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「ZenFone AR」で“革命”を起こせるか? 課題はコンテンツとGoogle連携

4/15(土) 6:25配信

ITmedia Mobile

 ASUS JAPANは4月13日、ZenFoneシリーズの最新モデル「ZenFone AR」を発表した。夏の発売を目指し、価格(税別)はメモリ8GB版が9万9800円、メモリ6GB版が8万2800円となる見込みだ。

【参考展示されていた「ZenFone 3 Zoom」】

●CESで発表されたTango&Daydream両対応の意欲的な端末

 ZenFone ARは、1月に米ラスベガスで開催されたCESに合わせて発表されたASUSのハイエンドモデル。ZenFoneシリーズの中ではトップクラスの性能を誇り、GoogleのAR(拡張現実)技術である「Tango」と、VR(仮想現実)プラットフォームの「Daydream」に両対応したのが最大の特徴。TangoはLenovoの「Phab 2 Pro」が、DaydreamはAndroid 7.0 Nougatを搭載した複数の端末がサポートしているが、この2つに同時対応したのは、世界初となる。

 プロセッサには、QualcommのSnapdragon 821を採用。TangoやDaydreamで高い処理能力を要求されることもあって、メモリのスペックを大きく上げている。先に挙げたように、ZenFone ARには2つのバリエーションが存在し、メモリは6GBと8GBのどちらかを選べる仕組みだ。背面には、2100万画素のカメラを搭載しているが、Tangoに対応するため、カメラの横には距離を測定するための深度センサー(赤外線)と、動きを捉えるためのモーショントラッキングセンサーも並ぶ。

 GoogleのTangoは、現実世界をデジタル情報として取り込むことができる技術。端的にいえば、「端末に人間と同じような空間認識能力を持たせるもの」(ASUS JAPAN、プロダクトマネージメント テクニカルプロダクト マネージャー、阿部直人氏)。技術的には、赤外線を照射し、その戻り時間を計測して距離を算出。モーショントラッキングセンサーでは動きを捉え、端末や人の動きを計算する。これを、通常のカメラを通した映像と合わせ、画面にアウトプットするという仕組みだ。

 これによって、カメラに映し出した部屋の中にデジタルデータとして作成した家具を配置したり、テーブルの上にドミノを表示させて遊んだりできるようになる。シンプルな用途としては、部屋の距離を測るといった使い方もできる。アプリは、LenovoのPhab 2 Proが発売済みで、既に世の中にデバイスが出回っていることもあり、徐々に増えている。現時点では、30種類以上のアプリを、Google Playからダウンロードできる。

 ZenFone ARのもう1つの特徴は、GoogleのVRプラットフォームであるDaydreamに対応していること。Daydreamは、2016年のGoogle I/Oで発表され、Android 7.0 Nougatから対応している。VRに対応する端末スペックをGoogleが規定したうえで、端末に装着するゴーグル(Daydream View)は、Google側が販売。VRモード用のUIや、ストアなども用意する。ヘッドセットにはBluetoothで接続するコトンローラーも付属している。

 日本で発売されている端末では、Motorolaの「Moto Z」がAndroid 7.0 Nougatにアップデートされた際にDaydreamに対応。ZTEの「AXON 7」も、Android 7.0 Nougatのアップデートを行った際にDaydreamが利用できるようになる見込みだ。

●イノベーター層に向けたZenFoneシリーズの最上位モデル

 ASUSは、2014年ごろから、SIMロックフリースマートフォンの市場に本腰を入れて取り組んできた。MVNOが徐々に認知され始めた一方で、まだSIMロックフリースマートフォンの選択肢が少なかった2014年10月に、ミッドレンジの「ZenFone 5」を発表。手ごろな価格や使い勝手のよさなどのコストパフォーマンスが評価され、ヒットにつながった。ここから風向きが徐々に変わり、SIMロックフリースマートフォンのシェアも上がっていく。

 その後、ASUSは「ZenFone 2」や「ZenFone 3」などのフラグシップモデルだけでなく、エントリー向けの端末である「ZenFone Go」や、セルフィー(自撮り)に強い「ZenFone Selfie」、大容量バッテリーを搭載した「ZenFone Max」など、派生モデルの数々も日本で発売した。同一のペットネームで、スペックが異なるモデルもあり、現在市場に出回っているモデルだけでも、フルラインアップといえるほどバリエーションが豊富だ。

 ZenFone ARは、その最上位に位置付けられる「デジタル新時代をリードするイノベーターで、ZenFoneの革命児」(マーケティング部長、シンシア・テン氏)。いわゆるイノベーター層を狙った商品で、価格もメモリを8GB搭載したバージョンは10万円に迫る。確かにスペックが非常に高く、先に挙げたプロセッサやメモリ以外でも、キャリアアグリゲーション、DSDS対応、ハイレゾ&DTS対応など特筆すべき点は多く、この点を考えれば妥当な価格といえる。

 SIMロックフリースマートフォンの売れ筋が3万円前後であることを考えると、非常に強気な価格設定にも見えるが、ZenFone ARはミッドレンジモデルのように幅広いユーザーを狙った製品ではない。むしろ、確実なニーズのあるところを、ピンポイントで狙っている商品といえるだろう。「法人からの引き合いも非常に強い」(テン氏)というように、B2B2Cでの活用も視野に入っているようだ。

 実際、ASUSの発表会では、最後に法人や開発者の問い合わせ窓口が示され、「ご連絡をお待ちしている」(テン氏)との呼びかけもあった。「製品だけでなく、アプリケーマートの協業で、ZenFone ARの可能性をどんどん開拓していきたい」(同)というのがASUSの方針だ。サムスンの「Gear VR」が、GalaxyとともにB2B2Cの形で利用されている事例も合わせて考えると、これは理にかなった戦略といえる。夏に発表される製品を4月に発表したのも、その間にアプリを充実させ、ビジネスにつなげたいという考えがあったからだろう。

 ASUSがハイエンドモデルや派生モデルを次々と投入できるのは、SIMロックフリースマートフォンの市場が拡大しているからだ。2016年から、各メーカーとも、高価格帯のモデルに挑戦しており、特にHuaweiは「P9」や「Mate 9」で一定の成果を残している。ローエンドやミッドレンジまでが中心だった市場が徐々に拡大し、ハイエンドモデルが受け入れられる余地が生まれてきたというわけだ。

 これに対し、ASUSはハイエンドでは「ZenFone 3 Deluxe」を展開しているものの、ミッドレンジより上の価格帯では、やや存在感が薄かった印象もある。ボリュームゾーンとしてミッドレンジを拡大する意義は大きいものの、ハイエンドモデルでシリーズの持つ世界観や技術力をアピールし、ブランド力をつけなければ、低価格帯のモデルも先細りになってしまう。ZenFone ARを日本で投入した意義は、ここにもありそうだ。

●コンテンツの拡充やGoogleとの連携が課題

 もっとも、Tangoはまだまだ対応アプリが少ない。現時点で30種類を超えているとはいえ、厳しい見方をすれば、一般のユーザーが手放せないと感じるキラーアプリは登場していない。ゲームなどはしばらくすれば飽きてしまうし、家具の配置などができるアプリも、毎日使うわけではないだろう。夏までのリードタイムで、どこまでユーザーに刺さるアプリを広げられるかは、ASUSにとっての課題だ。Tango対応アプリの拡大に関しては、プラットフォームを提供するGoogleとの連携も欠かせない。

 Daydreamについては、そもそもGoogleからゴーグルが発売になっていない点が、大きな課題だ。ASUSによると、Googleの日本法人とは特に協議は行っておらず、ZenFone ARの投入に合わせてDaydream対応ゴーグルの販売が開始されるかどうかも未定だという。現状ではサードパーティー製ゴーグルも日本では販売されていないため、このままZenFone ARが発売されると、Daydreamの機能が宝の持ち腐れになってしまう恐れもある。Nexus 7などでGoogleと協業してきたASUSだけに、ゴーグルの発売もタイミングを合わせてほしかった。

 現時点ではアプリやゴーグルの発売状況次第といったところだが、AR技術のTangoとVRプラットフォームのDaydreamに両対応したことで、ZenFone ARはMR(複合現実)を手軽に楽しめるデバイスになる可能性もある。先に挙げた家具の配置をするアプリも、HMDを通してみれば、よりリアルに部屋の印象をつかむことができる。マイクロソフトがHoloLens発表時に披露した映像のように、部屋の中に、Gmailやマップなどのアプリを表示するといった使い方も可能になるかもしれない。TangoやDaydreamを個別に採用する端末は、今後増加することが確実視されているが、両対応しているのはZenFone ARならではの差別化ポイントにもなる。

 ちなみに、ZenFone ARの発表会には、同時にCESで披露された「ZenFone 3 Zoom」も参考展示されていた。発売時期は未定ながら、日本で発売する計画もあるという。ZenFone 3 Zoomは、HOYA製の光学ズームモジュールを搭載した初代ZenFone Zoomとは異なり、焦点距離の異なる2つのカメラを組み合わせて、疑似的にズームを実現しているのが特徴。AppleがiPhone 7 Plusに採用したデュアルカメラに仕組みは近い。

 こちらは、ミッドレンジの上位モデルといったスペックで、カメラにフォーカスしたZenFoneだが、以前のZenFone Zoomより、見た目は“普通のスマートフォン”に近くなった。カメラ然としていた先代は、ユーザー層が限定されていた印象もあったが、ZenFone 3 Zoomは、より広いターゲットを設定した端末といえる。発売のタイミングにもよるが、ZenFone ARと合わせて、注目しておきたい1台といえるだろう。

最終更新:4/15(土) 6:25
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