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オンライン旅行会社「エクスペディア」は旅行者行動と心理をデータ化

アスキー 4/13(木) 15:00配信

オンライン旅行会社「エクスペディア(Expedia)」が、アジア初となる研究施設「エクスペディア・イノベーション・ラボ」をシンガポールに開設、同社の最新技術に迫る。
 世界最大のオンライン旅行会社「エクスペディア(Expedia)」が、アジア初となる研究施設「エクスペディア・イノベーション・ラボ」をシンガポールに開設した。オープン初日の2017年4月7日にはアジア各国のメディアを招待してプレスカンファレンスを開催。記者会見では研究のデモンストレーションや研究施設を開設した理由、さらに同社が蓄積したデータから導き出された現在の旅行事情などを紹介した。
 

 エクスペディア グループCEOのDara Khosrowshahi氏(以下ダラ氏)は「我々はユーザーが旅行で体験した情報を、すべてデータ化し続けている」と語る。
 
 エクスペディアは世界500社以上の航空会社と3万都市以上のホテルを取り扱っており、ツアーの組み合わせはなんと100億通り以上。実際に同社のサイトで適当な旅行先を検索すると、瞬時にいくつものプランを提案してくれる。
 
 ダラ氏は、これらのツアーは単純な検索結果として表示させているのではなく「科学的根拠に基づき、顧客に合わせた内容を提示している」と解説する。この言葉を裏付けるように、同社はこれまで技術開発に12億ドル、マーケティングに43億ドルも投資している。今回開設した「エクスペディア・イノベーション・ラボ」も、この投資のひとつだ。
 
ユーザーの行動心理を“丸裸にする”施設
「エクスペディア・イノベーション・ラボ」
 エクスペディアアジア本社(シンガポール)に開設した「エクスペディア・イノベーション・ラボ」は、2つの部屋からなる施設だ。ひとつはPCが置いてある小部屋で、被験者がPCを使って同社のサイトで旅行のプランを検索するための部屋。もう一方の部屋はモニタリングルームだ。エクスペディアのスタッフが被験者の行動を見ながら、指示を出したりデータの測定を行なう。
 
 デモンストレーションでは、まず被験者にはデータ測定装置が装着された。「筋電図記録技術(EMG)」と呼ばれる装置は5つのセンサーから構成されている。2つのセンサーを目の上、3つのセンサーを頬に付けると人間の「楽しい・つまらない」といった感情がリアルタイムでわかるそうだ。これに視線追従のセンサーを組み合わせると、サイトのどこを見たときに、どのような感情を抱いたかを測定できるとのこと。
 
 実験が始まると、まず試験官は被験者に「犬の画像を検索してください」と語りかけた。被験者は言われた通りに検索すると、ディスプレーにたくさんの犬の写真が表示される。するとその瞬間、モニタリングルームの画面には「楽しい感情」を示すグラフが大きく動いた。同時に被験者の視線を示す位置が正確に表示され、いま被験者がどの画像を見ているかが手に取るようにわかる。
 
 見学していた各国の取材陣が精度の高さに驚いているなか、余興が終わっていよいよ本番スタート。試験官は「エクスペディアのサイトを開いてください」と指示を出した。被験者がサイトを開くと、先程の犬と同じように、画面のどこを見ているかがピンポイントに表示される。被験者が一文字ずつしっかり読んでいる文章と、ザザッと読み飛ばしている文章。何度も見てしまう写真とほとんど見ていない写真などが、おもしろいようにわかる。
 
 実験の最中、被験者があるホテルの項目に目が止まった。写真と説明文をじっくり何度も読んでいたので、どうやらこのホテルに興味が沸いたに違いない。このとき印象的だったのは試験官の対応だ。実験中の試験官は常時モニタリング画面を注視しており、感情の変化を示すグラフが動くたびに「いまどう思ったの?」と問いかけていた。被験者のクチから「建物が美しい」や「料金が高い」「料理が美味しそう」など、さまざまな感想をしっかり聞き取ることで、データの確度を上げている。
 
 当然、試験中のモニターとすべてのやり取りは記録されており、後で解析班がじっくり見られるシステムになっている。「AとBの写真はどちらがよいか?」や「文章はこの位置で読みやすいのか?」「検索結果の表示方法は?」など、すべて科学的根拠に基いてサイトが構築される。エクスペディアのサイトに訪れたすべての客が、快適に感じられるように日々改善を行なっているそうだ。
 
閲覧者の国籍によって「使いやすいサイト」は異なる?
 今回シンガポールに作られた「エクスペディア・イノベーション・ラボ」だが、アメリカとイギリスではすでに開業している。世界3番目のラボとして新しくアジアに作った理由は「アジア人は欧米人と異なる感情を持っているかもしれない」からだそうだ。
 
 シニアバイスプレジデントのArthur Chapin氏は「シンガポールは多国籍のアジア系が住んでいる土地なので、研究に最適な場所。我々のデータは実際に旅行予約をしているユーザーから得ており、なぜそのような決断をしたのかを明確化します」とコメントした。
 
 また、アジア地域の特徴として「スマートフォンの普及率が高い」と語るのは、エクスペディア・アジアのCEO Jonty Neal氏。アジア地域のユーザーは欧米に比べてPCを持っていない層が多く、スマートフォンだけでサイトの閲覧から予約までを済ませてしまう場合が多いそうだ。そのため、今後はラボにスマホ用の測定装置を稼働させる計画もある。サイト閲覧者の国籍ごとにUIや検索結果が変わる未来は、そう遠くないうちにやってくるだろう。
 
エクスペディアが集めたデータはパートナーにも開示
 エクスペディアが収集しているデータはラボに限ったことではない。実際にツアーを購入して旅行に出かけた顧客からも満足度のデータを収集し続けている。これらの集めたデータはパートナーシップを結んでいる企業に提供され、サービス改善に一役買っているそうだ。
 
 記者団に向け、普段は公開されない航空会社やホテル会社などのパートナー企業向けのツールが紹介された。「Expedia Partner Central」と呼ばれる画面を見ると、満足度や収益などが数値化されていた。データはリアルタイムに刻々と変化するため、企業はタイミングに応じたサービスの向上を行なえるというわけだ。
 
 ダラ氏は記者会見の最後に「いくらデータを測定しても正しくない結果も多い。しかし、データが正しくなかったとしても得た結果を元に仮設を立てながらテスト・アンド・ラーンを繰り返している。これがエクスペディアと旅行業界を成長させるために必要なこと」とコメントした。
 
エクスペディアが開発中のVRホテルがスゴイ!
 プレスカンファレンスの途中に立ち寄った部屋で、旅行会社のオフィスに似合わない「HTC Vive」を発見。近くにいたスタッフにお話を伺うと、なんとホテルの客室を体験できるVRシステムとのこと。さっそく体験させてもらった。
 
 ヘッドマウントディスプレー(HMD)を装着すると、そこはどこかの高層ホテルの一室。客室を自由に歩きまわり、ベッドやシャワールームなどを確認できた。写真よりもわかりやすい! しかも椅子やドアを動かすことができ、ベランダにも移動できた。ベランダから眺める夜景はとても美しく、「こんな部屋に泊まってみたいなぁ……」と心の底から思ってしまったほど。
 
 スタッフによると、これはまだテスト段階で今後の展開は不明とのこと。もしも実験が成功してエクスペディアのサイトに実装されたら、ツアーを購入する前に内装をチェックできるようになる。Googleストリートビューと組み合わせたら、世界中の高級ホテルにバーチャル宿泊できるようになるのかもしれない。今後の展開がとても楽しみだ。
 
 
文● 佐藤ポン 編集●南田ゴウ/ASCII編集部

最終更新:4/20(木) 10:05

アスキー