ここから本文です

東京タワーが見える家より桜が見える家のほうが価値がある?

朝日新聞デジタル 4/15(土) 11:10配信

【本音のマイホーム】

 東京では今年の桜の見ごろは過ぎつつあるが、例年、このシーズン前後には「窓から桜が眺められる住宅」の広告を目にする。一般に、桜が見えることはセールスポイントになる、はずだ。だから広告などでタイミングを狙って「桜ビュー」が強調されることになる。

 今年もニュース番組か何かで、肌寒いなか震えながら花見をしている人がインタビューされるシーンを見た。もはや花見というより、寒空の下の場所取り自体が季節の風物詩という印象だ。だが、もし自宅に居ながらにして花見ができたらそんな苦労は不要になる。その点だけでも桜ビューの家には魅力があるといえそうだ。

 これに似た性格のもので「花火が見える家」というのもある。窓からの眺望が開けた中高層マンションなどに多いケースだ。人の混雑に巻き込まれることなく、自宅や共用のラウンジなどから優雅に花火大会を眺められるのは、一種の住人特権といえよう。

 ただ、桜も花火も1年のなかで見られる期間が極めて短いというのがポイントだ。桜ならせいぜい1週間、花火に至っては花火大会が催される夜のほんの1~2時間にすぎない。だから、自宅から桜や花火が見えることに価値を認めない人がいても不思議ではないし、むしろそのほうが多数派かもしれない。

 そもそも日本の住宅マーケットでは、諸外国と比べると眺望が資産評価に影響する余地が少ない。東京タワーや富士山など、日本を代表するランドマークが見える家でも、それだけで資産価値が高いとは言い切れないのが実情だ。ましてや限られた期間(時間)しか楽しめない桜や花火の眺望となれば、資産価値には何の影響も及ぼさないだろう。

 でも、季節限定で超短期の眺望を得られる家には、実は、お金には代えられない価値があると筆者は思っている。ある意味、東京タワーや富士山が見えることより、価値をもっているとさえ考えている。

 以前、隅田川の花火大会が間近に見えるマンションに暮らすご夫婦を取材したことがある。彼らが言うには、毎年、花火大会当日は草野球の仲間が彼らの自宅に集まって大いに盛り上がるそうだ。普段の練習や試合に参加できないメンバーも出がちだが、この日だけは必ず全員集合する。花火が見える家が仲間のつながりのよりどころになっていたのだ。たとえこれが花火でなく桜が見える家であっても、同じように彼らは集まるだろう。

 少し広げて考えると、集まるのは友人、知人に限らない。子どもが小さいころから自宅での花見や花火見物が家族の恒例行事になっていたら、子どもが独立して家を出た後も、毎年その日は家族全員が集合する日になるかもしれない。

 何を言いたいかといえば、年に数日(数時間)しか楽しめない眺望には人が集まる求心力があるということだ。東京タワーが年中見えてもそうはいかない。友人や家族とリアルに会わなくてもSNSで容易にコミュニケーションがとれる時代だからこそ、年に一度、仲間や家族が顔を合わせる口実を与えてくれる「期間限定の眺望」には価値があると思うのだ。

(文 エディター&ライター 山下伸介 / 朝日新聞デジタル「&M」)

朝日新聞社

最終更新:4/15(土) 11:10

朝日新聞デジタル