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マイナス感情を「例外処理」する――感情コントロール「ステップ2 感情を受け入れる」

@IT 4/17(月) 7:10配信

 「感情スイッチ」という言葉をTwitterで検索すると、「無感情になれるスイッチが欲しい」や「嫌なことがあったので感情スイッチをオフ」といったつぶやきが見つかり、「あー、みんなモヤモヤした感情を切りかえたいんだなー」と感じます。

【こんな気分、今すぐオフしたい!】

 生きていれば、仕事をしていれば、嫌な気分になることは多かれ少なかれありますよね。そんなときに、部屋の明かりのスイッチをON/OFFするように、感情も「パチン」と切り替えられるスイッチがあったら、どれだけ楽なことでしょう。

 けれども、それがなかなかできない……。扱いにくいですね、感情って。

 ストレスフルな職場でエンジニアが心穏やかに働くための感情コントロールの方法を紹介する本連載。前回の昨日は何回イラっとした?――感情コントロール「ステップ1 感情のバグに気付く」では、感情に「気付く」ことの大切さを解説しました。

 今回は5段階感情コントロールのステップ2、「感情を受け入れる」についてお話しします。

●タイミングはコントロールできない

 「パチン」と切りかえられない感情のコントロールについて、専門家はどのように考えているのでしょうか。

 心理学博士ダニエル・ゴールマンは、著書『EQこころの知能指数』(講談社)の中で、次のように書いています。

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脳の構造からいって、情動が生起するタイミングや内容をコントロールすることはほとんど不可能だ。ただし、情動の持続時間はコントロールできる。日常的な悲しみや不安や怒りは、問題ない。時間がたてば、解決するものだ。けれども、そのような感情が非常に強くなり、長時間続くと、やがては神経症的な不安、制御不能な怒り、あるいは抑うつ症状など、病的な状況へと変化しはじめる。症状が非常に重くなってしまうと、それを治すには薬物療法や心理療法が必要になる。
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 脳の構造からして、感情が発生する「タイミング」や「内容」を「パチン」と切りかえるのは、難しそうです。

●脳は「否定語を理解できない」

 もう1つ、脳の特徴と言葉の認知について見てみましょう。

 冒頭の「無感情になれるスイッチが欲しい」「嫌なことがあったので感情スイッチをオフ」というつぶやきにあるように、嫌な気分になったときの感情コントロールの方法は「感じないようにしよう」「考えないようにしよう」とするのが一般的です。

 この「○○しないようにしよう」=つまり「否定語」について、加藤聖龍書『手に取るようにNLPが分かる本』(かんき出版)に、次のような記述があります(※)。

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私たちの脳は「否定形」を理解できません。イメージできませんという表現の方が適切かもしれません。「白とピンクのパンダを想像しないでください」と言われても、脳は勝手に反応して「白とピンクのパンダ」を想像してしまいます。ですから、「○○しちゃだめ」や「××はよくない」という表現で強く脳に刻まれるのは、○○や××の部分なのです。
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 確かに「○○するな」といわれると、「○○する」に意識が向きます。ダイエットしているときに「食べないようにしよう」と思うと、ますます食べたくなるように。ダチョウ倶楽部の「押すなよ! 絶対に押すなよ!」もそうです。「押せ!」と言われているように感じます。

 つまり、「感じないようにしよう」「考えないようにしよう」とすればするほど、「感じる」「考える」に意識が向いてしまうということではないでしょうか。実際、「感じないようにしよう」とすればするほど、モヤモヤした気分がよみがえってくるし、「考えないようにしよう」とすればするほど、思い出してしまいます。

 ありませんか? そういう経験。

※NLPとは、「Neuro Linguistic Programming」の略で、日本語では「神経言語プログラミング」と呼ばれています。コミュニケーションに関する心理学の一種です

●感情を受け入れよう

 感情をコントロールして良い気分でいたいのに、心理学博士は「脳の構造からいって、情動が生起するタイミングや内容をコントロールすることはほとんど不可能だ」と言うし、嫌なことを「感じないようにしよう」「考えないようにしよう」とすればするほど、脳は意識してしまう……。

 何だかもう、「お手上げ!」です。感情をコントロールするのは「無駄な抵抗」のような感じすらします。そこで私は、感情に対して「無駄な抵抗」をするのをやめました。

 もう、降参です。煮るなり焼くなりどうにでもしやがれ。

 すると、どうでしょう。無駄な抵抗をやめたら――つまり「拒否する」から「受け入れる」に姿勢を変えたら、身体の力が抜けて、感情をコントロールしやすくなってきました。

●感情と情報システムの「例外処理」との意外な関係

 少し話がずれてしまうのですが、私はこの「感情を受け入れる」姿勢は、情報システムの「例外処理」(想定外の不具合が起こったときの「エラー処理」)に似ていると思います。

 情報システムの開発では、どんなにユーザーの操作やプログラムの動作を綿密に設計しても、どんなにテストを重ねても、不具合は必ず起こります。運用を開始した直後は特にそうです。開発時には想定していなかった(できなかった)形式のデータが存在したり、ユーザーが思いもよらない操作をしたり、と「想定外の不具合」が起こるのです。

 もちろん、使用するデータやユーザーが操作する全てのパターンを完璧に想定して設計できればいいのですが、全てを事前に察知するのは難しい。また、不具合が発生する「タイミング」や「内容」を想定するのも難しい。

 だからこそ、優れたエンジニアほど「想定外の不具合が起こってもいい」ように「例外処理」を設計します。エラーメッセージを表示してユーザーに知らせたり、不具合調査をしやすくするためにエラー情報をログに記録したり、プログラムが暴走しないように後処理をしたり。

 例外処理は「このシステムには不具合は絶対に起きない」という前提では設計しません。「想定外の不具合が起きるかもしれない。トラブルがいつ起きるのか、そのタイミングや内容は分からない」のように、不具合が起こることを前提に「受け入れる」のです。だからこそ、いざ想定外が発生したときに、行うべき「例外処理」ができるわけです。

 感情コントロールも同じです。「感情の変化がいつ起きるのか、そのタイミングや内容はコントロールできない」と「受け入れる」からこそ、後のコントロールがしやすくなるのです。

●感情を「受け入れる」方法

 では感情は、どのようにしたら受け入れられるのでしょうか。

 筆者の経験則として、感情を受け入れるためには、「受け入れよう」と心の中で思うだけよりも「言葉」を使った方が効果的です。

 知人のカウンセラーは、ネガティブな感情や思考が生じたときに、「○○してもいい」とつぶやくことを勧めています。

 「ムカついてもいい」「緊張してもいい」「ダメな私でもいい」「言えなくてもいい」「うまくいかなくてもいい」のように、感情的になっている自分を、もう1人の自分が「分かってあげる」、あるいは「許可を出す」イメージです。

 以前書いた「口グセ」が作る新しい思考習慣という記事で、語尾に「ありがたいな~」を付ける方法を紹介しました。これも結構便利です。

 言葉が「ありがとう」だからといって、「感謝しよう」なんて思う必要は一切ありません。嫌な気分ならその気分のままでOK。「あー、ムカつく。ありがたいな~」のようにつぶやくと、結構楽になれます。詳しくは、記事(https://preview.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1209/28/news005.html)を読んでみてください。

 感情は、危険から身を守るために、また、頭の中で描いている「理想」と「現実」のギャップを知らせるために自然と発生します。感情を意識の力でコントロールするのは難しいし、「感じないようにしよう」「考えないようにしよう」とするとますます意識してしまいます。

 感情をコントロールしたいなら、「拒否する」から「受け入れる」に姿勢に変えましょう。「無駄な抵抗」をやめれば、感情は自然とコントロールしやすくなるでしょう。

 感情を受け入れたら、次のステップは「鎮める」です。次回(4月21日掲載)は、5段階感情コントロールのステップ3「感情の鎮め方」をお話しします。

●書籍紹介
感情スイッチを切りかえれば、すべての仕事がうまくいく。
竹内義晴著 すばる舎 1566円(税込み)
自分の「感情スイッチ」を探し、より実践しやすい感情スイッチの切り替え方を、[気付く→受け入れる→鎮める→切り替える→活かす]の5つのステップで紹介していく

●筆者プロフィール
しごとのみらい理事長 竹内義晴
「仕事」の中で起こる問題を、コミュニケーションとコミュニティの力で解決するコミュニケーショントレーナー。企業研修や、コミュニケーション心理学のトレーニングを行う他、ビジネスパーソンのコーチング、カウンセリングに従事している。著書「感情スイッチを切りかえれば、すべての仕事がうまくいく。(すばる舎)」「うまく伝わらない人のためのコミュニケーション改善マニュアル(秀和システム)」「職場がツライを変える会話のチカラ(こう書房)」「イラッとしたときのあたまとこころの整理術(ベストブック)」「『じぶん設計図』で人生を思いのままにデザインする。(秀和システム)」など。

最終更新:4/17(月) 7:10

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