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自動車業界のメガトレンド――“MADE”を前提とした不確実性マネジメント

ITmedia ビジネスオンライン 4/17(月) 12:29配信

 自動車産業では今後、Mobility(新たな移動手段)、Autonomous(自動運転)、Digitalized(デジタル化)、Electrified(電動化)、すなわち“MADE”というメガトレンドにより、生活者の車の持ち方 ・使い方、ひいては車両自体や事業者の業界構造にも大きな変化が訪れる。しかし影響因子も多くタイミングや確度が見えにくい中、重要となるのは、自社の意志である事業ロードマップを生み出し、使いこなし、進化させ、根付かせることで、不確実性を乗りこなす仕組みである。

●はじめに

 最近、「破壊的な」という意味の 「ディスラプティブ(Disruptive)」という言葉を耳にする機会が増えてきた。 自動車産業において、産業構造を抜本的に変えるような変化が訪れる……それは車両そのものだけでなく、移動に係る新たなサービスも出現し、結果として生活者の移動のあり方や車両の持ち方、関わり方も変わる……そのような意味合いで 「ディスラプティブ」が使われる。では、具体的にはどのような変化が起こるのだろうか。

●自動車産業のメガトレンド……MADE

 今後のキーワードとなるのは、“MADE”という4つのメガトレンドである。 これは「Mobility (新たな移動手段)」、「Autonomous (自動運転)」、「Digitalized (デジタル化)」、「Electrified (電動化)」の頭文字を取ったものである。(図A)

 4つは互いに独立のものではなく、組み合わさることで大きなひとつの高効率なエコシステム(生態系)を形成する。それは、どんな交通状況でも対応しうるゼロ事故、クリーンエネルギーを活用したゼロエミッション、移動時間の短縮を実現するゼロ渋滞、1台の車両を徹底活用したゼロ非稼働という、4つのゼロを目指すものである。その実現へのアプローチとして、“MADE”という 4つのメガトレンドが鍵となる。

Mobility(新たな移動手段)

 Mobilityとは、自己保有・自己利用を前提とした従来の持ち方・使い方とは異なる形で、移動需要を満たす手段であり、UBERに代表されるシェアードサービスなどが該当する。新たな移動手段への投資家の関心は高い。

 そもそも自己保有の車両を利用する以外のモビリティ、即ち既存のカーシェア、ライドシェア、配車サービス、そしてロボットタクシーのような「モビリティサービス(MaaS : Mobility as a Service)」を合わせた総移動距離は2025年に 1.4兆人キロに達すると推察される。

 これは、世界中の総移動距離の6パーセントに該当する。これだけの市場ポテンシャルが背景にあり、UBERやLyftという大手に加えて、VWが出資したGett、ニューヨークでサービスを開始して3000万ドルの資金を集めたJUNO、シカゴやワシントンDCで乗り合いサービスを提供して7000万ドルの資金を集めたVIAなど、多くのシェアードサービス事業者が登場し、資金集めに成功している。

 一方で、新規参入者の攻勢により、既存のタクシー産業は打撃を受けている。 サンフランシスコでは従来、220億円以上あったタクシーの市場規模が、UBERの出現以降は数年で150億円にまで、つまり3割以上縮小し、倒産する事業者も出ている。新規産業の勃興の裏には、このような既存産業への影響も出てくる。

Autonomous(自動運転)

 Mobilityにも大きく関わってくるのが自動運転である。各OEM(完成車メーカー)は現在いわゆるレベル2(加速・操舵・制動のうち複数の操作を同時にシステムが行う状態)を投入済/計画中で、今後更にレベル 3(システムが要請した時は ドライバーが対応する前提で、加速・操舵・制動全てをシステムが行う状態)、レベル4(加速・操舵・制動全てをドライバー以外が行い、ドライバーが全く関与しない状態)の実用化も狙っている。

 但し、レベル3は自己保有の自家用車も対象として含まれ、走行場所を制約するのが現実的には難しいため、インフラの整備状況などが異なるあらゆる場所で対応できる技術が求められることから、ハードルはかなり高い。それよりもロボットタクシーなどモビリティサービス事業者向けを前提としたレベル 4を先行して実用化を目指すというFordのような戦略も出てきている。

 既に一般道路でのロボットタクシーの試験も世界中で始まる中、多く用いられているのがEASY MILEの乗り合い自動運転車両で、巡航で時速20キロメートル、最大でも時速40キロメートルという運用形態である。

 まずは慎重なところから始めて技術やオペレーションを詰めていくのはもちろんのこと、生活者に対して自動運転の有効性を認知してもらい、未知が故の過剰な懸念を払拭するという狙いもある。

Digitalized (デジタル化)

 自動運転と並ぶMobilityの要件がデジタル化である。今後は各車両の状態や履歴を的確に把握できるようになり、車両の利用者や保有者(事業者を含めて)に個別最適されたクラウドベースのサービスが広がる。

 既に保険では実際の走行履歴や運転のクセに応じた保険料の柔軟な設定が行なわれているが、他にも部品メーカーが遠隔診断に基づいて自社の独自整備ネットワークに入庫を促進するサービスで追加の事業機会を狙う動きもある。

 また、営業車や商用車には元々フリートマネジメントの一環で様々なテレマティクスサービスが提供されているが、シェアードサービスになると生活者が利用する車両でも同様の事業環境が整うことになり、新たな収益機会が生まれることになる。

 サービス開発の基盤として人工知能の活用も進む。 但し、人工知能への投資は大きく技術者の争奪戦も激しいため、全てを自社で賄う企業は限られる。そのため、多くの企業は提携をうまく活用すること、つまり自社でやることと外部から取り込むことを明確に定義して、その棲み分けで合致するパートナーと先んじて組むことが重要となる。

Electrified (電動化)

 Mobilityで多様な移動ニーズを満たすためには、前提として車両のコンポーネントが小型・軽量で静かなことも大切となるため、パワートレインの電動化

は今後確実に加速していく。その中では、環境規制順守への圧力、政府や自治体の後押し、充電設備の進化と普及、電池技術の進化、OEMの戦略シフトといった各要素が噛み合うことが条件となる。

 環境規制順守への圧力では、中国でも二酸化炭素排出量が 2025年に 95グラム/キロメートルという議論もあり、環境規制対応は先進国固有の課題ではなくなってきている。

 またOEMも急速にEVへと戦略をシフトしているが、VWのディーゼル問題もひとつのきっかけではあったものの、そもそもディーゼルは規制対応に必要な後処理装置によりコストアップになること、そして上述した環境規制強化への対応のため電動依存を高める必要があったことも背景にある。

 特にドイツ勢は一丸となってグローバルでのトレンドを作り、イニシアチ

ブを握る動きに長けており、それは電動化においても、VW/AudiだけでなくBMWや Daimlerも矢継ぎ早に戦略シフトを行なってきたところからも見て取れる。

●不確実性を乗りこなす

 ここまで“MADE”というコンセプトに基づき、自動車産業のメガトレンドを紹介してきた。これからの5年で起こる変化が 「ディスラプティブ」であることをご理解頂けたのではないだろうか。単なる技術革新のみならず、それが人々の車の使い方や持ち方も変えることになり、ひいては自動車産業のプレイヤー構造にも大きな影響を及ぼす。

 しかし、このような変化は多くの変数が複雑に絡み合っているため、顕在化タイミングを的確に予測することは困難である。一方で、ひとたび顕在化すれば事業に与えるインパクトも大きいため、事前に備えを持っておくことも必要となる。 不確実だから予測できないので変化が起きたら受動的に対処するのではなく、不確実だからこそ粗くても想定を置いて変化の予兆が見えたら能動的に仕掛ける、という考え方である。

 このような状況の中で有効となるのが、事業ロードマップである。これは、自社の事業の根幹にあるコンセプトに基づいて10~20年先までの間に、いつ、どんな事業を、どのような顧客に、どのような価格で提供していくのか、自社の意志として纏めたものである。

 規模を問わずドイツ企業の多くは、事業ロードマップを活用して長期の事業方針の PDCAサイクルを回している。 事業ロードマップを基軸にした不確実性マネジメントには、事業ロードマップを(1)生み出す、(2)使いこなす、(3)進化させる、(4)根付かせる、という4つ要素を一連の流れとして機能させることが鍵となる。(図C)

(1)生み出す

 そもそも事業ロードマップの前提は、「現時点で最も確からしいと思える仮説に基づく自社の意志」である。最も確からしいことを担保するためには、将来を多面的に見立てることが必要となる。そのためには、B2Bビジネスを行っている企業も含めて、生活者の暮らしぶりや価値観における変化を自ら描いて、そこに自社なり自社のクライアント企業なりがどのような貢献ができるのかを起点に考えることも有効である。

 B2B企業には 「生活者に最終製品を届ける自社のクライアント企業(B2C企業)の方が生活者に近いので、自社が直接生活者の変化を予測する必要はない」 という声もある。

 しかし、それではクライアント企業と同じ目線での議論にならない。同じ対象について違う立場からの見立てを突き合わせることで、その違いから議論が広がり、双方の理解が深まり、見立ての精度が高まっていく。

 生活者だけでなく競合についても、変化を想定することが不可欠である。 今の競合が個別の製品やサービスではなく戦略として、どのような方向に舵を切っていくのか、何を生業としていくのか、どのような事業ポートフォリオに変わっていくのかを読み解き、その中で自社の勝ち筋を描けているのかを客観的に検証することが重要である。

 競合の戦略を読み解くのは難しいように思われるかもしれないが、例えば上場企業であれば決算説明会資料や経営者のセミナー登壇資料、過去10年間のセグメント構成比の変化やM&A実績という入手可能な情報を基に、ある程度はストーリーとして組み上げることができる。

 また、事業ロードマップでは企業としての継続性の観点から、現状の事業ポートフォリオとの連続性も担保しなくてはならない。 新たな事業を組み込んでいく際、既存事業を売却して一気にポートフォリオの転換を図るのか、または漸減させながら新たな事業を徐々に増やしていくのか、いずれにせよ既存事業の扱い方も明確にしていくことは、手触り感を担保する上で欠かせない。事業ロードマップはこのような多面的な視点から客観的に検証することが重要である。

 一方で、事業ロードマップは意志であるため、客観性だけでなく、主観性も必要となる。 「これが自分たちの実現したい姿なのか?」、何度も自問しながら練っていくことで、策定後の各業務における活用度を高めることができる。自社の強みを洗い出し、それを活用してどんな戦い方ができるかという考え方で事業ロードマップを策定するケースをよく見かける。しかし、今の自社の強みが今後も活かしていくべき強みとは限らない。

 取り巻く環境の変化から、今後は大した武器にならない可能性も多分にある。逆に、今は足りない能力があっても、M&Aやオープンイノベーションなど外部を活用することで、迅速に手当てをすることも可能である。 故に、今の強みにこだわり過ぎず、また弱みを前提とせず、個々人の夢という青臭い議論も大切にしながら、事業ロードマップの策定プロセスを通じて想いを込めていくことが実は大切である。

(2)使いこなす

 創り上げた事業ロードマップは、あらゆる業務における判断の拠り所として機能してはじめて、真価を発揮する。例えば、開発部門における技術テーマの優先順位づけ、その優先順位に沿った人事部門における採用計画や育成方針の濃淡づけ、経営企画部門における必要な能力獲得のための M&Aの対象候補抽出、財務部門における優先技術テーマへの重点投資、営業部門における優先技術テーマに対するOEMの受容性評価、調達部門における優先技術テーマに係る新たな調達先の発掘など、あらゆる部門が事業ロードマップの実現に向けて一貫した取り組みになっていることで、競争力を具現化することができる。

 経営企画や開発部門が作ったものだからということで、他部門がその活用に対して意識が低い状況に陥らぬよう、生み出す過程から多様な部門の社員を巻

き込んで、「これは自分たちの意志である」 と意識づけしていくことが重要となる。

(3)進化させる

 事業ロードマップは現時点で最も確からしいと思える仮説と先述したが、当然のことながら時間の経過と共にその確からしさは低下する。 そのため、定期的にレビューして、更新していくことが求められる。事業ロードマップを生み出すことはあくまで出発点であり、その後もアンテナを張って取り巻く環境の変化をキャッチし、少なくとも半年毎にはアップデートしていく。

 変化は自社だけで捉えようとしても限界がある。顧客や場合によっては競合ともお互いに開示しながら自社のズレを把握し、それを競争領域として残すのか、それとも非競争領域として競合に足並みを揃えるのか、判断する。競合に事業ロードマップを開示するなど言語道断という声も聞こえてきそうだが、実際ドイツのOEMやサプライヤーでは行われており、日本のサプライヤーにも同様の動きが見られる。

 大きな投資をして開発した事業が、先行するのではなく孤立してしまい、市場として立ち上がらない、つまり回収機会を逸するという状況は避けたいという思いが強いためである。お互いに開示すれば、自社だけ大ハズレになるような事業開発に深入りする前に中止することができ、その分のリソースを別の有望事業開発にシフトさせることができる。そこに大きなメリットを見出しているのである。

 このような活動を着実に行っていくためには、体制の整備も必要である。 事業ロードマップのアップデートに係る情報を収集すると共に、各部門の活動が事業ロードマップの着実な推進に整合しているかを検証し、遅れや不整合がある場合にはテコ入れしていく専任の部隊、いわゆるPMO(Project Management Office)が望ましい。

 留意すべきはこの PMOと各部門との距離感である。各部門の中に置いてしまうと事業ロードマップ推進に対する全社での足並みの揃い方が見えにくくなってしまう一方で、独立性が高すぎると各部門における進捗の理由も十分に理解できないまま、ただプレッシャーを掛けるだけの存在となり各部門と信頼関係を築くのが難しくなる。

 欧州OEMやサプライヤーのケースでは、各部門でしっかり実務経験を積んだマネジャークラスを独立したPMOに集めることで、各部門の進捗を客観的に把握・指摘する能力と、進捗の背景理解や解決策提案の能力を両立している。 このような工夫も含めて、継続して進化する仕組みを埋め込んでおくことも忘れてはならない。

(4)根付かせる

 事業ロードマップに基づく不確実性マネジメントは、一過性のものでは意味がない。手法として組織に定着し、当然のように各部門で整合した活動が行われている状況にする必要があり、そのためには様々な仕掛けが求められる。中でも重要なのは、社員一人ひとりがその有効性を実感し、自ら納得して日々の業務に反映していくための機会を意図的に生み出すことである。 そのために、「試す→共有する→対話する→理解する」 というサイクルを回していくことが鍵となる。

 「試す」とは、事業ロードマップを各部門/各社員の業務でどのように活用していくのか、具体的な事例を交えながら説明することを意味する。 もちろんコンセプトを社員一人ひとりがしっかりと理解してから取り組む方が望ましいが、理解できていなくてもまずは経験させて、後からその意味を理解してもらうというのもひとつのやり方である。

 「共有する」 とは、事業ロードマップを自分の業務にどう反映しているのかを、同じ現場の仲間に開示することを意味する。 同じ業務を行っている他の人が、事業ロードマップをどのように解釈して、どのような判断に活用しているのか、比較することで自分の業務でも更にどのような活かし方があるのかを考える材料となる。

 「対話する」とは、異なる部門を含めて多様な社員が集まり事業ロードマップに対する解釈や使い方を直接議論することを意味する。事業ロードマップの実現というひとつの御旗の下で、それぞれの部門がどのような工夫をして、どのような貢献ができるのか、気づきを得る機会として有効である。目的を共有できていれば、異なる部門の社員が集まっても、自己防衛のための押し問答ではなく、建設的にアイデアが広がる場にすることも可能である。

 対話のきっかけづくりには社内向けのSNSやマッチングツールも活用できる。このようなサイクルを回していくために、不確実性マネジメントの必要性をトップがしつこく発信し続けたり、成果を見える化したり、成果だけでなく取り組んだ事実そのものを褒めたりするなど、外部からの働き掛けも忘れてはならない。

●まとめ

 今後、車を取り巻く環境は大きく変化する。“MADE”というコンセプトで表現される変化は、生活者の車の持ち方・使い方に変化をもたらし、車両自体や事業者の業界構造にもインパクトを与えていく。一方で、変化に関わる変数も多いため、顕在化する確度やタイミングは読みずらい。このように不確実性が高まる今後、企業として備えるべきは、不確実性をマネージする術である。

 読もうとしても限界がある中、読むのではなく、あらゆる変化に能動的且つ効率的に対処するための仕掛けを組み込んでおくのである。そのような時代により大切なのは、不確実性を乗りこなした先で成し遂げたいこと、つまり「意志を込めた」自社のありたい姿である。

 ひとたび明確な御旗が掲げられれば、そこに向かって一丸となって走れる組織能力は、類稀な日系企業の強みである。その強みを最大限活かして、不確実な時代にグローバルで勝ち残るための戦い方を改めて定義していくべきである。

(貝瀬斉)

(ITmedia エグゼクティブ)

最終更新:4/17(月) 12:29

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