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M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO

Impress Watch 4/17(月) 7:18配信

オリンパスが2016年11月に発売したマイクロフォーサーズレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO」のインタビューをお届けする。同社が"プロフェッショナル高倍率"と銘打ち、フラッグシップ機OM-D E-M1 Mark IIとの組み合わせも想定しながら挑んだ1本について、開発陣に聞いた。(聞き手・文:杉本利彦 / 写真・解説:編集部)

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■従来にない、プロ・ハイアマに向けた「F4通しの高倍率ズーム」

――まず、このレンズの開発のねらいからお願いします。
小野:PROシリーズではいわゆる"大三元"と呼ばれる7-14mm F2.8、12-40mm F2.8、40-150mm F2.8の3本のF2.8ズームシリーズが出揃い、次なるズームレンズとしてお客様のご要望が多いのは、いわゆる"小三元"と呼ばれる開放F4通しのズームレンズシリーズです。

ひとつの考え方としては、開放F4通しのズームレンズをF2.8シリーズと同様の焦点域でラインナップするという解もあったかと思いますが、オリンパスならではの一工夫を加え、さらにプラスαとなるレンズの企画はできないかと考えました。

そこでアイデアとして出てきたのが「F4通しの高倍率ズーム」で、これなら従来になく、プラスαの価値をお客様にご提供できるのではないかということでした。我々にはちょうど機動性を重視したOM-Dシリーズがあり、高倍率ズームレンズによってその機動性をさらに高めることができるというねらいから、このレンズを開発しました。

――このタイミングで高倍率ズームのPROレンズを投入した意図は?

小野:単純にラインナップの順番ということもありますが、同時期に開発したOM-D E-M1 Mark IIの発売に合わせたいという思いもありました。

それに加えて、300mm F4.0 IS PROで初搭載したレンズ側の手ブレ補正機能と、対応するカメラボディ側の5軸手ブレ補正を組み合わせた「5軸シンクロ手ぶれ補正」の機能が進化して、静止画および動画で大きな効果が見込めるようになってきたことから、早期にその機能を活かしたレンズを開発したかったという面もあります。

――せっかく300mm F4.0 IS PROで培ったレンズISの技術を他にも活かしたいということですか?

小野:そうです。

――F4通しのズームレンズシリーズではなく高倍率ズームを選択されたということですが、"12-100mm F2.8"なら今までにないレンズとなり大きなインパクトがあったと思いますが、技術的にF2.8にはできなかったのでしょうか?

村山:設計のシミュレーションだけなら可能ですが、これでF2.8通しにするとかなり大型のズームレンズになることが予想され、機動性を重視する弊社のマイクロフォーサーズ機とのバランスを考えるとあまり現実的ではありません。サイズ感や重量、機動性も含めてお客様に十分ご満足頂ける製品とするため、開放F値はF4が最適と考えました。F4通しの高倍率ズームは他社を含めてもまだ例がなく、マイクロフォーサーズのメリットも十分生かせているのではないかと考えています。

――マーケティング的に、12-40mmと40-150mmがF2.8なので、こちらはF4にとどめることで棲み分けを考慮したのでしょうか?

小野:焦点域が重複しますので、もちろん棲み分けを考慮しています。しかし、今回のレンズの開放F値が仮にF2.8であったとすると、通常のズーム比の40-150mm PROでさえあのサイズ感ですから、焦点域が多少短くなるとしても高倍率ズームではさらに大きくなると予想されます。そのため、このレンズのコンセプトでもある"いつでもどこでも条件を選ばず使えるプロフェッショナル高倍率ズーム"を実現するには、開放F4がベストであると判断しました。

――想定しているユーザー層は?

小野:ハイエンドのプロおよびハイアマチュアのお客様を想定しています。

――ユーザーの評判を聞くと、高倍率ズームだけあって取材や旅行など、荷物を減らす目的で欲しいという声をよく聞きます。そうしたユーザーはターゲットではないのですか?

小野:PROレンズですので、第一のターゲットはプロやハイアマのお客様とお答えしていますが、開発段階から光学性能を妥協せずにどんなシーンにも対応できるレンズとして開発しましたので、実際にはできるだけ幅広いお客様に、オールマイティに使って頂きたいと考えています。

――F4通しのズームとしては高価と思いますが、高価になった理由は?

小野:我々としては"小三元ズームレンズ2本分の焦点距離をカバーしている"と捉えていますので、極端に高価とは考えていません。レンズ2本分の焦点距離を1本にということも、このレンズのコンセプトのひとつになっています。

――実際の売れ行きとしてはいかがでしょうか?

小野:大変ご好評を頂いています。正直なところ予想以上の売れ行きで、一時は供給が追いつかない状況でしたが、最近になってようやくお待ち頂くことなく購入できるようになったと聞いています。

■小型化に有効な特殊硝材。自社生産で製造ノウハウも蓄積

――まずは、レンズ構成の読み方を教えてください。

村上:接合レンズを1群と数えると、11群17枚構成のズームレンズです。ズームで可動する部分としてはズーム5群構成のうち最後の接合レンズが第5群になるのですが、この第5群を除いてすべて可動します。

フォーカスレンズは後から2番目の接合レンズで、その前にある接合レンズが手ブレ補正を担当していて、ズーム第3群の一番後のレンズを手ブレ補正に利用するという構成になっています。

――最後に補正系のレンズを置いて、その前に薄型のフォーカスレンズを置く構成は、他のマイクロフォーサーズレンズと共通ですね。

村上:今回のレンズでは近接撮影の能力向上も目標のひとつであり、このような構成をとるのが最適と判断して採用しています。

――ズーム変倍時の各群の動作は?

村上:前から3枚の第1群が前に飛び出すように移動し、4枚目の凹レンズから後の4枚の第2群が後ろに移動します。そして、先ほどの第3群は少し前に動きます。

――前から4枚目にある「DSAレンズ」とはどんなレンズですか?

村上:DSAは、Dual-super Aspheric Lensということで、カットモデルをご覧になるとわかりやすいかと思いますが、中心部と周辺部のレンズの厚みの比が大きく、かつ両面が非球面になっているレンズのことをDSAレンズと呼んでいます。

――前側が平面に近い非球面で、後側がすごい曲率になっていますね。

村上:前側はほぼまっすぐに見えるほど平面に近く、後側はかなり大きな曲率で、周辺部の厚みにかなり差が出ているのがわかると思います。

小野:こうした曲率差の大きな両面非球面レンズを高精度に製造するのは難しいのですが、コンパクトカメラの時代から弊社で長年培ってきた非球面レンズの製造技術の蓄積により、ようやく可能になった技術なのです。

――非球面レンズは自社生産なのですか?

小野:はい、自社生産です。

――素人目には、外注して検査だけ厳しくしたほうが効率が良さそうに思いますが?

村山:そうしますと社内に光学設計技術と製造技術を総合したノウハウが残らなくなってしまいますので、技術面の向上を考えると、可能な限り自社で生産したほうが良いのです。

――変倍系のズーム群のこの位置に曲率の大きい両面非球面レンズを置くメリットはありますか?

村上:特にこのレンズは、広角側で光線を大きく曲げる場所に位置しますので、小型化と高性能化に対してこのレンズが大きな役割を果たしています。また今回、従来弊社が非球面レンズに使用していた硝材よりも屈折率の高い新硝材を採用するというチャレンジをしていまして、その効果もあっていっそうの小型化が可能になりました。

――HR、スーパーHRレンズとはどんなレンズですか?

村上:HRレンズは高屈折率の特性を持ち、球面収差の補正能力が高いレンズです。スーパーHRレンズはさらにその効果を高めたレンズということになります。

――このレンズには使われていませんが、ついでにE-HRレンズとHDレンズの解説もお願いします。

村上:E-HRレンズはEDレンズほどの低分散性はなく、EDレンズほど色収差補正能力は高くないのですが、高屈折率のため色収差だけでなくそれ以外の収差補正能力が高く、主にレンズの小型化に効果的です。HDレンズは高屈折高分散性のあるレンズで、色消しの接合レンズとして使用すると高い収差補正能力を発揮し、これも小型化に貢献します。

――オリンパスにおける"特殊硝材"の定義は?

村上:具体的な基準につきましてはお話しできませんが、社内で定めた基準により、非球面レンズや光学性能の向上に効果のある硝材について名前を付けています。

――ここまで特殊硝材が増えるとわかりにくいので、簡易的なガラス特性マップのようなものを作ってはどうですか?

小野:ご意見は参考にさせて頂きます。

編注:ガラスの特性マップとは?

光学ガラスの性質をプロットした図。光学ガラスメーカーのWebサイトなどで見られる。レンズ設計者の中には、縦軸に屈折率、横軸に分散性をとった図を日本地図に見立てて「日本海側(=屈折率が高い)」と表現したり、「佐渡島あたりのガラスが欲しい」といった会話をする人も。

――HRレンズ、スーパーHRレンズとそれぞれEDレンズを接合したレンズがありますが、どんな働きをするのですか?

村上:EDレンズはご存知の通り色収差補正能力の高い硝材ですが、これとスーパーHRレンズを組み合わせたレンズが、このレンズの第2群にあります。色収差を抑えると同時に、ズーミングによる像面湾曲の変動を抑える働きをしています。

HRレンズとEDレンズの接合レンズは、第3群の手ブレ補正レンズの前にありますが、こちらは色収差と同時に球面収差の補正を担当しています。

――いちばん後ろの第5群、スーパーHRレンズと非球面レンズを接合するとどんな働きをしますか?

村上:画面中心部から周辺部にかけての諸収差を効果的に除去することで、画面の均一性を確保しています。

■広角端で最短15cm、どうしてここまで寄れる?

――このレンズの最短撮影距離は広角端15cm、望遠端45cmとなっています。一般的なズームレンズでは最短撮影距離がズーム全域で一定の場合が多いところ、このレンズの場合はどういった工夫をしているのですか?

村上:このレンズの開発コンセプトのひとつに、当初から"近接撮影に強くしたい"という目標がありました。レンズタイプも、近接撮影能力が高くなるのはどれかという観点で選択しています。その結果、広角端での最短撮影距離15cm、ワーキングディスタンス(=レンズ最前面からの距離)1.5cmという近接撮影能力を実現できました。

このレンズタイプでは最短撮影距離を短くできるのですが、それはフォーカスレンズのパワーを強くできるからです。フォーカスレンズのパワーを強くすることでフォーカスのストロークを短くでき、小型化と近接撮影の両立が可能になっているのです。

一方、フォーカスレンズのパワーを強くした場合、製造過程で誤差が生じると画質への影響が大きくなるため、生産が難しくなります。しかし、今回は生産技術の飛躍的な向上によってその問題をクリアできました。

つまり15cmという最短撮影距離は、設計上で近接撮影能力に優れたレンズタイプを選択したことと、高い製造技術の確立の両面によって実現できているのです。

最短撮影距離が一定でないのは、望遠端でも最短撮影距離15cmを実現するとなるとレンズのサイズが大きくなり、機動性の確保が難しくなってしまうからです。そのあたりの総合的なバランスを考慮して、広角端の最短撮影距離は15cm、望遠端は45cmとしています。とはいえ望遠端の撮影倍率は0.21倍、35mm判換算では0.42倍ですので、このクラスのレンズとしては十分だろうという判断でこのバランスにしています。

――広角端の撮影倍率は?
村上:0.30倍で、35mm判換算では0.60倍です。ズームによって徐々に変化します。

――そうするとズーム中間域でも結構寄れますね。

村上:このレンズが旅行にも最適とのお話が先ほどありましたが、たとえば料理などのテーブルフォトを撮影する場合にも、わざわざ立ち上がって引きを確保せずとも撮影できるなど、お客様にとってメリットが大きいのではないかと考えています。

小野:弊社のレンズは至近撮影に強くしたいというところがメッセージになっていますので、その点が今回のレンズにも表れていると言えますね。

■デジタル補正の度合いは?

――そのほか、今回のレンズでの光学設計上の工夫点はありますか?

村上:そうですね、今回のレンズはOM-D E-M1 Mark IIと組み合わせた場合の、5軸シンクロISというのが大きな魅力のひとつとなっていますが、手ブレ補正のためにISレンズが動いた時でも高い光学性能が維持できるように配慮して光学設計をしています。そのため、「手ブレ補正が効いている時は画質が落ちるのではないか」という心配がなく撮影できるように設計にしていますので、ぜひその効果を確かめて頂きたいですね。

――高倍率ズームなので広角側の歪曲収差はかなり大きいのではないかと予想していましたが、実際に撮影するとあまり目立ちませんでした。かなりデジタル補正をかけているのですか?

村上:補正量は公表していませんが、このレンズだけ特別大きく補正しているのではなく、弊社で実写した上でも問題ないと判断したレベルの補正をかけています。

――例えば歪曲収差の大きなレンズを完璧に補正してしまうと周辺画質が落ちるので、あえて少し歪曲収差を残すということはあるのですか?

村上:そうですね。最終的な画質とのバランスを考慮して補正量を決めています。また、補正をかけた場合の絵がどうなるかというところも想定した上で光学設計を行っていますので、補正したために画質が悪化したということがないようにしています。

――発表されているMTFのデータは、補正前のデータですか?補正後のデータですか?

村上:お客様が手にされる画像のMTFですので、補正後のデータです。

――MTFでは、広角端の高周波のメリジオナル方向の曲線が不自然に落ちていますね?

村上:実際の画像を観察しますと、従来のPROレンズの写りと比べても大きな遜色はないと思います。

■AF駆動メカニズムについて

――AFの駆動方式は? また、その駆動方式の採用理由を教えてください。

村山:ステッピングモーターとリードスクリュー(送りネジ)の組み合わせで駆動しています。今回はAF駆動に必要とするスペック、つまりフォーカスのスピードや精度をステッピングモーターで確保することができるということがわかりましたので、小型化に有利なステッピングモーターを採用しました。

――フォーカスレンズと手ブレ補正レンズの位置が近いですが、メカどうしが交錯することはありませんか?

村山:撮影時はズーム群の位置に応じてフォーカス群を動かしていますので、レンズ同士が当たるということはありません。ただ機構的には小型化のため、望遠端で鏡筒が伸びた際のフォーカスレンズの可動範囲に、広角端では前側にあるズーム群が入り込んで、オーバーラップする部分は出てきます。

――そうした場合に、ステッピングモーターの振動と手ブレ補正機構の振動が干渉することはありませんか?

村山:干渉することのないように設計・検証しております。

――オリンパスでは超音波モーターは使用しないのですか?

村山:超音波モーターは大きなものを動かすのに有利、VCM(ボイスコイルモーター)は速度を出すのに有利、ステッピングモーターは省スペース化に有利といった特徴があります。製品ごとの必要スペックや使用できるスペースを確認して使用するモーターを決定していて、現状ではステッピングモーターやVCMで必要な性能を満たせているので、超音波モーターは使用していません。

――ちなみにIS(手ブレ補正)レンズはVCMで動いているのですよね。

村山:カットモデルで、ISレンズの周辺にVCMのコイルがあるのがおわかり頂けると思います。VCMでは、駆動する側に磁石を置くか、コイルを置くかの2タイプがあるのですが、この場合はISレンズの軽量化のためレンズ側にコイルを置いています。

――ボディ側の手ブレ補正機構は?

村山:同様にVCMで動かしています。

■手ブレ補正の機能・効果について。三脚使用時のベストな設定は?

――オリンパスの手ブレ補正は、初期設定ではレリーズ時に補正状態のままシャッターが切れるのか、一旦センタリングしてから切れるのか、どちらの挙動ですか?

村山:弊社の手ブレ補正方式では、露光後にセンタリングしますので、露光中はファインダーで見えているイメージのまま撮影できます。

――連続撮影時は、撮影コマごとにセンタリングするかどうか選べますか?

村山:OM-D E-M1 MarkIIでは、カスタムメニューのC2に「連写中手ぶれ補正」の項目が新設され、連写速度優先にするとセンタリングせずに連続撮影し、IS優先にすると撮影コマごとにセンタリングしながら撮影できます。

編注:挙動を選べるメリット

手ブレ補正機構を持つレンズは、カメラブレに反するように補正レンズが上下左右に動いてブレを相殺する。最大補正効果の大きさはその補正レンズの可動域によるため、1コマ露光ごとに補正レンズを中央に戻す(センタリング)と、その補正幅を常に大きく取れることになる。いっぽう、1コマごとにセンタリングすると連写時にファインダー像がガクガクと動いて被写体を追いづらいという声もあり、近年では補正効果とファインダー像の見やすさをバランスさせたモードも用意し、好みで選べるようにした製品が増えている。

――三脚装着時のベストな設定を教えてください。

村山:三脚に載せられたかどうかをカメラが自動で判断しますので、基本的には手ブレ補正ONのまま撮影しても大丈夫です。ただし、三脚の設置場所や三脚の種類によっても条件が変わってきますので、念のため手ブレ補正機能をOFFにしたほうがよいかと思います。「低振動撮影」および「静音撮影」を併用するとさらに効果的です。

■手ブレ補正効果、ボディ5.5段+レンズ5段=6.5段?

――対応カメラとの組み合わせで手ブレ補正6.5段分を達成していますが、レンズ側とボディ側それぞれ単独での補正値は?

村山:レンズISは12-100mm単独でシャッタースピード5段分、ボディ内ISの場合はE-M1 Mark II単独で5.5段の補正効果があります。

――「5.0+5.5=6.5」になるのはどうしてでしょうか?

村山:手ブレ補正の効果を1段上げるには、性能が2倍必要になりますので、単純な足し算にはなりません。E-M1 Mark IIの5.5段、12-100mmの5.0段の数値はそれぞれ単独での手ブレ補正機構の可動範囲の制約があってそういう数字になっているのですが、5軸シンクロISはこれらの可動範囲を増やせるということなのです。

つまり、レンズまたはボディ側単独でも手ブレ補正機構の可動範囲を大きくすれば補正段数を上げられるのですが、すると手ブレ補正機構全体のサイズが大きくなってしまいます。これに対して5軸シンクロISの場合は、双方の可動範囲を加算できますので、手ブレ補正機構のサイズを大きくすることなく補正段数を増やせるということです。

――なるほど、手ブレ補正機能が2重に働くというよりは、"補正時の可動範囲が広がるから補正段数が向上する"ということなのですね。今回の6.5段分は望遠端での測定値ですが、広角端でも同様の効果はありますか?

村山:広角端での補正段数は公表はしていませんが、十分に補正効果はあります。広角側では静止画はもちろんですが、動画撮影でも効果が大きく、従来よりも手ブレが少ない動画撮影が可能になっています。

――例えば望遠はレンズ側、広角はボディ側の手ブレ補正が効果的ということはありますか?

村山:一般的に望遠はレンズ側で補正したほうが効果的と言われていますが、弊社の場合は5軸シンクロISで両方の手ブレ補正を使いますので、焦点距離や撮影条件、撮影シーンに合わせて、それぞれにどう分担させるかをその都度判断しながら補正しています。

――その撮影シーンはどうやって認識するのですか?

村山:主に焦点距離やブレ量によって状況を判断します。

――5軸シンクロIS時の役割分担は?

村山:ヨー軸とピッチ軸はレンズ側とボディ側が協調して補正し、シフト方向とロール軸はボディ側単独で補正します。

――すると例えばヨー軸をレンズ側で補正し、足りなくなるとボディ側が出てくるという感じですか?

村山:いいえ。常に協調して動いています。

――協調して動くと、補正のレスポンス面で有利ということはありますか?

村山:思想的には"同時に動かして速く"という方向よりは、"補正量を分担する"という考え方で動かしています。

――5軸シンクロ時の、レンズ側とボディ側の補正量の分担のバランスはどうなっているのですか?

村山:詳細はお答えできませんが、焦点距離に応じて分担の割合を変えています。

――CIPA基準では2軸の手ブレのみ評価すると思いますが、2軸のみの補正に比べ5軸補正で数値が良くなることはありますか?

村山:2軸以外のブレ成分がなければ感知しませんので、補正も行いません。従って、CIPA基準で6.5段とは、2軸での補正能力のみが結果として表れていることになります。

――実際には2軸以外のブレ成分もあると思いますので、公表されている値以上に補正効果がありそうですね。それはさておき、100mm(35mm判換算200mm相当)で6.5段というと、1/200秒基準で、約1/2秒ということになります。かなりインパクトのある数字ですね。

村山:発売後実際にご使用になったお客様の声をお聞きしますと、かなりご好評を頂いています。実際の撮影現場でどれだけ絵が止まるかという意味では、1/200秒基準で1/2秒という基準はあるのですが、もっと効果があったというお声も頂いています。

編注:200mmで1/200秒が基準?

手ブレを防ぐシャッター速度の判断基準として、「焦点距離分の1秒」という目安が知られている。カメラによっては、ISO感度オートの最長シャッター速度設定に「1/f」や「1/[2f]」(f=焦点距離)といった項目があり、装着レンズの焦点距離情報を踏まえて最低シャッター速度を自動設定してくれるものもある。

――やはり6.5段という数字を見ると、レンズISだけでやっているメーカーさんも注目せざるを得ないだろうし、未知の領域に踏み込んだ印象がありますね。

小野:ボディISとの併用でも、6.5段分もの補正を実現した点については弊社が先駆けだという自負がありますし、今後も他社さんには負けないように頑張っていきたいと思います。

鯛中:プロ写真家の方から、夜景を手持ちで撮影できるようになり、動いている人をスローシャッターで誰だかわからなくできるなど、新しい表現ができるようになったとのお声も頂いています。

――手ブレ補正を実際にテストしてみると、慎重に撮影するとCIPA基準の数値を上回る効果が得られますが、ある程度のところでそれ以上のブレは収まらなくなる。反面、長秒露光を行ってもある程度以上ブレ幅が広がらない場合も多いので、手ブレ補正の補正幅がもう少し大きくなって、撮影者が頑張れば何秒間でも手ブレしない無限補正の時代が来てもおかしくないような気がします。6.5段までいけば無限補正も視野に入ってくると思いますが、実際の感触は?

村山:手ブレ補正機構の可動範囲も重要なのですが、同時にブレの検出精度も影響してきますので、無限に補正するにはまだまだ技術的な課題があると考えています。

小野:既に検出精度的には非常に厳しいレベルを求められ、地球の自転の影響が見られるほどになってきていますが、無限補正に近づけるようチャレンジしていきます。

――地球の自転が影響するほど微細なブレまで検出しないといけないんですね。

村山:地球の自転による影響も込みで検出精度を上げてゆくには、今後ブレイクスルーが必要になるということなのです。

――それはすごいですね。次にレンズ鏡筒の防塵防滴についてですが、導入での苦労点はありますか?

村山:防塵防滴機能を弊社では、コンパクトカメラから、交換レンズ、カメラボディに至るまで展開し、相当の技術的蓄積があり、強みにもしています。そうしたなかでは、動く部分に対して摺動負荷を低くすることで耐久性を持たせることや、確実に防滴性を持たせるといったところが重要で、苦労点というより工夫点になります。

――防塵防滴は、保護フィルター装着前提ですか?なしでも大丈夫ですか?

村山:フィルターなしの状態で防塵防滴性能を確保しています。

――防汚・防滴コートの採用は?

村山 従来から検討はしてきていますが、まだお客様に満足して頂ける性能を達成できていないと判断していますので、引き続き検討課題とさせて頂きます。

編注:防汚・防滴コートとは?

撮影中やレンズ交換時にむき出しとなるレンズ最前面・最後面に施し、水滴や汚れの付着を抑えたり、付着しても拭き取りやすくするコーティング。一部の高級レンズから採用製品が増えてきている。

――生産はどこで行っていますか?

小野:このレンズは中国の工場で生産しています。もちろん品質的には国内で生産するのと変わりません。

――そのほか今回のレンズで、メカ設計上の工夫点がありましたらお願いします。

村山:当初はレンズの口径が比較的大きいことから、小型軽量を目指すと手ブレ補正機構の採用は難しいと考えていました。しかし、このレンズの商品性を考える上で手ブレ補正機構はどうしても必要だということで、レンズ構成を一から見直し、ISユニット搭載の可能性を探りつつ検討しました。その結果、ズーム群の中にISユニットを組み込むというアイデアによって、レンズISと小型化の両立が可能になり、最終的なねらいのサイズに収められました。

――ズーム群にISユニットを組み込んだというところを、もう少し詳しくお願いします。

村山:ズーム群自体が動きますから、その部分でISユニットを動かすとなるとズーミングの振動を拾うなど、動作が不安定になりがちです。しかし、そうしたところも設計上の工夫によって影響が出ないようにしています。

またこのレンズの場合は、高倍率ズームでありながら画質が良く、かつ小型軽量というところを目指し、一般的な高倍率ズームレンズの"画質があまり良くなくサイズも大きい"というイメージを覆そうというねらいもありました。そこで、高画質を常に維持するために、金属製のカム枠を採用しました。これにより、ズーム時のレンズ枠のガタを取り去り、ズーム中も常にレンズ枠の位置と姿勢を安定させる機構を入れられます。これが、最終的な画質劣化を防ぐために非常に効いてきます。

――可動部分にISユニットを置くというのは、素人目にも難しそうですね。

村山:ズーミングによってISユニットを含むズーム群が移動しながら、ISユニットは光軸上からズレないような工夫をし、さらに鏡筒があおられることがないようにガタを取り去る。それ以外のズーム群も同様にガタを取り去ることで、ズーム全域で安定したズーミングが可能になり、高画質の維持につながります。

――高倍率ズームの場合、広角端の画質が良くても望遠端がいまいちの場合が多いですが。

小野:まさにそうしたときに、いま申し上げました鏡筒のガタが画質に影響してきます。なので今回は特にそのあたりを意識して、常に設計通りの性能が出せるように金属のカム枠を採用しているのです。

――最後に各担当者様で、説明で補足したい部分、苦労したエピソード、この製品のアピールポイントがありましたらおひとりずつおうかがいします。

鯛中:弊社のPROレンズもおかげさまでひと通り出揃い、今回は新たな1本としていわゆる"小三元"に値するレンズということで、気概を持ってデザインさせて頂きました。

ご存知のようにプロおよびハイアマチュアのお客様は使い勝手や耐久性に非常に高いレベルをお求めになると同時に、レンズそのものの質感や美しさにも強いこだわりを持たれています。PROレンズはそうしたお客様のご要望にしっかりとお応えすべく、各パーツの美しさはもちろん、使い勝手や構えたときにの自然な操作感にまでこだわってデザインしています。ぜひそうしたところも、見て感じて頂けたらと思います。

小野:他社には前例がないレンズであり、"小三元の2本分を1本にまとめる"というコンセプトですので、当初の企画段階では社内理解を得るのが難しく、その価値やメリットについて時間をかけて説明しました。結果として、写真家の方のみならず、取材記者やライターの方々にも使いやすいというお声を頂き、まさにねらい通りの製品ができたと自負しています。他社にない製品だからこそ産みの苦しみがあったということで、ぜひ今までにない小型軽量かつ高画質な「プロフェッショナル高倍率」をお試し頂けたらと思います。

村山:小野も申し上げたとおり、"他社にないものが受け入れてもらえるか"というところに関しては開発側でもとことん議論しました。今回のレンズは高倍率ながら高画質という部分で光学設計チームにかなり頑張ってもらいましたが、メカ設計としてもそれを可能な限り活かしきるということで、先に申し上げたさまざまな機構上の工夫もしました。また、E-M1 Mark IIと組み合わせた5軸シンクロ手ブレ補正など、手ブレ補正の機構上のチャレンジも数多く盛り込んでいます。おかげさまで発売後多くのお客様から高い評価を頂き、このレンズで訴えたかった商品価値をお客様と共有できたという意味で、商品化してよかったと思っています。

村上:高倍率ズームは便利だけれど画質はもう一つ、という従来の常識を打ち破ることを目指して今回のレンズは開発が始まりましたが、おかげさまで実際にその目的が達成できたかなと思っています。今までは荷物を減らすためやむなく高倍率ズーム、という消去法の選択をされていた方も多いと思いますが、このレンズの場合は積極的にこのレンズを使いたいと言って頂ける性能に仕上がったと自負していますので、ぜひともその実力を試して頂きたいですね。

まとめ:インタビューを終えて(杉本利彦)

マイクロフォーサーズ最大のメリットは、センサーが小型であるゆえシステム全体が小型化できるところにある。そういう意味では、大型化しがちな望遠レンズや高倍率ズームレンズでこそメリットが発揮されるわけで、仮に35mmフルサイズなら巨大なレンズになるであろうこのレンズに人気が集まるのは当然といえる。しかし、開けてみればここまで人気のレンズも"企画段階で社内での説明に苦労した"とは、レンズ企画も一筋縄ではいかないものだ。

また、このレンズの技術的な最大のポイントはボディ側・レンズ側双方の手ブレ補正機構を組み合わせ、最大6.5段分の手ブレ補正効果を実現しているところだと思うが、ボディまたはレンズ単独でこれほどの補正効果を謳うメーカーはまだなく、どちらか片方の手ブレ補正しか採用していないメーカーも、そろそろ重い腰を上げざるを得なくなるかもしれない。

加えて手ブレの検出精度は、既に地球の自転の影響まで見えてくるレベルに達しているという話も興味深かった。そのうち手ブレの成分に"地球ブレ"とか"自転ブレ"という言葉が出てくるのだろうか。いつもながら、聞いてみなければわからないことは多いと改めて感じさせられるインタビューであった。

デジカメ Watch,杉本利彦

最終更新:4/17(月) 7:18

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