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予想を裏切ってきたトランプは、北朝鮮を攻撃するのか

ITmedia ビジネスオンライン 4/13(木) 8:25配信

 米国のドナルド・トランプ大統領は、これまで世界各地のメディアや研究者による予想をことごとく裏切ってきた。彼の突飛な動きに多くが振り回されていると言っていい。

【米国、シリアへのさらなる攻撃は難しい!?】

 そもそも大統領選からそうだった。大方が、トランプは共和党指名候補を勝ち取れないし、ましてや大統領選に勝利できるとは思っていなかった。最近でも、側近のマイケル・フリン大統領補佐官を辞任させ、側近中の側近と言われたスティーブン・バノン首席補佐官を突然、国家安全保障会議(NSC)の重要ポストから外した。これらの動きを予想できた人は少ないだろう。

 そして今、シリア攻撃で世界を驚かせている。これまでの発言から、トランプはシリアを攻撃することはないだろうと見られていたからだ。にもかかわらず、4月13日にシリアをミサイル攻撃したのである。そして今、シリア攻撃は北朝鮮を念頭に置いたものだとされ、「米国が北朝鮮を攻撃するのではないか」と特に日本では騒がれている。

 ただ、予測不能だからといって匙(さじ)を投げるわけにはいかない。トランプが、シリアを軍事的に攻撃するというこれまで以上にグレードアップした“驚き”の行動に出た今、あえてシリアと北朝鮮の情勢についてトランプ政権がこの先どう動くのかを予想してみたい。

●現状は「戦争勃発の一歩手前」

 まずシリア問題だ。4月13日、トランプ政権がシリアを攻撃したニュースは驚きをもって世界で受け止められた。その理由は、米政府とトランプ大統領自身のこれまでのシリアへのアプローチを180度変換させるものだったからだ。

 というのも2013年、シリアのバシャール・アサド政権がダマスカス郊外を化学兵器で攻撃した際に、当時のバラク・オバマ米政権はそれを軍事的に対処する「越えてはいけない一線(レッドライン)」としつつも、攻撃に乗り出さなかった。当時民間人だったトランプは、それに賛同し、シリアへ介入することに反対を示していた。また大統領選でも、中東の問題などにこれ以上関与しないと語ることもあった。

 米政府はこれまで、さまざまな立場の武装勢力と国家が絡むシリアでは、あくまでIS(いわゆる「イスラム国」)との戦いに限定してきた。オバマ政権時にもシリアで空爆を行っているが、ISのターゲットが標的であり、アサド政権への攻撃は実施してこなかった。その背景には、アサド政権を後援するロシアやイランなどの存在があったからだ。

 それが今回、トランプ政権はアサド政権のシリア軍を攻撃した。攻撃の後にロシア高官が主張したように、現状は「戦争勃発の一歩手前」になっている。では今後、シリア攻撃はどう展開するのか。

 今回の攻撃に対するトランプの発言、そして過去の発言などから探ると、米軍がシリアに対してさらなる攻撃を行う可能性は高くない。今回のシリア軍の化学兵器による攻撃(アサド政権とロシアは否定)で、トランプは、シリアの子どもなどに対する攻撃が自分に「大きなインパクト」を与えたと強調し、「シリアへの見方がかなり変わった」と述べていた。米メディアでは大統領が「感情移入」して攻撃を命じたと報じられている。

 そしてトランプは、攻撃の直接的な理由を「化学兵器の使用と拡散の防止」だと挙げている。つまり、トランプはアサドがさらに化学兵器を使わない限り、追加的な攻撃はしないということになる。ロシアなどの手前、すぐに次の攻撃をするとは常識的には考えにくい。

●さらなる攻撃が簡単ではないワケ

 一方でこんな見方もある。トランプは、大統領選からずっとロシアとの“親しい”関係が指摘されてきた。ロシアがトランプを勝たせようとしたとも言われている。そんな中でトランプは、アサド政権を支援するロシアを横目にミサイル攻撃を実施し、ロシアと関係が親密ではないかのようなアピールをしたと言うのだ。確かに、少なくとも今後米国とロシアとの間には穏やかではない空気が流れることになるのは間違いないし、それがシリア攻撃の動機のひとつだったとしてもおかしくない。

 ただこれ以上の攻撃を行って、シリアやロシアなどを刺激すると厄介なことになるとトランプも十分理解している。すでに米国自身がシリアで「越えてはいけない一線(レッドライン)」を越えたとの非難も聞こえる。トランプ政権は、さらなる攻撃によるシリアの泥沼化を望まない可能性が高い。それは過去の発言からも分かる。

 2013年にトランプはシリアへ米国が介入することに反対していた、というのはすでに述べた。最近でも、トランプは中東で政権交代を促すことに興味はないと主張していたし、彼の側近らもシリア問題に対して、アサド退陣は絶対的な優先事項というわけではないとコメントしていた(ただこれら側近らの発言も今少しぶれ始めているのだが……)。

 さらにもう一つ特筆すべきは、2013年にトランプが、シリアに対する軍事作戦は「第三次大戦」につながる可能性が高いと自ら述べていたことだ。つまり米軍がシリア軍を本格的に攻撃することで、世界を巻き込んだ大混乱になると認識しているのである。冷静に考えたら、シリアの化学兵器よりもはるかに多い“子ども”の犠牲者を出す争いを、トランプは望まないはずだ。

 また、トランプ政権ではいま米軍の権限が強化されつつあるが、中東問題や軍の政策・歴史に精通するジェームス・マティス国防長官がいることを考えると、今回の攻撃もかなり計算されたものだとする見方もある。オバマ前政権が懸念したように、今後さらに積極的に動けば、単独主義に対する批判も生まれるし、その法的正当性なども議論になるだろう。ここでは書ききれないさまざまな要素が絡むが、こうしたことを鑑みると、さらなる攻撃が簡単な選択ではないことが分かる。

●米軍は北朝鮮を攻撃するのか

 そして今、シリアへの攻撃が、北朝鮮を意識したものだったという話にもなっている。核開発を進め、ミサイル実験を繰り返して挑発を続ける北朝鮮に、米軍は攻撃も辞さないというメッセージを暗に送ったというのである。事実、シリア攻撃後も、米原子力空母カールビンソンが朝鮮半島の近海に向かうなど、朝鮮情勢はこれまで以上に緊迫しているようだ。少なくとも北朝鮮もそう捉えているようで、自分たちが次の標的だとする指摘に「それに驚くわれわれではない」と反発(「NHK NEWS WEB」4月9日)している。

 日本でも北朝鮮問題については注目度が非常に高い。シリアへのピンポイント攻撃でこの騒ぎだから、北朝鮮の国家を潰す攻撃が起きたら、シリアどころではないとんでもない騒ぎになるのは間違いない。ただ北朝鮮に攻撃を行うかどうか、いろいろな要素を見るとその可能性は今のところ低いと言えそうだ。

 まず朝鮮半島情勢の有事に対する米軍の根本的な見方はこうだ。著者の取材にある元国防省高官が北朝鮮についてこう語っている。「北朝鮮の問題は本当に深刻だと見ている。まず中国の隣国であるということではなく、北朝鮮が韓国の首都ソウルを砲撃できる十分な射程圏内にあるからだ。北朝鮮はその事実を元にゲームを進めている。北朝鮮は猟奇的な政権だ」

 この高官が言うように、米軍が北朝鮮を躊躇(ちゅうちょ)する理由の大きな一つは、北朝鮮を攻撃するとソウルを犠牲にしなければいけないことだ。同盟国である韓国の首都を火の海にするわけにはいかない。

 レックス・ティラーソン国務長官は「(軍事行為も含む)すべての選択肢」を考慮し、「先制攻撃」の可能性も示唆しているが、歴代政権でも軍事的選択肢は考慮されてきたことから、これまでと大差はないと見ていい。米国から見ても、朝鮮半島が全面戦争に突入することは望んでいない。

 米軍が北朝鮮を攻撃しないもうひとつの理由は言うまでもなく、中国の存在である。よく耳にするのは、中国は北朝鮮が崩壊したことで押し寄せる難民の問題などを懸念し、北朝鮮の崩壊は認められないというものだ。ただ何と言っても中国が恐れているのは、北朝鮮の崩壊や朝鮮半島の統一で、そこに米軍が駐留して中国との国境沿いで存在感が高まることだ。

 そうさせないよう、中国は米国に対してもギリギリのところまで忍耐させ、牽制するだろう。

●予想が裏切られないことを望む

 米軍は韓国とともに、北朝鮮を先制攻撃して金正恩・朝鮮労働党委員長も殺害するという「OPLAN(作戦計画) 5015」を2015年に作成している。そして合同演習ではその訓練を実施している。ところが最近、この計画のもとになっている「OPLAN 5027」という米韓の作戦計画を、北朝鮮がサイバー攻撃によって2016年に盗んでおり、作戦内容の一部が相手に把握されたと指摘されている。そこでこの計画の確認の必要性もあると見られていた。

 少なくとも、今はまだ攻撃に乗り出す段階ではなさそうだ。

 シリアも北朝鮮も、とりあえずは大きな戦争にはつながりそうにないが、ただ冒頭で述べた通り、トランプは、数々の大方の予想を裏切ってきた。北朝鮮への攻撃も、予測不能な部分があると見る人は多い。特に、大統領支持率が落ちていることも危険な兆候ではある。

 ただここまで分析してきた予想が裏切られたら、それこそ世界は未曾有の大混乱に陥るだろう。今回は予想が裏切られないことを望むのみだ。

(山田敏弘)

最終更新:4/13(木) 10:33

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