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メキシコ日系企業、ステルス投資でトランプ乗り切り

4/7(金) 14:00配信

ニュースソクラ

NAFTA交渉に注目、トランプ脅威は弱いと判断

 トランプ米大統領は移民制限やオバマケア廃止など繰り出す政策がことごとくとん挫し、「オオカミ少年」のような様相を呈している。最も注目された選挙公約である「メキシコとの国境沿いの壁」の建設についても、議会の反対で予算化が難しくなっている。米国内の雇用を奪う存在として、大統領が敵視するメキシコの経済はどうなるのか。

 メキシコシティから北部方面へ4時間ほど自動車で走ると、高速道路45号線沿いにいくつもの工業団地が広がる。車両運搬車が行き交い、日系など自動車関連メーカーの看板を掲げた工場も次々と現れる。ここグアナファト州では2014年にホンダとマツダが新工場を稼働させ、トヨタも新工場を建設中である。日系企業の進出ラッシュの結果、同州を含む中央高原の日本人コミュニティは近年、急膨張している。

 この工業地帯に激震が走ったのは、北隣のサンルイスポトシ州に工場を建設する予定だったフォードが計画を撤回した年明けである。トランプ氏は選挙戦の最中、メキシコに立地しようとしていたフォードを批判しており、フォードの決定はトランプ氏からの圧力を受けた行動と受け止められた。同様の圧力はトヨタにもかかっている。

 しかし、現地からは「トランプ氏の当落とは関係なくフォードは撤退していたのではないか」との声も聞こえる。メキシコは北米自由貿易協定(NAFTA)に伴う自動車の国際分業体制のなかで、小型車の生産を主に受け持っている。

 現在の米国での自動車販売はピックアップトラックやスポーツ用多目的車(SUV)がよく売れる一方、よりサイズの小さい乗用車は伸びていない。特に、フォードのメキシコでの生産実績は2016年に前年比10%のマイナスとなった。メキシコの自動車メーカー10社でマイナスなのはフォードを含む4社だった。そんなフォードがトランプ氏からの圧力を「渡りに船」と利用した可能性もある。

 進出企業が最も注目しているのは、NAFTA見直し交渉の行方である。環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱を決めたトランプ大統領はNAFTAも批判し、離脱の姿勢をちらつかせる。これに対し、メキシコ政府も高い関税をかけるのであれば離脱する構えを示す。NAFTAが崩壊すれば、進出企業の投資計画に狂いが生じる。

 メキシコ政府の姿勢は必ずしも弱者の強がりとはいえない。むしろトランプ大統領の足元を見透かしている側面もある。というのは、メキシコだけを標的にした高関税をかけるのは法的に難しいうえ、そもそもNAFTA廃止は米国の国益にならないと考えられるためだ。

 専門家によると、国際収支が悪化したとき、米大統領の権限で150日間にわたり15%の関税をかけることはできる。不公正貿易が認められたら、制裁を科すこともできる。しかし、トランプ大統領が言うような35%もの高関税をメキシコだけに恒久的にかける法的根拠に欠けるという。また、米国の平均関税はメキシコよりも低いため、NAFTAを離脱すると米国に不利に働く。
 
 双方が制裁合戦に踏み切った場合、メキシコへの輸出量が多い米国のトウモロコシ農家が米国側で打撃を受ける業界の筆頭に挙がる。実際、メキシコはアルゼンチンやブラジルからのトウモロコシ調達を模索し、米国をけん制している。

 予想しにくいトランプ大統領の行動とその限界を念頭に置きながら、外資の経営者が心がけていることは次の2点に集約できる。

 まず、慎重になりゆきを見定め、自社に有利になるようなポジションを得ることである。日本企業についていえば、年後半から始まるとみられるNAFTA見直し交渉がどのように進展するのか、正確な情報を早めに入手し、その内容に応じて進出企業としての意見を交渉担当者に迅速に伝える動きがみられる。この点に関しては、各社の利害が一致するので、情報交換も円滑に進みそうだ。

 第二に、経営者は必要な投資については目立たぬよう実施するよう努めている。簡単に言えば、「トランプ大統領に目を付けられぬよう、メディアに露出しないように投資する」ということだ。このため、新規投資案件があっても、そのことを大々的に発表し、進捗状況を率直に語る外資の経営者は当面あまり現れないだろう。

米大統領選でトランプ勝利が決まってから大幅に下落していたメキシコ・ペソの対ドル相場も現在は大統領選直前の水準まで戻している。本物のオオカミがメキシコを襲うことはないと考える空気が市場でも強まっている。

■松野 哲朗(経済ジャーナリスト)
1960年埼玉県生まれ。85年日本経済新聞社に入社し、経済部記者、国際部記者、マニラ支局長、静岡支局長などをへて2015年退社、フリーに。

最終更新:4/7(金) 14:00
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