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イラストレーター・岡部貴聡さん死去 ロック調車いす、常に前向きに

埼玉新聞 4/17(月) 10:30配信

 口にくわえた棒でパソコンを操作しデザインする埼玉県飯能市のイラストレーター、岡部貴聡(たかあき)さん(45)が先月9日、脳梗塞のため他界した。ハードロックを愛し、黒革のライダースジャケットにモヒカン刈りがトレードマークだった。電動車いすで街を移動する姿は、市民らに鮮明な印象を残した。

 18歳の秋、岡部さんはモトクロスの練習中、バイクで転倒し、首の骨を折った。頸椎(けいつい)損傷で肩から下の感覚を失った。手を動かすこと、歩くこともできない。発汗機能をなくし、体温調整を誤ると昼夜を問わず、体調を崩した。

 入院中、口にペンをくわえて描く、表現の楽しさを覚えた。退院後、パソコンを使い、イラストレーターとして活動を始めた。飯能市街地の空き店舗を活用し、創業を目指す人が集い、出店するチャレンジショップでイラストを10年近く創作、販売してきた。モトクロス競技や季節の風景を切り取った、彩色豊かなデザインにファンができた。

 「おばさんたちの話をじっと聞いていて、時々、ぷっと笑っていた」。チャレンジショップに和裁店を出す外崎敬子さん(64)は亡き仲間をしのぶ。岡部さんは郊外の自宅から路線バスで通っていた。一人ではパソコンの電源が入れられない。パソコンを動かすための棒もくわえられない。仕切りのない同じフロアで働く、年配の女性ばかりのテナント仲間が支えた。

 チャレンジショップを運営するNPО「フラップ飯能」の松浦康彦さん(50)は、バス停近くのバーで語り合った時間を懐かしむ。ジョッキにストローを入れ、大好きな生ビールを勢いよく、吸って飲んでいた姿がいとおしい。

 ドクロのネックレス、耳がちぎれんばかりに重たそうなピアス、電動車いすにもロック調の装飾を施していた。「革ジャンもモヒカンも障害者として見られたくない、気持ちを上げるための彼なりの衣装だったのではないか」と松浦さん。バーを経営する安藤テル美さん(52)は「貴聡君はいつも前向きだった。地域の子どもにも好かれていた」と振り返る。

 一人で上京しては、ロックコンサートやモトクロス大会を観戦した。地元の小学校に招かれ、命の大切さについて講演もした。「障害があるからと、家に閉じこもる子にはしたくなかった」と母郁子さん(73)。積極的に生きた長男に「親として誇りに思う」と言える。

 通夜には200人近くが参列した。大阪など遠方からの知人、海外のモトクロスレーサーも弔問に訪れた。

 残された仲間たちは今もふとした時、亡き友の面影を見る。愛用の電動車いすで街中を移動している、その友の姿に、今も命の大切さを教えてもらう。

最終更新:4/17(月) 10:30

埼玉新聞