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スポーツ界で“オレ様”が減っている、なるほどな理由

4/5(水) 8:17配信

ITmedia ビジネスオンライン

 「売り上げを伸ばしたい」「顧客満足度を上げたい」「ヒット商品を出したい」――。目標を達成したいけれど、なかなかうまくいかずに悩んでいるビジネスパーソンも多いはず。結果を出す人と、そうでない人にはどのような違いがあるのだろうか。

【2011年に上海で開催された世界水泳】

 このように書くと、「ビジネス界で成功してきた重鎮の声を紹介するんでしょ」と思われたかもしれないが、今回は違う。水泳界である。「オレの仕事と水泳なんて関係ないよ」と早合点して、違うページに飛ばないで……いや、“泳がないで”いただきたい。

 目標を達成するために、必要な知見はジャンルを超えて共通するものがあるはず。例えば、野球界で言えば、ヤクルトスワローズなどで監督を務めた野村克也さん、サッカー界で言えば、50歳になってもプロ選手として活躍している“カズ”(三浦知良さん)らの声に耳を傾けるビジネスパーソンも多いはずだ。

 今回ご登場いただくのは、松田丈志さんである。オリンピック4大会に出場し、4つのメダルを獲得。競泳チームのキャプテンを務めていた松田さんといえば、あのセリフを思い出すかもしれない。「(北島康介選手を)手ぶらで帰らせるわけにはいけない」「(銅メダルを手にして)これが自分色のメダルですね」――。

 手足が長く身長も高い外国人選手に比べて、体力的に見劣りする日本人は自由形やバタフライは不利と言われている。そんな逆境の中で、松田さんは日本記録を何度も更新し、何度も表彰台に上がった。最近共書『夢を喜びに変える 自超力』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を出された松田さんに、結果を出す人、そうでない人の違いなどを聞いた。聞き手は、ITmedia ビジネスオンラインの土肥義則。

●結果を出す人の共通点

土肥: 松田さんは4歳のときに水泳を始めて、オリンピックに4回も出場している。1回だけでもスゴいことなのに、4回も出場して、メダルを4つも手にしているんですよね。これまでたくさんの選手を見てきた中で、結果を出す人、そうでない人にどのような違いがあると思いますか? 共通する点などがあれば教えてください。

松田: いくつかあると思いますが、その中のひとつに「応援されるかどうか」があるのではないでしょうか。

土肥: 応援? ファンからの応援がたくさんあれば、アスリートは実力以上のチカラを発揮することができる、といった話を聞いたことがありますが、そういう意味ですか?

松田: ファンに応援されることも重要ですが、ここでお話しすることは周囲の人から応援されることですね。

土肥: 周囲から応援される? どういう意味でしょうか?

松田: 何か大きなことを成し遂げようと思った場合、自分一人だけのチカラでそれを全うするのは困難ですよね。目標を持ったその瞬間から、応援してくれる人が必ず必要になります。それはスポーツの世界だけでなく、ビジネスの世界でも同じではないでしょうか。

土肥: ふむ。上司から、同僚から、取引先から、嫌われるよりは好かれるほうがいい。水泳をしていくうえで、周囲に応援されるってどういうことでしょうか?

松田: 「水泳でオリンピックを目指す」と決めると、親の応援が必要になります。スイミングクラブに支払う会費を負担してもらわなければいけませんので。中学や高校でスイミングチームに入っても、監督、コーチ、先輩などからさまざまなことを教えてもらわなければいけません。そのためには、応援される人にならなければいけないんですよね。

土肥: なんとなく意味は分かるのですが、その応援される人になるにはどのようにすればいいのでしょうか?

松田: それほど難しい話ではありません。あいさつができたり、約束を守ったり、素直であったり。「あいつ、ちょっとなんだかなあ」と思われるよりも、「あいつ、いいよね」と思われるほうがいい。普段のちょっとした心がけで、その後の水泳人生が大きく違ってくるんですよね。

●やがて越えられない“壁”にぶちあたる

松田: また本気で応援してもらうには、目標に向かって一生懸命努力する姿勢を見せなければいけません。会社の中でも、がんばっている同僚や後輩って、周囲の人たちから支えられていませんか?

土肥: 確かに。

松田: そして、戦うステージや目標が大きくなると、応援の輪も大きくしていかなければいけません。どういう意味かというと、自分一人のチカラでは、やがて越えられない“壁”にぶちあたるからなんです。

 持って生まれた体力や才能で中学や高校で好成績を残すことができても、オリンピックなど世界の舞台で戦うことは難しい。なぜなら科学トレーニングやコンディションなどの面で、多くの情報や専門知識などが必要になるからです。情報は年々増えていて、私が初めて出場したアテネ大会よりも、次の北京のほうが充実していました。そして、北京よりも次のロンドンのほうが、ロンドンよりも次のリオデジャネイロのほうが充実していました。

土肥: 最先端の科学トレーニングを受けたいなあと思っていても、応援される人でなければ誰からも教えてくれないというわけですね。

松田: はい。また、世界で戦うためには海外遠征に出かけなければいけないので、金銭面でサポートしてくれるスポンサーの存在も欠かせません。ひとりの選手が成功するには応援の輪を広げて、周囲のチカラを自分のチカラに変える努力が必要なんです。

土肥: 水泳や陸上って個人のタイムを競う競技ですよね。もちろんリレーなどはありますが、基本的には個人プレー。野球やサッカーなどのように集団で行う競技でないので、スタンドプレーに走る選手が多いのではないでしょうか。「オレ様のタイムは速い。誰にも文句を言わせねえぜ」といった感じで。

松田: 水泳界だけでなく、どこの世界にもそのような人はいるのではないでしょうか。ただ、先ほど申し上げたように、これまでよく分からなかったことが、科学的に証明されてきました。さまざまな知見が蓄積されているのに、いわゆる“オレ様”タイプの人はそうした情報を手にできない。スポーツの競技レベルが上がっている中で、いばりくさって才能だけでやっていくことは難しくなっているのではないでしょうか。

●応援される人は結果を出しやすい

土肥: 昔のスポーツを見ていると、監督に文句を言ったり、エラソーなことばかり言ったり、私生活が乱れていたり、そんな選手が多かったような。もちろん、いまでもそのような選手はいますが、昔に比べて少なくなった。このような傾向があることに対し、「選手の個性がなくなった」「豪快さがなくなった」と指摘する人がいますが、松田さんの話を聞いていると、ちょっと違いますよね。

 科学的なトレーニングなど、より専門的な知識を得るために、謙虚な姿勢でなければいけない。つまり、周囲から応援される人でなければ、結果を残すことが難しくなってきたわけですね。

松田: はい。その昔、プロスポーツ選手で「オレは毎晩のようにお酒をたくさん飲んでいた」といった話を聞くことがあります。当時はそれでもやっていけたのかもしれませんが、いまは違う。不摂生な生活を続けると、ベストパフォーマンスを出すことが難しくなることが、データとして分かってきました。飲み過ぎは体に良くない、ことは昔からなんとなく分かっていたことだと思いますが、深酒以外にもさまざまなことが明らかになってきました。

 そうすると、突き詰めれば突き詰めるほど、選手にとって、余計なもの、不要なもの、マイナスなものを省かざるを得なくなったんですよね。結果、競技だけでなく、私生活を含めて、プロフェッショナルな人でなければ結果を出しにくい時代になってきました。

土肥: 人より秀でた能力を持っているのにもかかわらず、スタンドプレーに走ったために、宝の持ち腐れで終わった……という人もたくさんいるでしょうね。

松田: 逆に、応援される人はどうか。周囲の協力を得ることで、その人のチカラは何倍にも大きくなる可能性があります。自分が必要としている知識や能力をもつ人は周囲にたくさん存在しているはずなので、そのことが分かっていれば“オレ様”になんてなれないですよね。

●続けるために何が必要か

松田: 話は変わりますが、子どもたち向けの水泳教室で教えていると、親御さんからこのような質問が多いんです。「どのようにすれば、息子は速く泳ぐことができるようになりますか?」「どのようにすれば、娘はうまく泳げるようになれますか?」と。

土肥: 親御さんの気持ちはよく分かります。水泳以外でも「どのようにすれば、算数の計算ができるようになりますか?」「どのようにすれば、ピアノをうまく弾くことができるようになりますか?」といった質問をする人は多いはず。

松田: でも、ひとことで言える正解はないんですよね。速く泳げるようになるには、うまく泳げるようになるには、水泳を続けるしかありません。そして、続けるためには周囲から応援されなければいけません。

 仕事でも同じではないでしょうか。もちろん、最終的にやるかやらないかは自分が動かなければいけませんが、壁にぶちあたったときどうするのか。上司であったり、先輩であったり、同僚であったり、さまざまな人からアドバイスをもらう。そうすることで、一人で乗り越えられなかった壁を乗り越えられるようになるのではないでしょうか。