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円相場の材料点検と見通し~金融市場の動き(4月号)

4/7(金) 19:55配信

ZUU online

■要旨

1.現在、ドル円を巡る相場の材料は盛りだくさんの状況にある。材料を点検すると、米トランプ政権の政策運営に関しては、減税・インフラ投資、保護主義、為替政策の行方が挙げられる。米金融政策に関しては、利上げペースとバランスシート縮小の行方、欧州の政治リスクに関しては、仏大統領選が大きな材料になる。そして、シリアや北朝鮮情勢の緊迫化など地政学リスクの高まりも材料になっている。

2.今後については、5月上旬までは円高が進みやすい地合いが続くと見ている。流動的な地政学リスクに加え、米為替報告書、日米経済対話、仏大統領選、米暫定予算期限など重要なイベントが相次ぐ。警戒を要するものが多く、リスク回避の円買いが入りやすい。トランプ政権が円安けん制を繰り出す可能性があるほか、ルペン氏も仏大統領選(1回目)では上位二人に食い込む可能性が高く、110円を割り込む局面も十分想定される。

3.しかし、5月中旬以降は緩やかな円安ドル高の進行が予想される。仏大統領選の決選投票でルペン氏が勝利する可能性は低い。一連の政治イベントを通過したことで、リスク回避姿勢が緩和するうえ、再び米金融政策がドル高材料になってくると思われる。米経済が今後も堅調を維持することで、FRBは段階的に利上げを継続するほか、バランスシート縮小の議論も煮詰まっていくことが見込まれる。市場では、現在あまり織り込まれていない来年以降の利上げ観測が高まり、ドル高圧力が高まると見ている。

4.ちなみに、トランプ政権の減税・インフラ投資に関しては、大きな期待はできない。ただし、年の終盤には一部政策の実現が視野に入ってくることで、ドルを多少押し上げる可能性がある。地政学リスクに関しては、流動的で読めないが、主要国同士が直接衝突する形での紛争は避けられると見ている。年末の水準は116円程度と予想している。

■トピック:円相場の材料点検と見通し

円相場を巡る環境がますます複雑化している。従来からのトランプ政権の政策運営に加え、地政学リスクの高まりも顕著だ。本日も米国によるシリア攻撃の一報を受け、急激に円高が進む場面があった。改めて今後の相場を左右する主な材料を点検し、先行きの展開を考えてみたい。

◆為替を巡る材料は盛りだくさん

現在、ドル円を巡る相場の材料は盛りだくさんの状況にある。大きなテーマに分けると、米トランプ政権の政策運営、FRBの金融政策、欧州の政治リスク、そして地政学リスクが挙げられる。各テーマの詳細な材料とその影響については、次のとおり。

◆米トランプ政権の政策運営

(1) 大規模な減税・インフラ投資の行方
昨年11月の米大統領選後に大幅な円安ドル高進行のメインエンジンになったのは、トランプ氏の掲げる大規模な減税やインフラ投資への期待だが、その後、市場の期待は明らかに後退している。2月末の議会演説、3月中旬の予算教書(簡易版)などで政策の具体像に触れられなかったほか、3月下旬にオバマケア代替法案が撤回に追い込まれ、トランプ政権の政権運営能力に疑問府が付いたためだ。成長期待の低下が米長期金利の低下・伸び悩みをもたらし、ドル売りに繋がった。

今後、再び市場の期待が盛り上がるためには(その際はドル高要因に)、大規模な減税・インフラ投資の具体像が示され、実現可能性が高まる必要がある。特に、5月中旬に公表予定の予算教書(詳細版)の内容が注目される。また、4月28日に期限を迎える暫定予算を延長できるかどうか(延長できなければ一部政府閉鎖も、その際はドル安要因に)もトランプ政権の運営力の試金石とみなされるだろう。

(2)保護主義の行方
トランプ政権の保護主義姿勢も市場の注目材料だ。先月中旬のG20において、米国の意向を反映して「あらゆる保護主義に抵抗する」という文言が声明から削除されたことを受けて、市場ではやや円高が進んだ。米国が保護主義姿勢を強めれば報復合戦となり、貿易が縮小して世界の成長が阻害される恐れがある。そうなれば米国も影響を免れず、利上げペースが鈍化する可能性があるため、保護主義はドル売り材料となる。また、世界経済悪化という連想がリスク回避的な円買いを誘発する面もある。

今後は、本日まで行われている米中首脳会談、4月18日に予定されている日米経済対話で米政権の保護主義スタンスがどこまで出てくるかが注目される。

(3)為替政策の動向
トランプ政権の為替政策もクローズアップされそうだ。トランプ大統領は大統領就任後の1月末にも日本と中国を「通貨安誘導」と批判しており、円高進行の材料となった。そうした中、今月14日に米財務省から半期に一度の為替報告書が公表される見込みになっている。中国や日本は既に為替監視リストに指定されており、為替操作国に認定されるかどうかがポイントになるが、このタイミングで認定されることはまずないだろう。ムニューシン米財務長官も、為替報告書について、従来の方法を踏襲すると既に述べている。ただし、報告書の中で、通貨安に対して批判のトーンを打ち出してくる可能性は排除できない(その場合は円高要因に)。

また、トランプ大統領は、先週、貿易赤字の原因を特定するための大統領令に署名したが、為替問題も調査対象になる。90日以内に結果をまとめることになっているため、その内容には注意が必要になる。

◆米金融政策

米国の金融政策も引き続き大きな材料になる。3月は中旬にかけて早期利上げ観測が高まり、円安ドル高が進行したが、15日のFOMCで利上げはされたものの、先行きの利上げペース加速が示唆されなかったことで期待が後退し、ドル売りが進んだ。

今後のポイントはやはり利上げペースになる。FOMC参加者の利上げ見通し(中央値ベース)では、今年17年は3回(既に1回実施済み)、来年18年は3回、19年は3.5回の利上げが見込まれているが、市場はあまり織り込んでいない。直近のFF金利先物市場における利上げ織り込み状況を見ると、今年に関してこそ2回~3回の利上げが織り込まれているものの、18年は1~2回、19年は約1回の利上げが織り込まれているに過ぎない。従って、今後、先行き、特に18年や19年以降の利上げペース加速が織り込まれれば、ドル高要因になる。

また、一昨日に公表された3月FOMCの議事要旨によれば、大半の参加者が「(経済が想定通り推移すれば)年内のバランスシート縮小が適切になる」と指摘していたことが明らかとなった。FRBはQE3停止以降、バランスシートの維持を実施してきたが、縮小が徐々に視野に入ってきつつある。FRBによるバランスシートの縮小は債券償還資金再投資の停止・縮小を意味しており、金融引き締め効果を持つ。基本的にはドル高要因と捉えられる。

◆欧州の政治リスク

欧州の政治情勢もドル円の材料として注目されている。今月23日にはフランスの大統領選(1回目)が実施される予定だが、どの候補も過半数の票を獲得できない場合には5月7日に上位2候補による決選投票が行われる。

直近の世論調査によれば、反EU路線を掲げる極右政党・国民戦線のルペン氏が優位を維持しているが、同氏が大統領選に勝利すれば、先行きの不確実性増大に伴ってリスク回避的な円高が発生する恐れがある。

市場の先行きへの警戒を示す指標として有名なVIX指数(別名、恐怖指数)は低位での推移が続いているが、昨年終盤以降、フランス長期金利のドイツ長期金利に対する利回り差が拡大しており、既に市場では大統領選への警戒感が燻っていることを示唆している。また、NY金先物価格も今年に入ってから高値が続いており、欧州の政治リスクへの警戒が織り込まれていると推測される。

フランスの大統領選が欧州の今年最大のイベントになると筆者は見ているが、その後もギリシャの国債大量償還問題(7月)、ドイツの連邦議会選挙(9月)など、欧州政治絡みの材料は続く。

◆その他地政学リスク

その他地政学リスクの高まりも市場の材料になっている。本日も米国によるシリア攻撃の報があったが、北朝鮮の核・ミサイル問題に関しても緊迫感が高まっている。

オバマ政権は武力介入に極めて慎重な姿勢であったため、一気に情勢が緊迫化したり、エスカレートしたりする可能性は低かったが、トランプ政権は最近、強硬姿勢が目立っている。

地政学リスクが高まると、本日のように市場がリスク回避的になり、円が買われやすくなる。

◆今後の見通し

次に、今後の見通しについて考えると、当面、具体的には5月上旬までは円高が進みやすい地合いが続きそうだ。流動的な地政学リスクに加え、来週以降、米為替報告書、日米経済対話、仏大統領選、米暫定予算期限など重要なイベントが相次ぐ。トランプ期待の再燃に伴うドル高圧力が当面期待できないなかで、警戒を要するイベントが続くため、リスク回避的な円買いが入りやすい。トランプ政権が強烈ではないにせよ円安けん制を繰り出す可能性があるほか、ルペン氏も仏大統領選(1回目)では上位二人に食い込む可能性が高く、110円を割り込む局面も十分想定される。

しかし、5月中旬以降は緩やかな円安ドル高の進行が予想される。事前の世論調査のとおり、仏大統領選の決選投票で、ルペン氏が勝利する可能性は低い。昨年は英国のEU離脱決定や米大統領選でのトランプ氏勝利など世論調査の結果が覆るサプライズが発生したため予断を許さないとはいえ、決選投票に関する世論調査における同氏の支持率はかなり低い。一連の政治イベントを通過したことで、リスク回避姿勢が緩和し、円安が進みやすくなると見ている。

また、この頃になると、再び米国金融政策がドル高材料になってくると思われる。米国経済は底堅く推移しており、今後も堅調を維持するだろう。景気先行指数も上昇基調を維持している。従って、FRBは段階的に利上げを継続するほか、バランスシート縮小の議論も煮詰まっていくことが見込まれる。市場では、現在あまり織り込まれていない来年以降の利上げ観測が高まり、米長期金利上昇を通じてドル高圧力が高まると見ている。

ちなみに、トランプ政権の減税・インフラ投資に関しては、大きな期待はできない。5月中旬に公表される予定の予算教書(詳細版)は遅れる可能性があるうえ、出せたとしても実行性のあるプランは示せそうにない。仮に公約に近い大規模なプランが示されたとしても、その財源や共和党内での調整難航が意識され、前向きに評価しづらい。ただし、年の終盤には、政策の一部実現が視野に入ってくることで、ドルを多少押し上げる可能性がある。

最後に、地政学リスクに関しては、流動的で読めないが、主要国同士が直接衝突する形での紛争は避けられると見ている。

年末の具体的な水準としては、116円程度と予想している。

■日銀金融政策(3月):長期金利目標引き上げ観測をけん制

◆(日銀)現状維持

日銀は3月15日~16日に開催した金融政策決定会合にて、金融政策を維持した。長短金利目標(短期▲0.1%、長期ゼロ%程度)、長期国債買入れペース(約80兆円)、その他資産買入れ方針にも変更はなかった。声明文における景気の現状判断は「緩やかな回復基調を続けている」とし、前回から据え置いた。内訳の項目では、住宅投資のみ下方修正されている。

会合後の総裁会見では、長期金利目標引き上げの条件についての質問が相次いだ。総裁の説明は「物価安定の目標に向けたモメンタムを維持するために、最も適切と考えられるイールドカーブの形勢を促すことにしている。(中略)こうした考え方にたって、毎回の金融政策決定会合において判断していく」、「物価の基調的な変動を的確に評価する必要がある」などと抽象的な話に留まったが、「現状では2%の物価安定の目標までには、まだなお距離があり、(中略)現在の金融市場調節方針のもとで強力な金融緩和を推進することが適切」、「外国の金利が上昇したからといって、日本の金利を引き上げなければならないとか、上げる必要があるとは考えていない」などと発言。当面は現行の金融緩和を維持する姿勢を示した。市場では近い将来の長期金利目標引き上げ観測が燻っており、これをけん制する意図があったものとみられる。

なお、今春闘に関しては、「4年連続のベアの実現・実施に向けた動きは、経済の好循環の実現を後押しする」と前向きに評価した。

日銀は3月15日~16日に開催した金融政策決定会合にて、金融政策を維持した。長短金利目標(短期▲0.1%、長期ゼロ%程度)、長期国債買入れペース(約80兆円)、その他資産買入れ方針にも変更はなかった。声明文における景気の現状判断は「緩やかな回復基調を続けている」とし、前回から据え置いた。内訳の項目では、住宅投資のみ下方修正されている。

会合後の総裁会見では、長期金利目標引き上げの条件についての質問が相次いだ。総裁の説明は「物価安定の目標に向けたモメンタムを維持するために、最も適切と考えられるイールドカーブの形勢を促すことにしている。(中略)こうした考え方にたって、毎回の金融政策決定会合において判断していく」、「物価の基調的な変動を的確に評価する必要がある」などと抽象的な話に留まったが、「現状では2%の物価安定の目標までには、まだなお距離があり、(中略)現在の金融市場調節方針のもとで強力な金融緩和を推進することが適切」、「外国の金利が上昇したからといって、日本の金利を引き上げなければならないとか、上げる必要があるとは考えていない」などと発言。当面は現行の金融緩和を維持する姿勢を示した。市場では近い将来の長期金利目標引き上げ観測が燻っており、これをけん制する意図があったものとみられる。

なお、今春闘に関しては、「4年連続のベアの実現・実施に向けた動きは、経済の好循環の実現を後押しする」と前向きに評価した。

■金融市場(3月)の動きと当面の予想

◆(10年国債利回り)

3月の動き 月初0.0%台後半からスタートし、月末も0.0%台後半に。

月初、早期利上げ観測に伴う米長期金利上昇を受けて上昇圧力が高まり、9日には0.1%に接近。しばらくは様子見で膠着したが、3月FOMCで先行きの利上げ加速が示唆されなかったこと、トランプ政権の政策運営に懸念が高まったことに伴う米金利低下を受けて低下基調となり、23日には0.0%台半ばに。その後も米政策運営への警戒は続いたが、一方で日銀オペ減額への警戒もあり、月末にかけて0.0%台半ばから後半での推移が続いた。

当面の予想

本日、米国がシリアを攻撃したとの報道があったことで安全資産の国債が買われ、足元は0.0%台半ばへ低下している。今後も地政学リスクに加え、フランスの大統領選挙などの政治イベントが相次ぐことから、長期金利は低位で推移しそうだ。ただし、市場では日銀の国債買入れ減額への警戒も燻り続けており、0.0%半ばより下のゾーンでは低下が進みにくい。当面は0.0%台半ばを中心とする膠着した推移が続くと見ている。

◆ドル円レート

3月の動き 月初113円からスタートし、月末は112円台前半に。

月初、FRB高官発言を受けて米国の早期利上げ観測が高まり、2日に114円台に乗せ、10日には115円台に乗せる。以降もしばらくドルの高止まりが続いたが、3月FOMCで先行きの利上げ加速が示唆されなかった反動でドル売りが優勢となり、16日には113円台前半に。その後はトランプ政権への期待が後退したことでドル安基調に。オバマケア代替法案の採決中止を受けた27日には110円台前半までドル安が進んだ。月末は堅調な米経済指標を好感してドルがやや買われ、112円台前半で終了した。

当面の予想

今月に入り、米経済指標の悪化や北朝鮮・シリア情勢といった地政学リスクへの警戒などから円高が進み、足元では110円台半ばにある。目先は本日夜の米雇用統計が材料となるが、流動的な地政学リスクに加え、来週以降、米為替報告書、日米経済対話、仏大統領選、米暫定予算期限など重要イベントが相次ぐ。トランプ期待の再燃が当面期待できないなかで、上記のような警戒を要するイベントが続くため、リスク回避的な円買いが入りやすい時間帯が続きそうだ。110円を割り込む局面も十分想定される。

◆ユーロドルレート

3月の動き 月初1.05ドル台後半からスタートし、月末は1.06ドル台後半に。

月の上旬は1.05ドル台で膠着推移となったが、ECB理事会後のドラギ総裁発言を受けてECBの追加緩和への期待が後退し、10日には1.06ドル台に上昇。さらにFOMCで先行きの利上げ加速が示唆されなかったことでドル売りが優勢となり、16日には1.07ドル台、21日には1.08ドル台に乗せる。月終盤はECBを巡る過度な緩和縮小観測が緩和したほか、米経済指標の改善もあってユーロ安ドル高となり、1.06ドル台後半で終了した。

当面の予想

昨日、ドラギ総裁が緩和継続姿勢を強調したことなどからややユーロが売られ、足元では1.06ドル台半ばで推移している。フランス大統領選挙への警戒が燻っており、秒読み段階に入るにつれて、ユーロドルには下落圧力がかかる可能性が高い。23日の大統領選(1回目)で反EU派のルペン氏が残れば、警戒感はさらに高まりそうだ。ただし、先月来、ECBによる金融緩和の出口(テーパリングや利上げ)が意識されやすくなっており、今後もユーロの下支えになる。ユーロが底割れる展開は想定しづらい。

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上野剛志(うえの つよし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 シニアエコノミスト

最終更新:4/7(金) 19:55
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