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【夢を追う】鷹匠・石橋美里さん(1) 大事なことはタカが教えてくれた

産経新聞 4/18(火) 7:55配信

 佐賀県武雄市に、タカやワシを自在に操る女性がいる。20羽を超える猛禽(もうきん)類を飼育する石橋美里さん(22)は、害鳥排除やタカを飛ばすフライトショーなど、依頼を受けて全国を飛び回る。人生の半分以上を鳥と過ごし、最近は命をテーマに講義する教育者の顔も持つ。「大事なことはすべて、タカに教えてもらった。教わったことを、一人でも多くの人に伝えたい」と語った。

 《活動の原点は、田畑を荒らす野鳥の排除活動だった》

 カラスに田畑を荒らされて困っている地元佐賀の農家さんはもちろん、ノリの養殖棚を水鳥についばまれた有明海の漁師さん、糞害などに悩む企業や自治体など、さまざまな人から依頼を受けます。

 場所も被害の種類や原因もさまざまです。「全部これでいける」という方法はありません。

 例えば田畑なら、鳥が集まるのは収穫前です。そのタイミングで、たくさんのタカを使って、一気に追い払う。

 米や麦の倉庫なら一年中、野鳥が寄ってくるわけです。タカを使うだけでなく、鳥が嫌がる忌避剤も併用します。

 鳥を追い払うときに重要なのは、別のすみかを見つけさせることです。「ここは危ないから、別の所に移らないといけない」。そう思わせることがコツですね。

 時間帯や目的によって、タカだけでなく鳥を使い分けます。飛ぶスピードが速いのはオオタカ、急降下できるのはハヤブサ、夜目が利くのはミミズク…。個性に応じて、飛ばすんです。

 《害鳥排除では、いたずらに命を奪わないというこだわりを持つ》

 依頼者の悩みは深刻です。さまざまな対策をしてもどうにもならず、打つ手がないという状態で、私を選んでもらうことも多い。そう評価されていることは、本当にありがたい。

 ただ、私は基本的に、駆除ではなく排除を目的にしています。人間に害を与える鳥を殺すのは最小限にし、その場所から追い出して、近づかないようにする。理想は人と野鳥が共生できることです。

 「ここに近づいたら危ない」と思わせて、寄ってこなくなれば良いんです。

 とはいえ、ただ威嚇するだけでは、効果がなくなるのが早い。

 いろいろな工夫をします。例えば、タカが降り立つ場所に、カラスなどターゲットの鳥の羽毛を、まくことがあります。

 鳥は賢い動物です。よく観察しています。羽毛を見せて「仲間を殺して食べてしまったぞ」と思わせれば、怖がって近づいてきません。賢さを逆手に取るのです。

 ターゲットは野鳥だけではありません。飼い犬と一緒に、サルを追いかけ回したこともありますよ。

 《初めてタカを飼ってから14年がたつ。人生に欠かせないパートナーだ》

 タカは普段、自宅の庭に作った禽舎(きんしゃ)で生活しています。仕事がない日は、一日の大半がタカの体調チェックや訓練で過ぎていきます。

 猛禽類といっても、獰猛(どうもう)な性格をしているわけではありませんよ。

 人間と同じように個性があるんです。鳥によって、甘えん坊だったり、おっちょこちょいだったり…。かわいい子が多いです。

 子供のとき、初めて見たタカは力強く、抜群に格好良い存在でした。

 ところが、実際にヒナから飼ってみると、安全な飛び方や狩りの方法など、いろんなことを教えなければ、何もできない存在だと分かりました。知らないんです。ヒナから手間をかけて育て、調教したタカは、かわいい弟や妹のようなものですね。

 仕事としてコンスタントに鳥を飛ばすことは、簡単ではありません。鳥の体調や空腹の度合いによって、コンディションが大きく変わります。エサを与えすぎると、呼んでも戻らない。場合によっては、道に降りて、事故に巻き込まれてしまうこともあります。

 害鳥排除も相性があり、ショーに向く鳥もいれば、向かない鳥もいる。

 タカを休ませながら使うためにも、羽数をもっと増やしたいですね。

 種類によって飼い方や調教方法は千差万別です。だからこそ、面白いですね。もっとタカのことを知りたい、といろいろと工夫する毎日です。

 《周囲から「鷹匠(たかじょう)」と呼ばれることに、違和感を抱く》

 鷹匠とは、訓練した猛禽類を使って、狩猟をする人を指すと思います。

 子供のころから、周りの大人の人によく「鷹匠」と言われてきましたが、私は別にタカと狩りをしているわけじゃない。

 それに飼育や調教方法も自己流です。鷹匠の伝統を受け継いだわけではありません。

 私の仕事は、害鳥の排除とフライトショー、それに教育です。特に、教育には力を入れたいと思っている。

 タカたちとの活動で分かった自然のことや、動物のこと。どういう気持ちで私が生き物と向き合い、過ごしているかなどを、子供に知ってほしい。

 だから私は、自分のことを「鷹匠」ではなく、「鷹使い」だと思っています。

 命の大切さや、はかなさ、美しさ。私が感じる大事なことは全部、タカから教えてもらいました。今はそれを、タカを使って他の人に伝えようとしています。

最終更新:4/18(火) 7:55

産経新聞