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【漢字トリビア】「甘」の成り立ち物語

4/9(日) 12:00配信

TOKYO FM+

「漢字」、一文字一文字には、先人たちのどんな想いが込められているのか。時空を超えて、その成り立ちを探るTOKYO FMの「感じて、漢字の世界」。今回の漢字は「甘」。「甘味」「甘露」の「甘」。口の中に、ものを示す横棒の「一」と入れた形を示し、甘くておいしい、という感情を表現した漢字だといわれます。

「甘」という漢字のなりたちには諸説ありますが、今回は、絵で表現できないことがらを点や線で示す指示文字として見てみましょう。
そこで、大きく開いた口の真ん中に一本の横棒を引いて、口に「もの」を含んでいる様子を表したのがこの「甘」という漢字。
この横棒一本が示しているのが、苦いものや辛いものではなく、甘いもの。
栄養学的な解釈によれば、甘い食べ物はエネルギーに変わるものが多いため、誰もが好むといいます。
人は昔から、甘みが口いっぱいに広がることを最上のよろこびとし、その実感を形にしたのが「甘」という漢字なのです。

いにしえの人たちが味わった甘さといえば、まるごとかじって味わう果実。
ほのかな甘みと爽やかな酸味が、乾いた身体をうるおしました。
やがて彼らは拾い集めた木の実を加工し、保存するようになります。
石臼や石鎚で木の実を砕き、水にさらして灰汁を抜いたあと、その粉を丸めて煮たり、平たく焼いたり。
そこに果物の汁や植物の蜜で甘みをつけて食べたようですが、これがのちに、和菓子へ発展したとも言われています。
また、『枕草子』の中で“あてなるもの”として紹介されているのが、「甘葛煎」と呼ばれる古代の甘味料をかけた「かき氷」。
清少納言はすっきりとしたその甘さを、“品のあるよきもの”と賞賛しています。
ツタの樹液が原料となるこの甘味料は、手間も日数もかけて作られる貴重品でした。
そのよろこびを、口の中へ永遠にとどめておきたいという願い。
たとえそのおいしさが消えてしまっても、胸に残る確かな幸福感。
「甘」という字には、いにしえの人々の感動がこめられています。

ではここで、もう一度「甘」という字を感じてみてください。

四月八日はお釈迦様の誕生を祝う「仏生会」、通称「花祭り」の日。
寺院では野山の花で屋根を飾った花御堂を立て、その中に安置されたお釈迦様の像に甘茶をかけて祝福します。
「天上天下唯我独尊」
生まれてすぐに立ち上がって歩き、天に向かって言ったというお釈迦様。
天に棲む竜がその言葉に心打たれて、甘い露の雨を降らせたのがその由来です。
天にも地にも、私という人間はただ一人、唯一の存在。
だからこそ、命あるすべてのものは尊く価値のある存在だ、と宣言したお釈迦様。
花祭りは、その言葉をかみしめながら、未来ある子どもたちのすこやかな成長を祈る日でもあるといいます。
着飾って歩く稚児行列の愛らしさも、見どころのひとつ。
ごほうびの甘茶をいただいてはしゃぐ幼子たちに、慈愛あふれる春の光が降り注ぎます。

漢字は、三千年以上前の人々からのメッセージ。
その想いを受けとって、感じてみたら……、
ほら、今日一日が違って見えるはず。


*参考文献
『感性の起源 ヒトはなぜ苦いものが好きになったか』(都甲潔/著 中公新書)
『和菓子』(中村肇/著 河出書房新社)
『読んでわかる俳句 日本の歳時記 春』(宇多喜代子、西村和子、中原道夫、片山由美子、長谷川櫂/著 小学館)

(TOKYO FMの番組「感じて、漢字の世界」2017年4月8日放送より)

最終更新:4/9(日) 12:00
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