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【F1コラム】アロンソのインディ500参戦に込められた意味とは?

motorsport.com 日本版 4/15(土) 12:00配信

 フェルナンド・アロンソがモナコGPを欠場してインディアナポリス500マイルレースに参戦する。現役F1ドライバーでしかもタイトル保持者としては、ジム・クラーク、グラハム・ヒル以来だ。他にもF1ドライバーの参戦もあるが、F1を引退してアメリカに活躍の舞台を移してからインディ500に挑戦した者がほとんどだ。アロンソは現役も現役、それもモナコを蹴ってインディというのだから、よほどの事情があったに違いない。

【写真】バーレーンでのアロンソとハミルトン。ハミルトンも「他のレースに出たい!」と主張するが!?

 アメリカ人のザク・ブラウンがマクラーレンの代表に収まってから、明らかに流れが変わってきた。これまでヨーロッパのエスタブリッシュメントが主導権を握ってきたF1では、全てがF1中心、言わばF1至上主義。ドライバーたちにもF1の活動に支障をきたすことは全て禁止としてきた。最近ではその縛りも緩くなってはきたが、肝心のF1レースを休んで他のレースに参戦するという話は初耳だ。クラークは5度インディ500に参戦し、2年目の64年にポールポジション、3年目の65年に勝利を挙げたが、さすがにF1を休んでの参戦はなかった。

 では、なぜアロンソのモナコGP欠場、インディ500参戦が実現したのだろう。理由のひとつに、今年のマクラーレン・ホンダのF1グランプリにおける低迷があることは否定できない。実はモナコGP欠場はアロンソにとって大きな意味は持たず、それよりもインディ500参戦の意味の方が大きかったということだ。もちろん、アロンソがポイント獲得を重要視する選手権順位にいたら、たった1レースといえどもF1を捨てるようなことはなかったはず。つまり、現状は1レースならF1を捨てても大勢に影響なしと読んだからにほかならない。

 もちろん、アロンソ1人がそう思ったところでことは動かないし、まさか彼がインディ参戦を主張したわけではないだろう。動いたのはマクラーレンのエクゼクティブ・ディレクターに就任したアメリカ人のザク・ブラウン。既存のF1の殻を破りたいと考える彼が大きな役割を果たしたことは間違いない。彼は記者会見で、「アロンソのインディ500は冗談から始まった」と言ったが、その冗談は入念に計算された冗談だったに違いない。その意味するところとは、(1)アロンソ引き留めのため、(2)ホンダへの圧力、(3)アメリカへのF1宣教である。もう少し俯瞰的に見るなら、F1至上主義への警鐘をアロンソとインディ500を使って鳴らすと同時に、F1嫌いのアメリカを”懐柔”する意味もあったに違いない。F1チームの代表になった今、自国アメリカがF1に距離を置くのは彼にとっても得策ではない。そんな空気が読み取れる。

 このブラウンの戦略に乗らざるを得なかったホンダ。いや、F1で埒があかないいま、ブラウンのアイデアは渡りに船だったのかもしれない。F1での体たらくさえなければ余計な根回しも出費も不要だったはずだが、現実は違った。アンドレッティ・オートスポーツに対してインディ500参戦が決定していた5台に加え、もう1台出走させるように依頼、アロンソのシートを用意した。そこでは当然多額の金が動いたはずだが、PR経費と考えれば安いものである。

 しかし、懸念事項もある。佐藤琢磨に影響が及ぶ点だ。アンドレッティの4人目のドライバーとして活動する彼は、日本とアメリカのレースの架け橋としての存在感を発揮するが、同じチームにアロンソが加わるとなるとどうしても注目はアロンソに集まる。これまで佐藤を支援してきたホンダも、アロンソの登場で佐藤の存在感が薄れることは認めざるを得ない。

 では、この出来事をアロンソ側から見た場合にはどうだろう。ブラウンからのまさかの申し出に興味を持ったためにことは現実になったが、F1グランプリを1戦とはいえ欠場することには葛藤があったに違いない。周囲の目もある。F1ドライバー仲間からもF1欠場は驚きの目で見られているし、反対にインディのドライバーからはいささか蛮勇に見えるアロンソの行為に対して、F1ドライバーの傲慢さとも捕らえかねられない。アロンソはそうした環境の中でインディ500を走る事になる。

 初めてのオーバルレースがインディ500であることを心配する声もあるが、アロンソにとればインディ500だからこそ出場する意味があり、そこに躊躇はないはずだ。5月に入れば走り込む日々が続くはずで、決勝レースまでにはクルマにもコースにも慣れる。レース能力の高い彼のことを心配する必要はないだろう。

 アロンソの抜けた穴を埋めてモナコGPを走るドライバーは誰か? 欧米のメディアはインディカー・ドライバーも含めて何人か名前を挙げていたが、ホンダからジェンソン・バトン決定の通知が届いて、私の読みを裏付けてくれた。

 冗談から始まったこの話、冗談で終わって欲しくない。

赤井邦彦

最終更新:4/15(土) 12:00

motorsport.com 日本版