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連載終了した作品がヒット、書店の売り上げ増にも貢献 「LINEマンガ」が出版業界にもたらす影響

ITmedia Mobile 4/12(水) 20:02配信

 LINEは4月11日、電子コミックサービス「LINEマンガ」のセミナーを実施。スマートフォン向けの電子コミックサービスが急伸したことで、出版社や書店に市場にどのような変化が起きているのか? LINEマンガ担当者や出版関係者などが明かした。

【電子コミック市場の伸び】

●スマートフォンと漫画アプリが市場のけん引役に

 メッセンジャーアプリの「LINE」を起点として多くのサービスを展開しているLINEだが、中でも高い人気を獲得しているサービスの1つが、電子コミックサービスの「LINEマンガ」だ。そこでLINEは4月11日、出版関係者を対象としたLINEマンガ主催のセミナーを実施。LINEマンガを主体として、電子コミックサービスが出版業界全体にどのような影響をもたらしているのか説明がなされた。

 セミナーの冒頭、LINEの執行役員である森啓氏が、電子コミック市場やLINEマンガの最新動向を説明。出版業界は現在、書籍や雑誌の販売減少によって大きく売り上げを落としているが、コミックに関しては紙と電子の販売金額を合計すると3400億円に達し、過去最大の成長を遂げているとのこと。その伸びをけん引しているのは電子コミックであり、2016年は前年比30%以上の伸びを記録したという。

 森氏によると「電子コミックが大きく伸びているのは、スマートフォンの漫画アプリの台頭によるところが大きい」とのこと。実際、新しい漫画作品に出会う経路は漫画アプリが書店に次ぐ規模に達しており、スマートフォンがコミック市場のけん引役となっていることが分かる。

 そうした漫画アプリの中でも、ダウンロード数やMAU(月間利用者数)などでトップの座を獲得しているのが、LINEマンガであると森氏は話す。LINEマンガではコミックを販売するストアに加え、過去の作品などを毎週無料で掲載する「無料連載」を展開しており、総読者数は1300万、総閲覧回数は42億に上る。

 中でも注目すべきは無料連載にあるとのこと。というのも、無料連載で作品に触れたユーザーのうち、39%は電子、または紙のコミックを購入した経験があるそうで、無料連載が有料コミックの購買へと確実につながっている。それゆえ、2016年のLINEマンガの売り上げは前年比50%の伸びを示し、月間10億円規模の売上を実現。App Annieの調査では、LINEマンガがゲームを除く2016年の世界アプリ売上ランキング8位に顔を出す規模にまで達しているという。

 LINEマンガの無料連載は、ストアでの人気作品の傾向にも大きく影響しているようだ。2016年にLINEマンガで販売された売り上げ上位の作品を見ると、1位から順に「BLACK BIRD」「ピアノの森」「アイシールド21」など、既に連載が終了し、無料連載で掲載されていた旧作が上位を占めている。「メディアミックスなどがなくても、新作・旧作を意識することなくボーダーレスに作品との出会いが生まれている」(森氏)ようで、LINEマンガが多彩な漫画作品との新たなタッチポイントとして、大きな役割を果たしていることが理解できる。

●LINEマンガの無料連載は書店の販売をも伸ばす

 では実際のところ、LINEマンガは出版業界にどのような影響をもたらしているのだろうか。出版物の取次を担うトーハンのコミック営業推進室 アシスタントマネージャーの川村明氏と、白泉社 販売宣伝部長の小見山康司氏を招いてのトークセッションで、その現状が明らかになった。

 モデレーターを務めたLINEのLINE漫画編集チーム マネージャーである村田朋良氏によると、LINEマンガでの無料連載は、LINEマンガのストア上の販売を伸ばすだけでなく、書店における紙のコミックの販売数にも大きな影響を与えているとのこと。だがそのことに気が付いたのは、川村氏からの連絡があったためだという。

 川村氏がLINEマンガと書店の販売動向が連動していることに気が付いたのは「3年くらい前」。当時既に連載が終了していた「なみだうさぎ~制服の片想い~」という作品が、メディアミックスやTwitterによる口コミなどが特にないにもかかわらず、コミックの販売が急に伸びたのを見たのがきっかけだという。しかも通常、コミックは1巻が最も販売が伸び、巻数を重ねるごとに販売数が減る傾向にあるのに対し、この時は1巻よりも2、3巻の方が売れるという、従来にない傾向が見られた。

 そして当時、LINEマンガではこの作品を1巻分、丸ごと無料で読める施策を実施していた。そのことを聞いた川村氏が、LINEマンガで1巻分を無料で読んだ人たちが、2、3巻を購入したのではないかと推測。LINE側に連絡を取り、共同で検証することによって、LINEマンガが書店での販売にも影響を与えていることが確認できたのだそうだ。

 しかも村田氏によると、LINEマンガの無料連載は、従来のメディアミックスとは異なる販売傾向をもたらしているという。ドラマ化やアニメ化などのメディアミックスがなされた作品の場合、書店ではその放映翌日にコミックの販売がピークを迎える傾向にある。だがLINEマンガで無料連載がなされた作品の場合、連載が更新された日に売り上げのピークが生まれることから、継続的な販売の伸びをもたらしているのだそうだ。

 LINEマンガが書店の販売も伸ばすことが証明されたことを受け、LINEでは2015年10月ごろからトーハンと連携し、書店でビーコンを活用し、LINE上で作品の無料試し読みができる販促フェアを実施している。2016年10月には白泉社の漫画作品と連携したフェアを実施したが、参加した店舗の販売の伸び率が、非参加店と比べ40%大きかったという。この結果について小見山氏は、「非常にいい数字。もっと大規模にフェアを展開できればと思っている」と話しており、出版社側としても上々の手応えを感じているようだ。

●デジタルは旧作に効果ありだが新作に課題

 こうした事例が示す通り、スマートフォンの漫画アプリが業界全体にもたらす影響は、非常に大きなものとなってきている。それだけに出版社側も、電子コミックに対してどのような戦略をとるかが求められてきている。そこで続いてのトークセッションでは、出版社のデジタルマンガ戦略をテーマとして、LINEマンガを運営する側と、大手出版社の担当者が参加して議論が繰り広げられた。

 集英社のデジタル事業部 部長代表の鈴木基氏は、「出版不況で特に落ち込んでいるのは雑誌。漫画雑誌は新人作家を発掘し、育て、作品を発表してヒットを作るというコンテンツを生む源泉だったが、それがなくなってしまう」と話す。それだけに、雑誌に代わりコンテンツを生み、広める新たな場として、スマートフォンにかける期待は年々大きくなっているようだ。

 だが出版社にとっては新作だけでなく、多くの旧作品を抱えており、それらをいかに活用できるかも重要なテーマとなる。小学館のデジタル事業局 コンテンツ営業室 副課長の飯田剛弘氏は、「紙のコミックでは新刊への依存度が高くなるが、デジタルはアーカイブビジネス。多数のタイトルをいかに目に触れさせ、買ってもらうかは重要だ」と話しており、旧作の掘り起こしで多くの実績をもたらした、LINEの無料連載がもたらす影響は大きいと評価している。

 しかしながらスマートフォンは、紙の雑誌と比べると画面が狭く、出版社が抱える多数の作品を、1つ1つアピールしていくのは難しい。そこで講談社の販売局次長である吉村浩氏は、「夏☆電書」「冬☆伝書」といったキャンペーンを打ち出し、多数の作品をまとめてアピールすることにより、電子コミックの存在感を高める取り組みを進めていると話す。

 LINEマンガの事例を見ても、確かに旧作に関しては大きな成果を生み出しつつあるが、一方で従来雑誌が大きな役割を果たしてきた、新しい作品をヒットへと結び付けることに関して、電子コミックではまだあまり大きな成果が出ていないように見える。実際、飯田氏は「デジタルの書き下ろしでどうヒットを出すかは課題」と話しており、自社でも試行錯誤を繰り返しているそうだ。

 若い作家を育てるプラットフォームとして漫画アプリに期待する意見は多いだけに、LINEマンガにとってもこの点は、今後の大きな課題になるといえそうだ。そこでLINEマンガは集英社とコラボレーションし、夏頃に少女漫画の新人賞を実施する。鈴木氏は「ジャンルは緻密に決めず、次世代のデジタルに強い作家を募集し、新しい才能をオンラインで生み出すことにトライしたい」と、新人賞に強い期待をかける。

 一方、LINEマンガのプラットフォームを運営するメディアドゥは、今後どのような点に力を入れることで、出版社の要望に応えようとしているのだろうか。同社取締役の溝口敦氏は、その1つとしてAIを活用したレコメンドエンジンの刷新を挙げている。

 「機械的なレコメンドではなく、友達に『何か面白い漫画ない?』と聞いたら『この漫画が面白いんじゃない?』と返してくれるような、個々の特性に合ったレコメンドする仕組みを追求していかなければいけない」と、溝口氏は新しいエンジンの構想について話すが、その精度を上げるには漫画のメタデータの拡張が必要だという。タイトルや作者などだけでなく、より作品内容に踏み込んだデータが必要と溝口氏は考えているようで、そうしたデータを得るためにも、今後はいっそう出版社との密な協力関係が求められる。

最終更新:4/12(水) 20:02

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