ここから本文です

三陸の牡蠣が春先に超美味になる理由

アスキー 4/10(月) 11:00配信

牡蠣は冬が相場ですが、三陸地方の牡蠣は4月
にかなりウマくなることをご存じでしょうか?

 みなさん、おはようございます。ASCII(週刊アスキー+ASCII.jp)編集部の吉田ヒロでございます。さて、アップルやプログラミング、テクノロジー系を専門ジャンルにしているワタクシですが、先日東北に謎の取材に行ってきましたよ。
 
 3月某日、東北新幹線「やまびこ55号」に乗って岩手県にある水沢江刺駅に降り立ちました。そこでクルマに乗り換え、1時間強かけて陸前高田市に移動。なんのために陸前高田市まで来たのかというと、広田湾で牡蠣の養殖を営む漁師さんを密着取材するためです。
 
 牡蠣といえば冬をイメージする方が多いと思います。また、真っ先に思い浮かぶ産地は広島でしょう。実際に牡蠣の出荷量の6割超を広島が占めており、今の時期から大々的に生牡蠣を売り出すことは珍しいといえます。
 
 しかし広田湾で養殖されている牡蠣は、夏の産卵期を控えたこの時期に栄養をため込むので実はいちばんおいしいそうです。岩手県の南に位置する広田湾では、3月に入ると山に積もった雪が解け、栄養分をたっぷり含んだ雪解け水が海に流れ込みます。この雪解け水によって植物性プランクトンが大量発生するので、この時期の広田湾の海面はエメラルドグリーンに変わります。もうおわかりかと思いますが、この大量発生した植物性プランクトンを牡蠣が食べることで身が丸々と太るわけです。
 
 そこで今回は「雪解け牡蠣」の名称で4月に生牡蠣を出荷している牡蠣漁師の佐々木 学さんに密着して、早朝の牡蠣の収穫から加工などを見学してきました。
 
 船を出すのは午前3時半ごろ。広田湾の牡蠣漁師の中ではいちばん早い出港だそうです。佐々木さんによると、漁港にある加工センターでは朝8時からパートの皆さんが作業を始めるので、それまでに牡蠣の水揚げなどを済ませるために超早朝に出港するとのこと。取材日は3月末でしたが、朝の3時すぎはかなり寒くワタクシは震えながら船に乗り込みました。
 
 数分後、牡蠣を養殖しているいかだのうちの1つに到着。さっそく牡蠣の収穫に入ります。いかだに吊されている牡蠣を、船に備え付けられた海水を使った高圧洗浄マシーンに入れていくことで、牡蠣に付着した海藻やほかの貝などが取り除かれていきます。
 
 なお、水揚げして船上で高圧洗浄しただけではフジツボやホヤなどが付いていたり、牡蠣同士がくっついていたりするので、これを加工センターで1個1個キレイに除去します。また、今回獲った牡蠣はそのまま出荷されるわけでなく、掃除されたあとは網のカゴに入れて再び海に戻されます。そして、さらに2週間ほど成長させたものを出荷するそうです。牡蠣は、いかだに密集して吊されているときは貝殻を成長させることを優先するため、身があまり大きくなかったり、やせ細っていたりするとのこと。一方、カゴなどに入れて牡蠣は個体のまま活かし込むと、殻の成長が止まり身のほうに栄養が行き届いて丸々と太るんだとか。
 
 牡蠣の養殖というのは、ホタテの貝殻に牡蠣の稚貝をくっつけていかだに吊せば、2年後に収穫できるという簡単なものではないわけです。出荷までには、かなりの手間暇をかける必要があることを目の当たりにしました。今回はシーズンではないので取材できませんでしたが、夏場にも手間暇がかかる作業があるそうです。船にバスタブのような大きな水槽を設置してそこに65~70度のお湯を注ぎ、いかだに吊している牡蠣を放り込みます。前述の洗浄と同様に、牡蠣に付着した海藻やほかの貝を取り除くための作業です。牡蠣の殻はかなり分厚いので65~70度程度のお湯に浸けてもビクともせず、付着している貝だけを取り除けるとのこと。
 
 なお、生牡蠣は最終的な水揚げのあと滅菌された海水に浸けられたあとに出荷されます。
 
 佐々木さんが育てた「雪解け牡蠣」はここ最近出荷量が増えており、生牡蠣として出荷されるものの一部は市場を通さない相対取引で、首都圏だけでなく大阪をはじめとする西日本地域でも引き合いがあるそうです。とはいえ、ここは陸前高田市。東日本大震災の津波被害が甚大だった場所です。佐々木さんも被害を受けた1人で、震災の1年ほど前に立てた加工センターは津波で流され、漁港自体も壊滅的な状態に陥ったとのこと。
 
 しかし、漁船だけは難を免れたこともあり、再び牡蠣の養殖を始めたそうです。震災の1年後は最盛期の5分の1程度だった出荷量が、2年後に半分程度に回復、3年後には震災前と同じくらいに回復しました。いまでこそ全国各地から引き合いのある「雪解け牡蠣」ですが、震災後に全国各地からボランティアで手伝いにきた人たちが「三陸にも牡蠣があるんだ」としきりに口にしていたことで、東北地方以外ではそれほど知られていないことに気付かされたとのこと。
 
 前述したように、牡蠣といえば冬、牡蠣といえば広島というイメージが強い中、佐々木さんは三陸の牡蠣が本当においしい春先に「雪解け牡蠣」という名称で出荷を始めたそうです。
 
雪解け牡蠣は首都圏でも食べられる
 佐々木さんが育てた雪解け牡蠣は、もちろん首都圏にも出荷されています。「雪解け牡蠣」の全出荷量の1割程度を扱うのが「四十八漁場」という鮮魚専門の居酒屋。すでに4月3日から提供が始まっており、その名も「陸前高田 佐々木学さんより 雪解け牡蠣」とそのまんまのメニュー名で登場しています。
 
 四十八漁場では、首都圏ではなかなかお目にかかれない魚を食べることもできます。最近はテレビなどに取り上げられているので知名度も上がってきていますが、ドンコの煮付けなどもメニューに入っています。
 
 ドンコとは、三陸地方でよく獲れる標準和名がエゾイソアイナメと呼ばれる魚。味がよく現地では人気なのですが、見た目がグロテスクなこともありほかの地方ではあまり見かけません。
 
 三陸の漁師にとっては、ドンコは現地で消費する魚というイメージで、わざわざドンコだけを狙って漁に出ることはなく、底引き網などに引っかかったものを水揚げするだけなので、安く取引されるため安定供給が難しい魚でした。
 
 四十八漁場はこのウマイ魚に目を付け、漁師からの安定供給を促すことで、定番メニューとして出すことに成功したそうです。漁師にとっても、これまで安値しか付かなかったドンコを一定の価格で売れるので、収入の安定につながるというメリットがあるわけです。
 
 雪解け牡蠣とドンコの煮付けが気になった方は、ぜひ四十八漁場に向かいましょう!
 
陸前高田はこれから復興していく街
 取材帰りに、四十八漁場の地域密着バイヤーである長野さんに陸前高田市を案内してもらいました。長野さんは震災後から陸前高田市や大船渡市の漁師さんに密着してきた人です。ワタクシは土地勘がないのでなんとも言えなかったのですが、「ここが街の中心でした」といわれて指された場所はいまだに更地のままでした。
 
 山を切り開くなどして高台に宅地を造成する工事も各地で進められていましたが、すでに完成した宅地であっても新築された家はまばら。つまり、人がいないんです。陸前高田市は震災前から過疎化が進んでいたところで、震災後もその傾向は続いています。
 
 牡蠣漁師の佐々木さんも陸前高田の現状には危機感を持っており、漁師の立場から街を盛り上げたいという気持ちを話してくれました。過疎化に歯止めをかけるには地元の産業振興が急務です。佐々木さんは、牡蠣漁師として培ったノウハウを惜しみなく共有することで新規参入を促したいとのことでした。
 
 雪解け牡蠣のように2年間も手間暇かけて作る養殖は、収益になるまでに時間がかかるうえアクシデントに見舞われる機会も増えるので参入はなかなか難しいのが現状です。しかし、オイスターバーなどで好まれる小ぶりな牡蠣は養殖期間が1年と短いものが多く、新規参入してもすぐに売り上げが立てられます。こういった牡蠣を地域統一ブランドとして売り出していけば、市場価格に左右されない安定した価格で取引できる道も探れるはずです。
 
 また四十八漁場では、陸前高田で獲れるドンコだけでなく、以前は広田つぶ(つぶ貝)のメニューも扱っていました。これらは地元でも安値で取引、もしくは獲っても値が付かないので海に帰されていたもので、これまで漁師の収入に寄与しませんでした。それが、鮮度保つための神経締めできちんと手当されたり、定番メニューとして展開されたりしたことで需要が高まりました。このように水産業などの第1次産業と流通販売業などの第3次産業が密接に結びつくことで地方の産業を盛り上げる事例が増えていくと、過疎化問題を改善する1つのきっかけになるのではないかと感じました。
 
 
文● 吉田ヒロ

最終更新:4/26(水) 18:37

アスキー