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<タンス預金>資産家が43兆円をため込む理由

毎日新聞 4/15(土) 9:30配信

 日本の現金の残高は2016年末に102.4兆円と過去最高に達した。そのうち約43兆円はタンス預金とみられている。そのタンス預金が近年急速に増え続けているのはなぜか。熊野英生・第一生命経済研究所首席研究員が解説する。【毎日新聞経済プレミア】

 ◇2015年の相続税強化で一気に増加

 筆者の試算では、102.4兆円のうち43.2兆円が「タンス預金」だとみている。ここ数年、1万円札の発行残高の伸びが1000円札のそれを数%上回っている。1000円札でタンス預金をする人はいないので、この伸び率の差の積み上がりがタンス預金になっていると考えられる。

 1990年代後半に日本は金融不安に見舞われた。このとき、大口預金を引き出して手元にタンス預金として現金を持つ行動が起きた。当時は、預金の安全性を疑い、ペイオフ(金融機関が破綻した際の一定金額までの預金保護)解禁に備える行動だった。それが、金融不安が完全に沈静化しても続いている。ゼロ金利だから預金に戻しても、利息が付かないからだと考えられた。

 そして、近年またタンス預金の増加が目立っているのである。12年は年間1.7兆円増、13年は2.4兆円増、14年は2.4兆円増、15年は4.8兆円増、16年は3.1兆円増である。15年にタンス預金が急増したのは、相続税強化が2015年1月にあり、節税意識が高まったことがある。

 16年1月はマイナンバーの利用が始まった。16年の確定申告から3億円以上の財産を持っている人は、資産内訳を提出する「財産債務調書」の提出が義務付けられた。一連の資産課税に対する措置は、資産家に対して将来の徴税強化を不安視させた可能性はある。

 ◇消費増税の延期がきっかけに?

 こうした徴税への対応もあるだろうが、筆者は財政そのものの不安もあると考えている。安倍晋三政権は、14年4月に消費税8%に引き上げた後、14年11月と16年6月に、2度も次の消費増税のスケジュールを延期している。

 これは大変まずいと感じた人は多かった。なぜならば、増税を延期したしわ寄せは課税の強化に向かうのではないかと思った人が大勢いたからだ。特に資産家にはその傾向が強かったのではないか。手元に入ってきた収入を支出せずに念のためそのまま現金で置いておこうという人がいてもおかしくはない。

 いま低迷を続けている個人消費とこのタンス預金の間にも何らかの関係があると筆者は考えている。

 しばしば個人消費が増えないのは将来不安のせいだとされる。この将来不安の中身は、何が起こるかわからないので、それに備えて貯蓄を増やそうという心理である。表現を変えると、収入の中で消費と貯蓄に使う資金を配分するときに、消費を減らして貯蓄を増やす選択をしているということだ。貯蓄の形態が今般はタンス預金となっているのである。

 ◇タンス預金をやめて消費に回すのはまだ先

 14年ごろから身近に起こった変化を思い出してほしい。もうすぐ相続税が強化されるから、節税対策をしましょうというセールスが花盛りだった。ワンルームマンション投資を始めましょうとか、タワーマンションの上の階がお得ですという宣伝を目にした。いや応なく人々の関心は資産運用の方に向く。

 特に資産家にとっては、相続税強化は心配の種であり、そこに黒田東彦日銀総裁の超金融緩和が加わった。住宅ローンを借りて投資を始める動きを後押しした。タンス預金はそうした節税機運の高まりの中で急増したという見方ができる。

 現金で資産を持っておくという方法は、最も単純であり、何にでも交換できる流動性を備えている。何が起こるかわからないという不安に対しては、流動性の高いタンス預金がちょうどよかったのだろう。

 最後に、人々がタンス預金を手放すときは来るのだろうか。筆者は、安心してタンス預金を消費に回すときは当分来ないと思う。もちろん、この先金利が1~2%へと上昇すると、タンス預金は不利になる。

 しかし、利上げの見通しもずっと先のように思える。ならば、タンス預金は相当の間そのまま増えていきそうだ。

最終更新:4/15(土) 9:30

毎日新聞