースも考えられる。

 消費は冴えず、ディマンド・プル型は起きそうにない。だが、バブル期以来という有効求人倍率の高さが示す「人手不足」が、コスト・プッシュ型物価上昇の引き金になるかもしれない。

 「まさか」と思う人もいるだろう。確かに春闘は、ベースアップの減速が伝えられる。だが、15日の集中回答日に示されたのは、自動車、電機など製造業大手の正社員向けが中心だ。非製造業、中小企業、非正規勤労者などの世界では、別の風景が広がる。

 ヤマト運輸は、前年を上回る賃上げに加え、宅配便受け入れ総量の抑制、時間指定サービスの縮小などで労使が合意した。ネット通販荷物の急増で、人手が足りず、従業員が長時間労働を強いられている背景がある。秋までに宅配便基準料金の27年ぶりの値上げを実施、アマゾンなど大口顧客とも値上げ交渉に入る。

 東京ディズニーランドなどを運営するオリエンタルランドは、アルバイトなど非正規の待遇改善を加速している。これまでのアルバイト時給上限の引き上げや、契約社員の正社員化などに加え、4月1日から約2万人いる非正規従業員を労組員に加える。

 背景には、サービス業などでの人手不足の深刻化がある。3大都市圏のパート労働者の時給は昨年11月に初めて1000円超えた。またパート時給の上昇率は、このところ正社員を上回っている。

 労働需給の引き締まりは、人口構成という構造問題も映している。日本の人口ピラミッドの大きなコブ「団塊の世代」の労働市場からの退出が進む一方、新たに労働市場に参入するのは少子化世代。今春の大卒の就職内定率は90%を超え過去最高だ。

 人手不足が半恒常化すれば、「待遇改善による労働コストの上昇→物価押し上げ」と波及する可能性が高まる。ヤマトに続き佐川急便、日本郵便も大口顧客との値上げ交渉を進める方針という。

 運輸と並ぶ人手不足業種の建設業でも、賃金の上昇が続いている。建設大手の清水建設は、今春闘で一律1万円のベアを決めた。労務コストの上昇は建築費高騰の大きな要因になっている。

 人手不足は、「働き方改革」の推進力にもなる。“ブラック企業”などと呼ばれては、人が集まらず、労働力が稀少になれば、その有効活用に知恵を絞らざるを得ない。日本の労働生産性は先進国で最下位レベル、逆から見れば、働き方を工夫することによる生産性の“伸びしろ”がある、ということだ。

 日本電産は、1000億円の自動化投資で2020年の残業ゼロを目指し、残業が減っても年俸が減らない賃上げも計画しているという。人手不足を機に産業界全体がこの方向に進めば、マクロ的にも生産性向上をテコにした日本経済の成長経路が見えてくる。

■土谷 英夫(ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1948年和歌山市生まれ。上智大学経済学部卒業。日本経済新聞社で編集委員、論説委員、論説副主幹、コラムニストなどを歴任。
著書に『1971年 市場化とネット化の紀元』(2014年/NTT出版)

最終更新:4/4(火) 15:00
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