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プレミアムフライデーと休日の格差-新しい格差が広がらないようにより慎重な働き方改革の実施を!-

4/14(金) 20:00配信

ZUU online

■要旨

・最近、政府が働き方改革の中で最も力を入れているのは長時間労働の是正であり、その一環として今年の2月24日から「プレミアムフライデー(Premium Friday)」が実施された。

・プレミアムフライデーを実施した本当の目的は、長時間労働の是正より、早い時間から買い物や旅行などをしてもらうことにより、消費を拡大させ2020年までに名目GDP600兆円を達成することであると言えるだろう。しかしながら、2015年の対前年比個人消費の増加率は-0.1%に留まっており、目標達成の道はかなり険しいと言える。

・消費が改善されていない要因の一つとしては、政府が思った以上に賃金が上がっていないことが挙げられる。また、4月からは国民年金の保険料が引き上げられ、9月からは厚生年金の保険料率が増加する等、家計の負担が増加することになる。賃金が上がっても社会保険料等の負担が増加すると、手取りの収入は大きく変わらない可能性が高い。

・日本では企業規模や産業の間に賃金格差のみならず休日の格差が存在している。現在、日本で実施されているプレミアムフライデーは、一部の企業や産業、そして地域、つまり大企業や福利厚生がより充実した産業や企業、そして都心に位置した企業を中心に実施される可能性が高く、「休日の格差」はさらに広がる恐れがある。

・政府は、プレミアムフライデーが「休みの格差」を広げないように働き方改革に基づいたより慎重な議論や対策を実施するべきである。プレミアムフライデーの実施が新しい格差の拡大に繋がらないことを強く望むところである。

■働き方改革の一環としてプレミアムフライデーを導入

最近、政府は働き方改革に積極的な動きを見せている。3月28日には働き方改革実現会議を首相官邸で開き、同一労働同一賃金の導入や正社員の長時間労働の見直しを盛り込んだ9分野での実行計画をまとめた。政府は、今後国会に関連法の改正案を提出し、2019年度からは関連内容を実行する計画である。その中でも政府が最近最も力を入れているのが長時間労働の是正であり、その一環として今年の2月24日から「プレミアムフライデー(Premium Friday)」が実施された。

プレミアムフライデーとは、長時間労働の是正と個人消費の喚起を狙い、月末の金曜日は、早めに(一般的には午後3時)仕事を終えて豊かに過ごすという行動を官・民が連携して創り出すプロジェクトである。

しかしながら、日本のプレミアムフライデーは、アメリカで定着しているブラックフライデー(*1)を参考としているように、制度の本当の趣旨は長時間労働の是正より、早い時間から買い物や旅行などをしてもらうことにより、消費を拡大させ2020年までに名目GDP600兆円を達成することであると言えるだろう。経団連は、その実現のためには現在300兆円弱にとどまっている個人消費を今後360兆円までに引き上げる必要があるとみている。個人消費が現在より20%も増加しなければならない。

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(*1)ブラックフライデー(Black Friday)とは、アメリカにおいて小売店などで大規模な安売りが実施される11月の第4金曜日の大きなイベントである。
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■消費が改善されない理由は?

しかしながら2015年の対前年比個人消費の増加率は-0.1%に留まっており、目標達成の道はかなり険しいと言える。さらに、プレミアムフライデーが初めて実施された2017年2月の二人以上の世帯の消費支出(名目)は260,644円で前年同月の269,774円と比べて3.4%も減少した。消費支出は主に、交通・通信(-7.1%)、光熱・水道(-6.2%)、食料(-5.0%)、教養娯楽(-5.0%)、被服及び履物(-4.1%)を中心に減少している。家計が将来のことを考えて節約志向を強めている様子が見てとれる(*2)。

このように消費が改善されていない要因の一つとしては、政府が思った以上に賃金が上がっていないことが挙げられる。実際、近年の賃上げ率は、政府がかねてから掲げている要求基準2%を下回っている。つまり、2017年2月の現金給与総額(名目、速報値)は262,869円で前年同月に比べて0.4%増加するのに留まっている。また、物価上昇率を反映した実質賃金の増減率は0.0%で賃金がほぼ上がっていない状況である。さらに、賃金増減率の長期的な推移を見ても状況はあまり変わらない。

賃金増減率の推移を2009年から2016年までは前年比で、2016年1月から2017年2月までは前年同月比で分けてみたものである。まず、実質賃金の前年比は2014年以降徐々に上昇しているものの、まだ1%にも至っていない。また、実質賃金の前年同月比は2016年6月に2%に達したものの、それ以降は低下し続けている。このように実質賃金が伸びないことが家計の購買力低下の原因になっているとうかがえる。

さらに、今年の4月からは国民年金の保険料が月額16,260円から16,490円に引き上げられて、9月からは厚生年金の保険料率が18.182%から18.3%に引き上げられる。また、協会建保等の健康保険料率も昨年に比べて上昇している。賃金が上がっても社会保険料等の負担が増加すると、手取りの収入は大きく変わらない可能性が高い。

現在、公的年金の所得代替率の引き下げや支給開始年齢の引き上げ等が議論されていることを考慮すると、家計としては将来の収入増加が確実に見込まれない限り、休日や休む時間が増えたとしても消費を増やすことは難しいだろう。

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(*2)2017年2月の消費が前年同月に比べて減少したのは2016年がうるう年であった影響もありえるだろう。
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■プレミアムフライデーは休日の格差を広げるのか?

プレミアムフライデーの課題は制度の実施が義務化されておらず導入如何は各企業の判断に委ねられていることである。また、労働者にとってもプレミアムフライデーの利用は義務化されておらず、会社の経営方針や企業文化により利用率に差が発生することや月末が繁忙期である金融業界や経理部門等では利用が制約されがちである。さらに、プレミアムフライデーに早く帰るために、ほかの日の残業時間を増やす労働者や、労働時間の減少が収入減少に繋がることを懸念しプレミアムフライデーを利用しない人もいるだろう。

株式会社DeNAトラベルが2017年1月11日から15日の間に実施した調査結果(*3)によると、プレミアムフライデーを導入しているか、導入を予定している企業の割合は調査時点で2.2%に留まっている。導入予定が無い企業が55.0%にも達しており、「わからない」と答えた割合も39.5%を占めている。

プレミアムフライデーがまだ企業に浸透していないことが分かる。そこで、プレミアムフライデーをより普及させ労働時間の短縮や消費の改善につなげるためには、税金や社会保険料の負担増加により大きく伸びていない家計の手取り収入(可処分所得)を増やす政策を展開することが大事である。大企業の場合は増え続けている内部留保(企業の利益の蓄積分)を賃金に回すことを検討すべきである。

例えば、2015年度の労働分配率(企業の利益のうち、労働者の取り分)は66.1%(財務省の法人企業統計)で、2007年度(65.8%)以来、低い水準になっていることに比べて、同年度の企業の内部留保は377兆円で4年連続で過去最高を更新している(*4)。

将来、労働力不足が懸念されていることを考えると、内部留保を増やす政策だけではなく、優秀な人材を確保し、より長く働ける環境を構築する政策を実施することも重要であるだろう。また、中小企業や零細企業に対しては、賃上げに対するインセンティブを提供するか、助成金を有効に活用するなどの支援をするのが望ましい。

最後に、プレミアムフライデーの実施が「休日の格差」を広げる要因になってはならない。企業規模や産業の間には賃金格差のみならず休日の格差も存在している。厚生労働省の就労条件総合調査(*5)によると、「完全週休2日制」を採用している企業の割合は、従業員数1,000 人以上が69.1%で最も高く、次は300~999 人(60.0%)、100 ~299 人(49.6%)、30~99 人(47.2%)の順である。産業別には、金融業・保険業が 90.7%で最も高いことに比べて、運輸業、郵便業は 25.1%で最も低い。

さらに1企業当たり平均年間休日総数も従業員数1,000 人以上が115.3日で最も多いことに比べて従業員数30~99 人は106.8日で最も少ない。産業別には、情報通信業が122.2日で最も多く、宿泊業・飲食サービス業が101.9日で最も少ないという結果となっている。

このようなデータを参照すると、現在、日本で実施されているプレミアムフライデーは、一部の企業や産業、そして地域、つまり大企業や福利厚生がより充実した産業や企業、そして都心に位置した企業を中心に実施される可能性が高く、「休日の格差」はさらに広がる恐れがある。

実際に調査会社インテージが今年の2月24日から27日の間に京浜エリア(東京、神奈川、千葉、埼玉)で実施した調査結果(*6)によると、企業規模別のプレミアムフライデーの実施率は、従業員数1000人以上の企業が5.8%であることに比べて、従業員数100人未満の企業は2.4%に留まっていた。

政府は、プレミアムフライデーが「休みの格差」を広げないように働き方改革に基づいたより慎重な議論や対策を実施するべきである。プレミアムフライデーの実施が新しい格差の拡大に繋がらないことを強く望むところである(*7)。

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(*3)株式会社DeNAトラベル(2017)「プレミアムフライデーに関する調査」2017年1月23日。
(*4)日本経済新聞2016年9月3日朝刊5頁「労働分配率66.1% 低水準に 昨年度、内部留保は最高」を参照。
(*5)厚生労働省(2017)「平成28年就労条件総合調査結果の概況」。
(*6)株式会社インテージ(2017)「プレミアムフライデー事後調査」 。
(*7)本稿では、金明中(2017)「曲がり角の韓国経済第18回 韓国版プレミアムフライデーの実施発表」東洋経済日報2017年4月7日を一部引用している。
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参考文献
・株式会社インテージ(2017)「プレミアムフライデー事後調査
・株式会社DeNAトラベル(2017)「プレミアムフライデーに関する調査」2017年1月23日
・厚生労働省(2017)「平成28年就労条件総合調査結果の概況」
・厚生労働省(2017)「毎月勤労統計調査 平成29年2月分結果確報」
・総務省統計局(2017)「家計調査報告(二人以上の世帯)―平成29年(2017年)2月分速報」2017年3月31日
・内閣府「国民経済計算」

日本経済新聞(2016)「労働分配率66.1% 低水準に 昨年度、内部留保は最高」2016年9月3日朝刊5頁

金 明中(きむ みょんじゅん)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 准主任研究員

最終更新:4/14(金) 20:00
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