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トランプ政権が朝鮮半島に空母 危機増幅する『反オバマ』

ニュースソクラ 4/11(火) 18:00配信

弱腰払しょくも、ロシアとの関係悪化で手詰まり

 なぜトランプ米大統領はシリア政権軍に対する攻撃を決断したのか。トランプ氏は化学兵器による惨状を目の当たりにして「かわいい赤ちゃんまで犠牲になった」と憤りを前面に出したが、イスラム教国からの入国禁止など人種差別的な政策を強行してきただけに、にわかに人道主義者に転じたとは思えない。

 同じタイミングで初顔合わせとなった習近平中国国家主席へ牽制球を投げたと深読みするには今の安保チームがあまりに貧弱だ。場当たり的な政策の背景には「反オバマ」という単純すぎる行動原理が見えてくる。

 トランプ氏とオバマ前大統領のシリア政策を比較する上で重要な言葉が「レッドライン」だ。その文字通りの意味は「越えてはならない一線」。2011年に勃発したシリア内戦に限れば米政府にとって「化学兵器の使用」を指す。

 大統領のオバマ氏はシリアのアサド大統領に内戦の責任を問い、政権軍がレッドラインを越えれば武力行使に踏み切ると宣言。しかし、13年に化学兵器の使用疑惑が浮上したにもかかわらず、抜刀することはなかった。そして17年、トランプ氏はオバマ氏から大統領職を引き継いだその年に、アサド政権がその一線を越えたとして59発の巡航ミサイルを撃ち込んだのだ。

 オバマ政権の消極的な関与がシリア情勢を泥沼化させたという批判もある。ただ、内戦の当事者である過激派組織「イスラム国」(IS)を空爆するなど、力による打開を放棄していたわけではない。アサド政権の後ろ盾になっているロシアとの関係もにらみながらぎりぎりの和平外交を展開していたというのが実態だろう。

 そういう前政権の積み重ねをひっくり返すのがトランプ流だ。ロシアのプーチン大統領を贔屓するトランプ氏は政権交代の直後にシリア政策についてアサド政権の存続を容認する親ロ路線を打ち出した。

 しかし、今回の巡航ミサイル攻撃で「弱腰のオバマとは違う」というメッセージを送る一方、ロシアからの反発を招くという自己矛盾に陥った、ように見える。

 もっとも「反オバマ」こそトランプ氏の最も重要な金看板だと考えればある種の「整合性」も浮かんでくる。昨年の大統領選でエスタブリッシュメントをこき下ろし、既成政治の打破をうたって、オバマ政権で国務長官を務めたヒラリー・クリントン民主党候補に苦杯をなめさせたトランプ氏。

 前任者の否定は公約であり、政治理念。手段ではなく目的。政策全体に誤りがあったり、一貫性を欠いたりしても、オバマ氏を否定しておけば有権者の快哉を浴びられると信じているかのように映る。

 シリア政府軍への武力行使で米国が「打倒アサド」に回帰したと結論付けるのは早計だ。攻撃は今回きりだとしたり、必要に応じて繰り返すとしたり、政権から発信される情報はぶれている。

 「反オバマ」のトランプ流には綻びが生じている。例えば医療保険制度改革法、いわゆるオバマケアの代替法案。3月に議会へ提案したが、賛成票が集まらず撤回に追い込まれた。前大統領が心血を注ぎ、通称に名前まで冠された法律の廃止はトランプ改革の本丸だったが、議会で多数派を占める共和党から意外にも支持が集まらない。

 総論では賛成していた共和党議員も各論を精査する中で無保険者の増大などに懸念を抱いていった。大統領令の連発で議会を通さず重要な政策判断を実行してきたトランプ氏だが、選挙の勢いで議会も味方につけられると楽観していた目論見は外れた。

 政策立案や議会対策が難航する一因は人事の乱れだ。米国では政権交代で交代する政治任用(ポリティカル・アポインティ)が約4000人にいるとされ、そのうち600人ほどは議会の承認が求められる。この層がまだほとんど決まっていない。

 一方、身内で固めたホワイトハウス内も揺れている。米中首脳会談を目前にバノン主席戦略官・上級顧問が国家安全保障会議(NSC)常任委員から外された。右翼系ニュースサイトの主宰者であるバノン氏は、安保政策の専門家ではないにもかかわらず、選挙戦の論功行賞で抜擢された経緯がある。

 トランプ氏に強い影響力をもち、「影の大統領」に例えられた。その最側近にトランプ氏の娘婿クシュナー氏との不仲説がささやかれている。素人の重用はいかにもトランプ流だが、ホワイトハウスがゴシップの巣窟になっては、まともな政策を期待することはできない。

 トランプ氏と習氏の初顔合わせになった米中首脳会談も非公式の域を出ず、突っ込んだ議論に至らなかったのは米側の準備不足が一因だ。会談前の米側は強面で臨んでいたが、結局、対北朝鮮政策でも貿易不均衡でも中国側から言質を引き出すことはできなかった。

 シリア攻撃も「単独行動も辞さず」という決意より、示威行為で目立つしかない「浅はかさ」をにじませる。一方、中国メディアは自国向けの報道で習氏に対するトランプ一家の歓待ぶりを強調。中国側が望む「新しい大国関係」を演出しようと努めた。習氏は自らの目でトランプ氏の値踏みをした上で波風を立てずに秋の共産党大会へと地歩を固めた。

 米中首脳会談の翌8日、米海軍はシンガポールに寄港していた原子力空母カール・ビンソンを主力とする第1空母打撃群を、次の目的地だったオーストラリアから変更して朝鮮半島へ向けて出航させた。北朝鮮は故金日成主席生誕105周年の4月15日を控えて核やミサイルで新たな挑発行為を強行する可能性がある。

 米軍の空母派遣に金正恩政権に自制を促す意図があるのは明白だ。首脳会談前のインタビューで中国が北朝鮮に影響力を行使しないのなら「我々でやる」と明言したトランプ氏である。外交安保政策でオバマ前政権との違いを浮き彫りにする好機と判断しているのかもしれない。

 しかし、安直な「反オバマ」政策が矛盾に満ちているのはシリア攻撃からも明白だ。トランプ政権は化学兵器の能力弱体化を狙ったとしているが、シリア側は米軍の目的は達成されていないと反論している。

 そもそも化学兵器の使用についても国際的な検証がなされていない中での強硬策が熟慮の上での判断だったのか。その結果、関係修復を目指していたロシアとの深め、シリア情勢はさらに混迷を深めかねない。北朝鮮については米軍が直ちに武力を行使するとは想定しにくいが、計画性のない意思決定が相手の暴発を招く危険はある。

 シリア問題の解決は和平を導き、復興を促し、シリアの人々が故郷で安心して暮らせる環境を整えることでしか果たせない。その大義が大国のリーダーたちのエゴですり替えられては、さらに犠牲を重ね、難民を増やすだけだ。

 ドイツなど欧州の国々の苦闘をみれば、シリア問題をこじらせることは世界中に災禍を広げることになると容易に理解できるだろう。朝鮮半島はどうか。トランプ氏が核なき世界を訴えたオバマ氏の平和主義を反故にしようと鼻息を荒くするなら何が起きてもおかしくない。

 一つの救いは「前言撤回」はトランプ氏の常套手段であり、振り上げた拳も下ろすことが少なくないということだ。

春柳 弘 ( 国際ジャーナリスト )

最終更新:4/11(火) 18:00

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