ここから本文です

初週の苦戦は「安定感」!?  朝ドラ『ひよっこ』の魅力と今後への期待

4/10(月) 16:20配信

クランクイン!

 4月3日にスタートした朝ドラ『ひよっこ』。高度経済成長期の茨城と東京を舞台に、農家出身のヒロインが奮闘する青春物語だ。脚本を手掛けるのは『ちゅらさん』『おひさま』に続き、朝ドラ3作目の岡田惠和で、主演は『あまちゃん』に続き、朝ドラ2作目となる有村架純という、安定感ある組み合わせ。しかし、初週の視聴率は、近年の作品と比べて苦戦を強いられている。

【関連】『ひよっこ』制作発表会見 フォトギャラリー


 実際、この「安定感」こそが初週においては、魅力と、引きの弱さという両面につながっていたのではないだろうか。第一話では、のどかな奥茨城の農村風景のなか、ヒロイン・谷田部みね子と家族が食卓を囲む多幸感、出稼ぎの父を待つ寂しさなどが描かれていた。

 第二話ではヒロインと幼馴染たち3人組の高校卒業後の進路への思いや悩み、東京で起こったビル建設現場の事故による父親の安否の不安と安堵などが。第三話では「ちょっとヘンなおじさん」の束の間の訪問、第四話では父と東京・赤坂の洋食屋「すずふり亭」との出会いと、待ちに待った父の帰省が描かれ、第5話では…。

 正直、あらすじを振り返ると、まだ何も始まっていない。

 初週からすでに有名な女優がヒロインとして登場するため、可愛く演技の達者な子役ちゃんが見られるわけでもないし、大事な人との悲しい別れがあるわけでも、運命を変える劇的な出会いがあるわけでもないし(すずふり亭は後につながる出会いではあるが)、お転婆で男の子と取っ組み合ったり叱られたりするわけでもない。貧しい農家ではあるが、家族は幸せで、父が出稼ぎで不在という寂しさはあるものの、ヒロインはもがいても苦しんでもいないし、自分を変えたいとも思っていないし、泣いたり喚いたりもしない。家庭内やご近所とのつまらないいざこざもない。

 わかりやすい「ドラマ」は全くないから、刺激がないし、盛り上がりはない。『芋たこなんきん』の火野正平や『ちりとてちん』京本政樹のような存在として、おじさん役で銀杏BOYZの峯田和伸が登場し、「朝ドラにはよく出てくるヘンなおじさん」とナレーションで紹介するのは、朝ドラファンへのちょっとしたサービスだが、細かすぎるコネタや伏線はさほどないだけに、『あまちゃん』以降参入してきた新規朝ドラファンが何度もリピートするような中毒性もない。


 しかし、この役のために体重を増やしたという有村の「明るいタヌキ顔」と「モンペ姿」「セーラー服姿」は、絵に描いたような“朝ドラ”ヒロインとして誰にでも愛される要素で安心感があるし、質素ながらも、しっかり量のある農村の朝食や、東京の洋食屋のご飯は、どちらもすごく美味しそう。

 また、「今朝は鶏が卵を5個産んだから、お弁当に一個入れられる」「夜の家族会議に参加して、初めて大人として認められた気分になる」「みんなで稲刈りして、田んぼの土に足をとられるなどしつつも、女たちが歌を歌う」といった「日常の小さな幸せ」が丁寧にほのぼのと描かれる。ドラマチックなことは何も起こらないのに、昼間の鳥の声も、夜の虫の音も、湿度やニオイが伝わってくるような夜の土の質感も、不思議と観ていて心地よい。

 それだけに気になるのは、ヒロインが上京するきっかけが、初週のほのぼの世界観と相容れない、「父の失踪」という『まれ』を思い出させるようなわかりやすいドラマチック要素であること。「父や親友など、好きな人がみんな東京に行ってしまうから、東京がちょっと嫌い」くらいで、誰にも何にも大きな否定感も希望・野望も持っていないヒロインが、いかに「卵の殻を破る」のか…。

 上京してからが本格的な物語の始まりだが、初週の「何も起こらないほのぼのした幸せ」との食い合わせがどうなるのか、見守っていきたいところだ。

<文:田幸 和歌子>
出版社、広告制作会社を経てフリーライターに。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)がある。

最終更新:4/10(月) 16:20
クランクイン!