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発想法にボツ妖怪にコマさん誕生秘話まで! トップデザイナー長野氏&田中氏が明かす愛されるキャラクター作り【レベルファイブ初の学生向けカンファレンス完全リポート その7】

4/18(火) 12:02配信

ファミ通.com

 2017年2月21日から2月28日まで、東京、大阪、福岡の3都市で開催され、合計約1500名もの学生が参加した “大学・短大・専門学校生向け クリエイターを目指す者たちへのカンファレンス”。つぎつぎとヒット作品を生み出し続けるレベルファイブだが、いったいどのような人たちが、どんなふうに企画や開発をしているのかは、これまであまり表に出てこなかった。だがこのカンファレンスでは、「将来クリエイターになりたい!」と強く願う学生たちに向けて、同社のトップクリエイター陣がふだんは目にすることのできない開発の舞台裏を見せてしまうという、貴重なセッションが行われたのだ。

 取材を行った2017年2月26日に開催された東京会場では、昼と夜の2回に分けて同内容のセッションが開催されたが、それぞれ席を埋め尽くすほどの学生たちが詰めかけた。ファミ通.comでは、これら各セッションのリポート記事を数回にわたって紹介している。
本記事では、レベルファイブ代表取締役社長/CEO日野晃博氏と、同社の人気キャラクターを生み出してきたキャラクターデザイナーの長野拓造氏、田中美穂氏の3人による、魅力的で愛されるキャラクターの制作術について語られた、セッション内容についてのリポートをお届けする。

●長野氏に質問、キャラクターを描くのが速いのはなぜ?
 『妖怪ウォッチ』シリーズでおなじみのジバニャンに、『イナズマイレブン』シリーズの円堂守。そして『レイトン』シリーズのレイトン教授など、レベルファイブを代表するキャラクターたちのデザインを手がける長野拓造氏。

 さらに、レベルファイブ創立時からのメンバーでもあり、あの『妖怪ウォッチ』のコマさんを始めとする、数多の人気妖怪を生みだした田中美穂氏。

 多くの人の心をつかみ、作品を超えて愛されるキャラクターをデザインしてきたふたりのデザイナーは、いったいどのようにして人気のキャラクターを生み出しているのか。

 なんと、今回のセッションでは、日野社長自らが聴き手となり、一問一答形式でその秘密に迫ることに! 会場に詰め掛けたキャラクターデザイナーを夢見る学生たちが固唾を飲んで見守る中、まずは日野氏から、長野氏のキャラクターデザインについての質問から幕を開けた。

 長野氏は、レベルファイブの作品の中でかなりの数のキャラクターデザインを担当しており、社内でも「キャラクターを描くのが速い」と言われているそうだ。

 レベルファイブのクリエイターたちは、みんな「なぜ長野氏はデザインを上げるのが速いのか?」について疑問に思っているのだと日野氏。というわけで、今回、セッションの場を借りて、学生たちの前でこのナゾが解き明かされることに……!
 
 長野氏の回答に注目が集まる。だが、以外にも「これと決めたら、すぐに提出するから」だった!?

 長野氏は、「キャラクターデザイナーが最初にゲームの世界観を表すメインビジュアルを作ることで、チームの全員がイメージを共有してプロジェクトを動かしやすくなるから、とにかくイメージ画を速く上げたほうがいい」と考えるようになったのだという。こうした考えから、次第に、「自分のイラストを描く作業で詰まってしまって、プロジェクトの時間を取ったりするわけにはいかない」という気持ちになったのだという。

 そういった意味もあり、長野氏は、インスピレーションが浮かんだら、まずは迷いなく描いてみて、提出するそうだ。

 この意外な答えに対して、思わず日野氏が「デザイナーはボツをくらうかもしれない、と迷う仕事だけれど、長野にとっては、その“迷い”がよくないということなんだろうな」とひと言。

 「とにかく頭に思い浮かんだものを、即、描いて提出する。イメージと違うと言われてしまうかもしれないけれど、勇気を持ってガンガンぶつけていき、“人の目に触れる”ようにしている」と長野氏。これは誰でもできるようでいて、なかなかできないことなのだそうだ。

●長野氏に質問 どうやって作品ごとに頭を切り替えているの?
 日野氏から、長野氏へ次の質問が。この質問もレベルファイブのディレクター陣が疑問に思っていることなのだという。

 それは、長野氏は多くのキャラクターデザインを手がけていながら、キャラクターがきちんと描き分けされていることについて。

 このように多くのキャラクターを描き分ける方法とは、いったいどのようなものなのだろうか?

 これまた気になる長野氏の回答だが、「タイトルの“ターゲット”を意識して、情報量を調整している」のだという。

 まず、どんな世代に向けた作品かを意識して主人公を描く。その後に、周りを囲むキャラクターたちを描いていき、」格好いいキャラクターや、格好よくないキャラクターなどをデコボコに配置することで、作品の世界観を作っていくのだそうだ。

  そうした中で重要になるのは、やはり“ターゲット”を意識して作品を作れるかどうかだという。

 長野氏は、入社して間もなく『レイトン』シリーズ第1作目となる『レイトン教授と不思議な町』のメインキャラクターデザイナーを担当したが、最初にこうした個性あふれる作品を担当させてもらえたおかげで、デコボコしたキャラクターを描いて世界観を作り上げていく方法に馴染みやすくなったのかも、と語った。

 「長野がデザインのうえで重要視している“ターゲット”とは、対象年齢や、どんな人に対して作っている作品なのか? と言うことで、それを意識することで、線の量や等身など、そういうデザインに必要とされる要素が自然と見えてくるのだと思います」と、日野氏は分析する。

 こういった“必要とされる要素”の見え方について長野氏は、自身の経験で補っているのだと説明する。
 たとえば、子どもが多く楽しむ作品でキャラクターをデザインする場合は、自分が小学校3年生の時に、どんなことをして遊んでいたか、どんなものが好きだったのかという、“当時の自分の記憶”を頼りにして、作品に生かしているのだという。

●長野氏に質問 キャラクターの個性の出し方は?
 キャラクターデザインを速く仕上げるよう努めている長野氏だが、それぞれのキャラクターの個性は、どのようにして表現しているのだろう? アイデアに詰まったりはしないのだろうか。

 長野氏は、「キャラクターの見た目と性格を関連付けて、シルエットではっきりわかるようにしている」のだという。極端な話、丸とか四角という図形を元に、キャラクター化していくのだそうだ。

 長野氏は、『レイトン教授と不思議な町』から、こうしたキャラクターの作り方をしていて、今でも図形をモチーフにしてキャラクターを起こすことがあると語った。更には、先にキャラクターのシルエットだけを描き、個性を出してから中身を描くことさえもあるそうだ。

●田中氏に質問 ネタ切れのときはどうしているの?
 日野氏から、今度は田中氏に質問。創立時からレベルファイブに所属している田中氏は、現在『妖怪ウォッチ』に登場する、600体を超える妖怪を多く生み出しているだけでなく、大人気のコマさんを始めとする多くの人気妖怪を生みだした人物だ。

 だが、これだけたくさんの妖怪を生み出す過程で、“ネタ切れ”をしてしまった場合、いったいどうやってデザインのためのアイデアを生み出しているのだろうか?

 その疑問に対して田中氏は、「さっきの長野の答えと正反対で申し訳ないのですけど……超悩みます!」と回答。

 たしかに、「悩まない」と答えた長野氏とは対照的な答えだが、この回答を聞いた日野氏は、「悩んだとしても、結局はそこから抜け出して“結果”を出しているので、そこには何らかの原因があるんじゃないですか?」と、さらに追究。

 さらに突っ込んだ質問に対して、田中氏は改めて考えながらも「描くべきデザインとは関係のないものを見ることで、ヒントが得られる」という、独自のデザイン術を明かした。

 『妖怪ウォッチ』シリーズには、身近な体験から生まれる個性的な妖怪が多数登場しているが、それらのほぼすべてに姿を与えてきたのが、この田中氏なのだ。

 そんな田中氏が、妖怪のデザインをしているからといって、妖怪の絵を参考にするだけではなく、関係ないものからパーツを抜き取り、デザインに生かしていたとは驚きだ。

 田中氏が参考にする“関係ないもの”とは、江戸時代の道具や、世界の民族衣装、動物図鑑、虫や鳥の図鑑など多岐にわたる。
 
 こうしたデザインを見て、それぞれを構成するパーツの形状や、“シルエット”からもヒントをもらってくるそうだ。

 このシルエットからデザインするという点は、長野氏のやりかたと共通するところかもしれない。とにかく、妖怪を作るからといって“妖怪の資料を見る”のではなく、関係ないものを見るのが、ミソだという。

●田中氏に質問 生み出すのに苦労したキャラクターは?
 『妖怪ウォッチ』シリーズに登場する数多くの妖怪をデザインする中で、苦労した挙句にボツになってしまったキャラクターも多数存在するのだという。「妖怪の不祥事案件を、具体的に形にするのが苦労します」と田中氏。

 ここで、なんとそうしたボツになった妖怪を、実際に見てみることに! デザイナー志望の学生たちに向けて、本邦初公開されることとなった。それがコチラ。

 素人目にはどのキャラクターもかわいらしく、何の問題もないように見えるが……この3体はボツになってしまったもの。

 田中氏は、ボツになった理由を披露した。まず、“ハン・ソデ”という妖怪がボツになった理由としては、“情報をいまひとつ伝えられていないデザインだったから”だそうだ。

 「冬でも半袖で元気に走り回る少年はこいつが取り付いているせい」という妖怪だった“ハン・ソデ”。だがデザインでは、「半袖を着た少年」の部分しか表現できておらず、ほかの情報を伝えられなかったと悔やむ田中氏。

 ここで日野氏が、「しかも、後ろに見える茶色の物体は……ウ○コにしか見えないですよね」と、さらにボツになった理由(?)を語ると、会場は笑いに包まれた。

 次のボツ妖怪は、“デキンちゃん”。「すでに名前の時点で、マズい感じがします」と日野氏。田中氏は、「出禁をくらっちゃうのは、こいつのせい」という妖怪で、出禁要素を“×”で表現しようとしたのだが、やはり表現しきれなかったという。

 そして最後は、“たとえバー”という妖怪だ。「例え話を延々としてしまうのはこいつのせい。という妖怪だったのだが、“例え話”というものを、絵でどうやって表現すればいいのか?」ということを、田中氏は非常に悩んだそうだ。
 結局“例え話”を絵で表現することができずに、ボツとなった。日野氏からは「頭の棒状の部分で、“バー”だけは表せたわけですね……」と、田中氏の健闘ぶりを称えてひと言。

 じつは、キャラクターデザイナーにオーダーが行く際、名前と細かい設定や、ときにはたった一行だけの設定が書かれたような状態で、「とにかく描いて」といったざっくりとした発注も、しばしば起こるのだという。

 ときには、「とにかくかわいい系を描いて。その中からおもしろそうなのを選ぶから」など、曖昧なオーダーが出てくることさえあるのだとか。こうした少ない情報から、魅力的なキャラクターを生み出すのも、デザイナーの腕の見せどころだ。

●形で個性が生まれたコマさんとジバニャン
 こうした難題(?)に挑んできた田中氏は、『妖怪ウォッチ』の超人気妖怪の“コマさん”のデザインを考え出したデザイナーである。今回は特別に、生みの親の田中氏自らが、“コマさん作成のポイント”を解説してくれることに!

 早速、日野氏に「ジバニャンに負けないくらいかわいいキャラクターが、どのようにして生まれたのか興味がある」とプレッシャー(?)をかけられた田中氏だったが、「ジバニャンよりもかわいいキャラを作るというよりも、ジバニャンの友だちのようなキャラクターがほしかった」と答えていた。

 ジバニャンは猫なので、犬の妖怪が友だちだったらいいなと思い、「犬で妖怪といえば狛犬だ。狛犬の妖怪ならば、きっとかわいくなるのでは?」と確信したという。

 そして田中氏は、ひとつ目のポイントとして顔の形を挙げる。

 ジバニャンはご存知のとおり“丸い頭の赤い”キャラクターだが、その隣に並ばせるためには、“同じく丸い形ではダメ”だと思ったという。だが、かわいいキャラクターは丸っこい。この悩ましさから、田中氏はあるとき、ジバニャンとのシルエットに差をつけつつも、丸い形に寄せたイメージを得るために……“丸を潰した”形をテーマに据えたという。

 「丸を潰したことによってコマさんの顔がとろん、と溶け落ちるような感じを生んでいる。キャラクターに個性が生まれた」と日野氏。

 田中氏も、この頭の形について「非常にコマさんの性格を現していると思います」と語る。ジバニャンとは目の形も違っており、目も丸を潰して横長にした感じになっている。だが丸いシルエットを、あえて潰すという発想は、なかなか勇気がいるところなのではないだろうか。

 続く、日野氏からの「どんな物からインスピレーションを得たのか?」と言う質問に対しては、“おまんじゅう”をイメージしたという田中氏。確かに柔らかくて、かわいいイメージだ。

●長野氏と田中氏に質問 キャラクターデザインをしていてもっとも嬉しかったことは?
 たくさんのキャラクターに姿を与える、キャラクターデザイナーという仕事。いったい、どんなことがそうした仕事の中で“もっとも嬉しかったこと”なのだろうか。

 この質問について、長野氏は「アニメや映画で名前を載せていただくのが、いまだにいちばん嬉しい」と語った。
 長野氏にはキャラクターデザインの仕事が“花形”の仕事だ、と思えたきっかけがあったという。ある日、アニメのクレジットに自分の名前が載ったのを見かけた友だちから、メールが来たことがあったというのだ。

 この話を聞いて日野氏も、「クレジットに名前が載るということは、大げさに言えば、歴史に名を残したと言うことになるからね」と語った。作品というものは、未来永劫に残っていくものなので、そこに名を刻む喜びもひとしおだという。

 一方、田中氏の“もっとも嬉しかったこと”は、「イベントなどで、お客さんが喜ぶ顔を直接見られること」だと語った。

 自身が深く関わっている『妖怪ウォッチ』シリーズについても、“人気がある”ということは何となく知っていたのだが、半信半疑だったそうだ。だが、イベントで実際にお客さんたちが、本当に喜んでくれている姿を見たときは感動したという。
 
 日野氏も、かつて『イナズマイレブン』を引っさげて、初めてイベントに出展した際の思い出を語った。当時は作品が、そこまで流行っていなかった時期だったので、イベントもたいへんだったが、半年後には作品が大人気になり、イベントにたくさんのお客さんたちが詰めかけるようになった。そこで、『イナズマイレブン』を楽しんで、キャラクターたちが人気になっている姿を見た時には、思わず涙がこぼれていたのだという。

 それだけ、キャラクターを生み出すという仕事は、お客さんの喜びと直結した仕事なのかもしれない。さて、続いて長野氏と田中氏には、そんなこれまで生み出してきたキャラクターたちで、お気に入りは? という質問へ。

 数多の人気キャラクターをデザインしてきた、ふたりが気に入っているキャラクターとは?

 長野氏のお気に入りは、意外(?)にも、『レイトン』シリーズより、冒険家のポーロ。『イナズマイレブン』シリーズからは、弱虫のディフェンス壁山塀吾郎。そして『妖怪ウォッチ』シリーズからは、自称妖怪執事のウィスパーの3体が挙げられた。

 長野氏によると、「スキのあるキャラクターというか、主人公の取り巻きの中でもデコボコしているというか、格好いい訳ではないが、世界観を形作る上で重要なキャラクターたち」という理由で、お気に入りなのだという。

 気になる田中氏のお気に入りは、『妖怪ウォッチ』シリーズから、コマさんとふぶき姫、そしてブリー隊長と、どんどろをチョイス。

 それぞれに、異なった方面のかわいらしさを、自分なりに表現できたのかなと思えるのが、選考理由だそうだ。特にコマさんは人気キャラクターだが、自分でも大好きということだった。

●長野氏と田中氏に質問 自分だけのこだわりのテクニックとは?
 レベルファイブを代表するデザイナーの長野氏と田中氏。セッションの最後には、そんな一流のデザイナーであるふたりがこだわっているテクニックについての質問が設けられた。デザイナー志望者にはたまらない質問だ。

 長野氏が明かしたテクニックは、「マジックなどの太い線で書いても判別できるような、キャラクター作りを心がけている」というものだった。

 「細かい線に頼ることで、その分情報量も多くなるし、ドットにした時省かれてしまって必要なかった。なんてことになるので、出来るだけ太い線だけで成立させられるよう心がける」のだという。こうした考え方は、「ほかのデザイン分野に関わるデザイナーも、知っておくとお得なのでは?」とも語っていた。

 ほかにも、天井や壁の模様などから、キャラクターのヒントを探したりもしているという、驚きの発想法を披露。


 一方、田中氏が語るキャラクターを描く際のテクニックは、「こいつはキモイやつだ!」、「恐いやつだ!」、などと“性格を想像しながら描く”ことだと明かした。

 先ほどの話題にも上がったが、デザイナーは、まだ名前だけしか決まっていないキャラクターを描かなくてはならないこともあるため、自分で性格を決め付けてしまうこともアリなのだそうだ。
 そうすることによって、そのキャラクター性が線にも表れると田中氏は語る。

 多くのファンの心に残り、愛される人気キャラクターを生み出してきた、長野氏と田中氏。限られた時間の中でのセッションということもあり、気づけばあっという間に終了の時刻に。
 
 会場に集まったデザイナーやクリエイターになることを夢見ている学生たちに向けて、長野氏と田中氏から、直接メッセージが贈られた。

 「せっかくクリエイターを目指されていると思いますので、デザインのプロになるつもりで、“がっついて”絵をたくさん描いて、自分の中のいろいろな引き出しを、広げていってください」と長野氏。

 「皆さんは、きっと絵を描くのが好きだと思うんです。その“好きな気持ち”を、忘れずに持っていてほしいです。どうしても、仕事になると忘れがちになってしまうので……その気持ちを抱きながら、技術を身につけていってください」と田中氏。

 「このふたりも、最初は皆さんと同じように、絵を描くことが仕事になる、と思って入社してきた人間です。いま、皆さんが置かれている状況と同じなんです。だから、皆さんもチャンスを掴んで、ぜひエンターテインメント業界に入って、活躍してほしいと思います」という日野氏のひと言で、今回のセッションは幕を下ろした。

 セッション参加者の中から、将来多くの人に愛されるキャラクターを生み出すデザイナーが生まれるかもしれない。

最終更新:4/18(火) 12:02
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