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<原発建設>WH破綻で中露の争い加速 主戦場は新興国へ

毎日新聞 4/15(土) 9:00配信

 東芝子会社の米原子炉メーカー、ウェスチングハウス(WH)が米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)を適用申請して経営破綻したのは、先進国での原子力発電所建設の行き詰まりを鮮明にした。2000年代前半から世界の原発需要が高まった「原発ルネサンス」も11年の東京電力福島第1原発事故の発生によって幻と終わり、先進国の原発関連企業は苦境に陥っている。今後は原発の立地先も建設を担う企業も、中国やロシアなどの新興国に移る流れが加速しそうだ。【ワシントン清水憲司、ロンドン三沢耕平、北京・赤間清広】

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 「期限までに完成できるとは思っていない」。米南部ジョージア州公共事業委員会のティム・エコール委員は断言する。WHと東芝は同州でボーグル原発3号機を19年12月までに、4号機も20年9月までに完成させる約束だったが、現時点の進捗率は3割にとどまる。WHが破産法を適用申請して経営破綻する前から、地元州政府も半ばあきらめていたのが実態だ。

 原油高騰に加え、地球温暖化対策で二酸化炭素を排出しない原発が注目されるようになり、ブッシュ政権が01年に原発推進を打ち出したのをきっかけに始まった「原発ルネサンス」。それを奇貨にWHは29年度までに世界で新鋭原子炉「AP1000」64基以上の受注を目指すと強気の見通しを発表した。東芝が06年にWHを高値で買収する根拠にもなった。

 1979年のスリーマイル島原発事故後、30年以上も新規建設が途切れていた米国で厳格な規制をクリアし、建設の経験を積んでコスト削減も実現できれば、世界の需要を取り込める--WHによるボーグル原発とVCサマー原発2、3号機の建設は原発復権の起点になるはずだった。

 しかし、事態はすぐに暗転する。00年代後半から、米国ではシェール革命による天然ガスの増産と価格下落により、電力市場で原発の価格競争力はガス火力発電に劣るようになり、原発の新設機運も大きく低下した。元原子力規制委員会(NRC)幹部のレイク・バレット氏は「福島第1原発事故後の規制強化や工事経験の不足も加わり、WHと東芝には最悪の展開になった」と指摘する。

 深刻なのは、ジョージア州など総括原価方式で原発の建設費用を電気料金に転嫁でき、資金回収の仕組みが整った地域でもコスト高で建設が困難になっている点だ。ボーグル原発の発注元のジョージア電力は3月1日、経済情勢の変化を理由にAP1000を建設予定だった別の原発計画を凍結した。ここに来て原発離れは一段と進んでいる。

 欧州でも、英南西部ヒンクリーポイントでフランス電力(EDF)傘下の仏アレバが最新鋭の欧州加圧水型炉(EPR)を建設する予定だが、フィンランドなどで同型原子炉の設計に問題が判明し、稼働予定を超えても稼働できずにいる。アレバは福島第1原発事故以降、安全対策費の増加で経営が悪化し、16年決算は6億6500万ユーロ(約790億円)の赤字を計上した。仏政府が救済に乗りだす中、提携する三菱重工業と日本原燃(青森県六ケ所村)も計10%の出資を決めた。

 地球温暖化対策で火力発電所の廃止計画を進める英国にとって、原発新設は「待ったなしの国家プラン」(英政府関係者)。東芝は仏エネルギー大手エンジーと共同で英北西部ムーアサイドに原発3基を建設する計画だったが、WH破綻で計画が頓挫する可能性も出てきており、英政界では国費投入を求める声もあがる。

 ただ、先進国企業は総じて建設に及び腰だ。ドイツのシーメンスは11年に原発事業から撤退。米ゼネラル・エレクトリック(GE)のイメルト最高経営責任者(CEO)も12年に「今やガスと風力の世界だ。原発を正当化するのは難しい」と述べ、慎重姿勢を維持する。「攻め」に出たWHとアレバの苦境が先進国勢の状況を浮き彫りにしている。

 苦境に直面する先進国を尻目に、影響力拡大にまい進するのが中国だ。国内では原発の新設計画が急ピッチで進み、輸出でも攻勢をかける。巨大な自国市場と政府の強力な支援を武器に世界市場の主役に躍り出ようとしている。

 10年以降に世界で運転開始した原発44基のうち43基、建設を始めた原発51基中50基が主要7カ国(G7)以外に立地する。反対に運転を終了した34基中33基がG7だった。G7から新興国へのシフトが鮮明になる中、その主軸となる中国政府は原発の設備容量を20年までに倍増し、30年には5倍超に拡大する目標を掲げる。年10基前後のハイペースで新設が続く計算だ。

 巨大市場の存在は中国にとって最大の強みだ。WHは中国でも新鋭原発「AP1000」4基の建設を進めるが、中国はこれを利用した国産炉「CAP1000」開発に着手した。原発の新造が続く巨大市場を呼び水に海外の最新技術を取り込れ、世界大手との技術格差を一気に埋める戦略だ。

 中国が「原発強国」を掲げるのは、深刻化する大気汚染対策に加え、外交的な利用価値も大きいためだ。習近平国家主席は中国から欧州にまたがる現代版シルクロード構想「一帯一路」を提唱。沿線国の多くは産業発展に欠かせない電力の供給不足に悩んでおり、原発を中心としたインフラ支援は関係強化に向け、大きな武器となる。習氏のトップセールスの結果、英国では先進国で初めて中国製原子炉の導入も決まった。中国政府は3月、中国核工業集団と中国核工業建設集団の事業統合計画を明らかにした。原発大手2社を大合併させることで、中国企業の世界的な競争力を高める狙いがあるとみられる。

 50年代に世界初の原発を建設し、先進国勢に劣らない歴史があるロシアは化石燃料に偏ったエネルギー消費を改善するため、福島第1原発事故後も自国内での建設を推進。中国に次ぐ7基を建設中だ。海外進出にも積極的で、国営企業「ロスアトム」は、需要が高まるインドやサウジアラビア、トルコ、バングラデシュなどの発展途上国にも輸出攻勢をかける。

 国内で培った原発技術をインフラ輸出の「目玉」と位置づけるのは韓国も同様だ。韓国の原発事業を担う韓国電力公社は昨年、アラブ首長国連邦(UAE)で09年に建設を受注した原発4基の運営権も獲得し、建設から運営まで一貫した輸出体制を確立した。UAEを足がかりに中東、アジアでの輸出拡大を狙うが、受注の決め手となる海外での実績、ノウハウ面ではライバルとの差が大きいのが実情だ。

 WHの経営破綻で注目されるのが、どこがWHを傘下に収めるかということだ。米政府は安全保障や技術術流出の懸念から中国企業への売却に難色を示している。このため米原子力業界では「中国との対抗上、ロシアへの売却も一案」との声が出ている。また、海外受注の実績が欲しい韓国電力公社も売却候補の一つとして取りざたされている。

最終更新:4/15(土) 9:00

毎日新聞