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小さな声でも「やるときはやる」「PARKS パークス」瀬田なつき監督 橋本愛主演、共演に永野芽郁、染谷将太

産経新聞 4/15(土) 11:00配信

 映画監督って、いつも大声を張り上げているようなイメージがある。でも昨年の5月、東京・吉祥寺で撮影中だった「PARKS パークス」のロケ現場を訪れたとき、瀬田なつき監督(37)の声は、どこにいるか分からないくらい小さくて、スタッフやキャストにどんな指示を出しているのか全く聞き取れなかった。あれからおよそ1年。4月22日からの公開を控えて、「見終わった後に足取りが軽くなるような、映画館の体験がそんなふうになるといいなと思いますね」ときっぱりと話す。やはり小さな声で。

 ■50年の時を超えて青春が交錯する

 「もともと声が小さいので、その分、なるべく相手に伝わるような近い距離にいるようにしている。みんなに、ではなく、聞いてほしい人に聞こえたらいいかなと思うんです」

 橋本愛が演じる映画の主人公のせりふに「やるときはやる」というのがあるが、瀬田監督自身の決意の表れだったのかもしれない。そう思わせるほど、「PARKS パークス」は志の高い映画に仕上がっている。

 舞台は東京・吉祥寺。井の頭公園の近くに住む大学生の純(橋本愛)は最近、やることなすことうまくいかず、スランプに陥っていた。ある日、彼女のアパートに、見知らぬ高校生のハル(永野芽郁(めい))が訪ねてくる。亡くなった父親の昔の恋人がこの部屋に住んでいたというハルと一緒に、佐知子というその恋人の行方を探すことになるが、突き止めた住所には佐知子の孫のトキオ(染谷将太)が1人で住んでいた。

 佐知子の遺品の中にオープンリールのテープを見つけた3人は、録音されていた未完成の曲を完成させるべく行動を開始する。

 というところから映画は時空を超え、50年前と現在の青春が交錯するとともに、音楽が重要な意味を帯びてくる。ミュージシャンのトクマルシューゴ監修の下、さまざまな音楽が飛び交い、最後は井の頭公園でミュージカルシーンよろしく、多くの人々が躍動する。

 「『ロシュフォールの恋人たち』(ジャック・ドゥミ監督)とか、『ジャージー・ボーイズ』(クリント・イーストウッド監督)とか、いろいろ研究はしました。レオス・カラックス監督の『汚れた血』で音楽が流れるとだーっと走るシーンとか。でもそれが生かされているかというと…」と瀬田監督は照れ笑いを浮かべる。

 ■カメラ1つで街に出るヌーベルバーグの感覚

 もともと音楽は中心の要素ではなかった。公園で見つけたものを完成させるために街や公園をうろうろするという展開にしたいという思いがあり、その過程で音楽が浮上した。

 「ちょうどそのころ、井の頭公園の池の水を全部抜いて掃除していて、いろんなものが出てきたんです。その中にレコードやカセットテープがあったら面白いね、と話していて、そこから昔の音楽を完成させるというストーリーができていった。ただ公園側からは、池にものを投げたり拾ったりするシーンはよろしくないと注意されましたね」

 この映画は、井の頭公園の開園100周年記念として企画された。ゆかりがあったわけではない瀬田監督に白羽の矢が立ったのは、2011年から取り組んできた「5windows」という企画がきっかけだった。横浜・黄金町で撮影したこの作品は、5本の短編のうち4本を屋外で上映し、最後の1本を劇場で披露することを目的に制作されたもので、12年7月には吉祥寺でも屋外上映を行っている。

 「街を舞台にした作品を実際の街の地形を生かして撮っていたので、それが今回の企画に合っているんじゃないかと声をかけていただいた。そんな面白い企画があるのならご一緒したいです、と言って…」

 大阪出身の瀬田監督が映画に目覚めたのは、横浜国立大学に入学して、映画批評家の故・梅本洋一教授のゼミに入ってからだ。映画雑誌「カイエ・デュ・シネマ・ジャポン」の責任編集を務めていた梅本氏から仏ヌーベルバーグについて薫陶を受けた瀬田監督は、1960年代、70年代にこんなかっこいい作品を作っていたということを知って衝撃を受ける。

 大学院修了後は、好きな作家だった黒沢清監督が教授を務める東京芸術大学大学院の映像研究科に進学。その修了制作として撮った初の長編「彼方からの手紙」は、大阪アジアン映画祭で上映されるなど高い評価を受ける。

 「もともとティム・バートンやスティーブン・スピルバーグといった監督の映画が好きだったんですが、それとともにヌーベルバーグの影響を受けているかもしれません。ライトがなくてもカメラがあれば街の風景は撮れるといったヌーベルバーグのやり方を、今回の映画でも実践しているところがある。何だか理解できないけれど、何か映っているという感覚。それを何十年も前にやっていて、いま見ても古くなっていないんですからね」

 ■日常の隙間が生まれる瞬間を映し出す

 2011年には「嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん」で商業映画デビューを果たすが、一方でミュージックビデオや配信ドラマ、テレビCMなど、多彩な表現で発信し続けている。

 「自分はこうだ、これが言いたい、というのは別にないんです。ただ知らないこと、知らない人、といった未知なるものへの、何て言ったらいいんだろう、何かがある。こんなことを瀬田がやっている、みたいに見てくれるのは、すごくうれしいですね」

 そうは言っても、やはり劇場で上映される映画には特別な感覚がある。今回は作品の舞台になっている吉祥寺でも公開されるが、映画を見た後にちょっと近くを散歩することで、現実と映画がつながるような体験ができるかもしれない、とアピールする。

 「吉祥寺でなくても、映画館から出て近所の公園に行ったら、もしかしたらちょっと違うアングルで人生が見えるかもしれない。そうなればいいなと思いますね」

 タイトルを「PARKS」とあえて公園の複数形にしたのも、公園を行き交う老若男女のたくさんの思い出を詰め込んだ話にしたいという思いからだ。

 「当然だと思っていた日常が、ちょっとずれて見える瞬間がある。そういう時間の隙間、日常の隙間みたいなものが、何か物語の中で生まれてくるというのが多分、好きなんだと思います。物語を組み合わせてそういうものを映し出すことで、見ている人がちょっと驚く。それって映画でしか表現できないものかもしれませんね」

 映画づくりへの思いを打ち明けた。また、小さな声で。(文化部 藤井克郎)



 「PARKS パークス」は、4月22日から東京・テアトル新宿、名古屋・センチュリーシネマ、29日から東京・吉祥寺オデヲン、横浜・シネマ・ジャック&ベティ、5月6日から大阪・シネ・リーブル梅田、札幌・ユナイテッド・シネマ札幌、福岡・ユナイテッド・シネマキャナルシティ13など順次公開。

最終更新:4/15(土) 11:00

産経新聞