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トルコ、深まる分断 16日改憲国民投票 大統領権限拡大問う

産経新聞 4/15(土) 7:55配信

 ■強権加速か、賛否は拮抗

 トルコで16日、大統領の権限を大幅に拡大する憲法改正の是非を問う国民投票が行われる。欧米諸国は、承認されればエルドアン大統領の独裁化が進み、反体制派の締め付けなど人権侵害が深刻化すると懸念。イスラム教の伝統を重視する大統領に対し、国是である「世俗主義」の護持を訴える勢力や少数民族も批判を強める。賛否はほぼ拮抗(きっこう)しているとされ、投票の行方に国際社会が注目している。(イスタンブール 佐藤貴生)

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 「EVET」。トルコ語でイエスを意味するこの言葉とエルドアン氏をあしらった垂れ幕が、イスタンブールの至る所で目につく。

 それに比べ、「反対に投票を」と呼びかけるものは少ない。野党、共和人民党(CHP)のイスタンブール地区事務所を率いるメフメトアリ・ウズカン氏(48)によると、与党の公正発展党(AKP)と違い、地区当局の掲示許可がなかなか得られないからだという。

 CHPは、世俗主義を打ち出して「国父」と称された初代大統領、ムスタファ・ケマルが創設した政党を前身とする。

 「憲法が改正されたら大統領の権限が強大になりすぎ、議会はチェックできなくなる」(ウズカン氏)。CHPは、イスラム色が濃いエルドアン氏が強権を握れば「世俗主義は危機に陥る」とし、有権者に反対票を投じるよう呼びかける電話作戦を行ってきた。

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 改憲は現在の議院内閣制から大統領中心制への移行という国家体制の転換を意味する。エルドアン氏とAKPは、意思決定の迅速化など利点を説明してきた。

 エルドアン氏の支持層は、「強い指導者」を求める地方の保守層などが中心だ。しかし、非常事態令の発布から閣僚の任命権、予算案の策定まで幅広い権限をたった1人が握ることへの批判は少なくない。

 エルドアン氏は最近、改憲への支持拡大に向けた在欧トルコ系移民の集会に、トルコの閣僚が参加するのを拒否したオランダを「ナチスの残党」のようだと批判。シリア北西部イドリブ県で化学兵器の使用疑惑が浮上すると、同国のアサド大統領を「殺人者」と呼んで厳しく非難した。

 いずれもトルコ国内のナショナリストや保守層の共感を狙った発言で、国民投票を前に敵対勢力を海外に見いだし、危機感をあおって票を稼ぐ手法にみえる。

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 AKPのイスタンブール地区幹部は「憲法改正に反対する勢力には何ら圧力はかけていない」と述べた。しかし、大統領権限の強化を受け、エルドアン政権による人権侵害に拍車がかかるのではないかとの懸念には理由がある。

 ロイター通信によると、政権側は昨年7月のクーデター未遂後、関与した疑いなどで兵士や教員、警官ら4万人を拘束、無関係な者を多く含む約12万人を停職処分にした。多くのメディアが閉鎖され、記者2千人以上が職を失った。

 3カ月間、拘束されたという元新聞記者(48)は、「やましいことはないから釈放された。エルドアンは独裁者だ」と語る。

 国民投票を前に、人口の1割以上を占めるとされる少数民族クルド人への圧迫も厳しさを増した。

 クルド系の左派、国民民主主義党(HDP)のイスタンブール地区代表、ムスタファ・アブシ氏によると、投票日が迫っても党の指導者や多数の幹部が拘束されたまま。同氏は「政府は南部のクルド人の町を破壊してきた。トルコの課題はクルド人(の処遇)と民主化の促進。憲法改正の条項はこの2つと全く関係がない」と切り捨てた。

 国民投票を機に噴き出す懸念や不満-。こうした反応が、トルコ社会の分断の深さを示している。

最終更新:4/15(土) 8:15

産経新聞